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81話
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お昼休みはいつもの場所でクロードとご飯です。今日は風もなく柔らかな陽射しが過ごしやすい。冬は間もなく訪れる。その前にご飯食べる場所を開拓しなくては、この安息の時間が確保できない。
クリードとの時間は穏やかで安寧で、本当に帝都が戦火に塗れるなど到底想像できなくて、前世など狂言で虚像であってほしいと思う。でも私は戦争がかなりの確率で引き起こされると思っている。そう思えば、この時間も貴重で尊くより一層大事にしたい。
「文化祭、楽しかったね」
私が笑えば、笑みを返してくれるクロードの笑顔を守りたい。彼も攻略対象者だから、死んでしまうかもしれない。
「はい、とても。一生忘れません」
そんな大袈裟なとも思うけど、でも……。
「私も一生忘れないと思うわ」
戦争なんて一人の力で何か出来るようなものでもないものを打破しなければなない。ふとした時にいつも不安に駆られる。怖くて怖くて堪らない。あれ、涙が出てくる。
「どうしたんですか?」
私の目が潤むのを見て、オロオロと慌てるクロード。
「楽しい事があると何か良くない事があるんじゃないかって不安に駆られる年頃なのよ」
中二病かと突っ込みたいほどの言い訳である。
「何があっても何時でもどこに居ても、僕がエリカ様を助けます」
決意を胸に拳を握った。そこにはもう自身がなさそうな顔をした少年はいない。力強く精悍な顔をしている青年がいる。
「私の望みはクロードが幸せなることだよ」
「じゃあ、僕の望みはエリカ様が幸せになることだ。慈悲深く優しすぎるから、もっと自身を大切にしてください」
それは約束出来そうもない。だって、この身を犠牲にでもしなきゃこの国を救えそうもないと思ってるから。それでも駄目かもしれないのに、なりふりなんて構ってられない。後ろめたさに視線を落とした。
「善処するわ。さぁ、もうすぐ昼休みが終わっちゃうわ。早く食べましょう」
クロードは私の肩を掴んで真剣な表情で私を見つめる。
「あなたが不幸なら、僕は幸せになろうとすら思えない。それを決して忘れないでください」
急いで食べていつものように離れて歩いて、教室に向かった。
対面の階下の渡り廊下にジークと一緒に戯れてるクリフ様を見つけて足を止めて、視線で追う。楽しそうにしてるのは嬉しいのに、寂しい心持ちになる。もう私のことは忘れてどうでもよくなったんじゃないかと、王女様に恋をしたのではないのかと。恋をするとこんなにも矛盾する気持ち湧き出て、自分が嫌になる。
「エリカ様?」
問われ振り返えると少し険しい表情のクロードが居て、視線をクリフ様に移動させた後と「お慕いしてるんすか?」と言った。
「…………そんなことあっていいはずがないのよ……」
好きだけど言葉にするには喉詰まって出てこなくて、何か言わなきゃ肯定すると同義で、否定したいけど嘘はつきたくなくてこんな言葉しか出てこない。
「少し具合が悪いから医務室へ行くわ」
クロードには先に教室に戻ってもらい、図書室へ向かう。こういう時は本を読んで気分転換しよう。読むのを決めるのに本の中身を検める。……授業が始まった後まで、面白くて暫く魅入ってしまった。もう、授業は残り半分だ。残りは保健室読もうと向かった。
ガラリと勢いよくドアを開けて、私は中にいる人物を見て絶句する。彼は瞠目した。
「どうした?具合が悪いのか?」
「いえ、あの……クリフ様は大丈夫ですか?」
「ジークと模擬戦をやってちょっとな。大したことないのに、ジーク以外の皆んなが顔を蒼くしてたから、居づらくなってな。こんな傷なんて放っておけばいずれ治るのにな」
クリフ様の腕には20cm以上の長さの創傷があり、幸い傷は浅く血はもう止まっていた。
「そうですか…」
「………………エリカは?」
決まりが悪くて俯いてもじもじしてしまう。
「サボりか?」
「はい……ごめんなさい」
「別に怒ってないから。じゃあ、これやるの手伝ってくれよ」
彼は笑みを浮かべながら傷を指さした。
綿をピンセットで取り、消毒液を着けて傷を消毒した。部屋には二人きりで、その静か過ぎる部屋では、近づいたお互いの息遣いまで聞こえていたたまれず、赤面しそうな顔を必死に堪え、視線は傷口に集中させた。一歩間違えれば、肌が触れそうな距離で緊張しながら慎重に包帯を巻いていく。
「なぁ、生徒会嫌なら辞めてもいいぞ」
「えっ!?」
顔を上げるとその距離僅か数センチで目が合い、もう赤面するのを我慢できなかった。
「元々、俺が強引に誘ったんだし、人手は足りてるから」
行きたくないけど、辞めたくない。でもそんな我儘なことは言えくて――私は気まずいなんて自分のことばかりで、クリフ様みたい気遣えなくて――また俯いてしまう。
「そんな顔をしなくていいんだよ。俺が悪いんだから。折角、他の皆んなと仲良くなって辞めたくないなら、休むでもいいからさ。別にやめてほしいなんて俺は思ってないから、エリカの思うようにしてくれれば良いから」
私は俯いたまま、首を縦に振った。気を遣わせて申し訳ない。笑わなきゃ!大丈夫、笑え!
「お心遣い痛み入ります。クリフ様に心配していただけるなんて幸せにです」
私はこないだ練習した人好きのする笑顔を浮かべた。
「そういう言い方は好きじゃない……」
でもクリフ様は笑ってくれなくて、なんだか酷く間違った気がしたけど、恋心を手放そうとしてるから近づきたくなくてそう言うしかなかった。
「申し訳ございません。包帯、終わりましたよ」
「ああ、ありがとう……こないだ、王宮主催の夜会に来てたか?」
なんだろう、空気が重い気がする。
「ええ」
「……いやいい。俺は授業戻るよ。今日は生徒会休んでいいから」
クリフ様は出ていった。
クリードとの時間は穏やかで安寧で、本当に帝都が戦火に塗れるなど到底想像できなくて、前世など狂言で虚像であってほしいと思う。でも私は戦争がかなりの確率で引き起こされると思っている。そう思えば、この時間も貴重で尊くより一層大事にしたい。
「文化祭、楽しかったね」
私が笑えば、笑みを返してくれるクロードの笑顔を守りたい。彼も攻略対象者だから、死んでしまうかもしれない。
「はい、とても。一生忘れません」
そんな大袈裟なとも思うけど、でも……。
「私も一生忘れないと思うわ」
戦争なんて一人の力で何か出来るようなものでもないものを打破しなければなない。ふとした時にいつも不安に駆られる。怖くて怖くて堪らない。あれ、涙が出てくる。
「どうしたんですか?」
私の目が潤むのを見て、オロオロと慌てるクロード。
「楽しい事があると何か良くない事があるんじゃないかって不安に駆られる年頃なのよ」
中二病かと突っ込みたいほどの言い訳である。
「何があっても何時でもどこに居ても、僕がエリカ様を助けます」
決意を胸に拳を握った。そこにはもう自身がなさそうな顔をした少年はいない。力強く精悍な顔をしている青年がいる。
「私の望みはクロードが幸せなることだよ」
「じゃあ、僕の望みはエリカ様が幸せになることだ。慈悲深く優しすぎるから、もっと自身を大切にしてください」
それは約束出来そうもない。だって、この身を犠牲にでもしなきゃこの国を救えそうもないと思ってるから。それでも駄目かもしれないのに、なりふりなんて構ってられない。後ろめたさに視線を落とした。
「善処するわ。さぁ、もうすぐ昼休みが終わっちゃうわ。早く食べましょう」
クロードは私の肩を掴んで真剣な表情で私を見つめる。
「あなたが不幸なら、僕は幸せになろうとすら思えない。それを決して忘れないでください」
急いで食べていつものように離れて歩いて、教室に向かった。
対面の階下の渡り廊下にジークと一緒に戯れてるクリフ様を見つけて足を止めて、視線で追う。楽しそうにしてるのは嬉しいのに、寂しい心持ちになる。もう私のことは忘れてどうでもよくなったんじゃないかと、王女様に恋をしたのではないのかと。恋をするとこんなにも矛盾する気持ち湧き出て、自分が嫌になる。
「エリカ様?」
問われ振り返えると少し険しい表情のクロードが居て、視線をクリフ様に移動させた後と「お慕いしてるんすか?」と言った。
「…………そんなことあっていいはずがないのよ……」
好きだけど言葉にするには喉詰まって出てこなくて、何か言わなきゃ肯定すると同義で、否定したいけど嘘はつきたくなくてこんな言葉しか出てこない。
「少し具合が悪いから医務室へ行くわ」
クロードには先に教室に戻ってもらい、図書室へ向かう。こういう時は本を読んで気分転換しよう。読むのを決めるのに本の中身を検める。……授業が始まった後まで、面白くて暫く魅入ってしまった。もう、授業は残り半分だ。残りは保健室読もうと向かった。
ガラリと勢いよくドアを開けて、私は中にいる人物を見て絶句する。彼は瞠目した。
「どうした?具合が悪いのか?」
「いえ、あの……クリフ様は大丈夫ですか?」
「ジークと模擬戦をやってちょっとな。大したことないのに、ジーク以外の皆んなが顔を蒼くしてたから、居づらくなってな。こんな傷なんて放っておけばいずれ治るのにな」
クリフ様の腕には20cm以上の長さの創傷があり、幸い傷は浅く血はもう止まっていた。
「そうですか…」
「………………エリカは?」
決まりが悪くて俯いてもじもじしてしまう。
「サボりか?」
「はい……ごめんなさい」
「別に怒ってないから。じゃあ、これやるの手伝ってくれよ」
彼は笑みを浮かべながら傷を指さした。
綿をピンセットで取り、消毒液を着けて傷を消毒した。部屋には二人きりで、その静か過ぎる部屋では、近づいたお互いの息遣いまで聞こえていたたまれず、赤面しそうな顔を必死に堪え、視線は傷口に集中させた。一歩間違えれば、肌が触れそうな距離で緊張しながら慎重に包帯を巻いていく。
「なぁ、生徒会嫌なら辞めてもいいぞ」
「えっ!?」
顔を上げるとその距離僅か数センチで目が合い、もう赤面するのを我慢できなかった。
「元々、俺が強引に誘ったんだし、人手は足りてるから」
行きたくないけど、辞めたくない。でもそんな我儘なことは言えくて――私は気まずいなんて自分のことばかりで、クリフ様みたい気遣えなくて――また俯いてしまう。
「そんな顔をしなくていいんだよ。俺が悪いんだから。折角、他の皆んなと仲良くなって辞めたくないなら、休むでもいいからさ。別にやめてほしいなんて俺は思ってないから、エリカの思うようにしてくれれば良いから」
私は俯いたまま、首を縦に振った。気を遣わせて申し訳ない。笑わなきゃ!大丈夫、笑え!
「お心遣い痛み入ります。クリフ様に心配していただけるなんて幸せにです」
私はこないだ練習した人好きのする笑顔を浮かべた。
「そういう言い方は好きじゃない……」
でもクリフ様は笑ってくれなくて、なんだか酷く間違った気がしたけど、恋心を手放そうとしてるから近づきたくなくてそう言うしかなかった。
「申し訳ございません。包帯、終わりましたよ」
「ああ、ありがとう……こないだ、王宮主催の夜会に来てたか?」
なんだろう、空気が重い気がする。
「ええ」
「……いやいい。俺は授業戻るよ。今日は生徒会休んでいいから」
クリフ様は出ていった。
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