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46話 平和を乱す使者が訪れる

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 今日からクロードはパン屋さんで働くと言っていた。日も登らない早朝から出かけていったみたい。私はまだ寝てたけど。

 アグネス様から手紙が来ていた。今度は幼馴染の婚約者と喧嘩したので、取り巻きのご令嬢と一緒に家に遊びに来る予定だ。恋人と喧嘩したことのない私が力になれるかわからないけど、頼りにされると頑張りたくなる。

 他にも夜会やらお茶会などの招待状もあった。社交場には誘拐事件以来、行っていない。国外追放になってもまだ一人で生きていく自信がないし、勉強に武術に時間を割きたいからだ。でも、独りは心細いな、不安しかない。知らない土地ならなおさらだよね。不安で曇った心を打ち払って、頰を両手で叩いて気合を入れた。




「嫌われてしまったわー」

 開口一番に涙目で仰るアグネス様。

 なんでも、仕事が上手くいってないようで少し落ち込んだ様子の婚約者様に、”気分転換に出掛けましょう”と言ったら、”女はいいよな、お気楽で”と言われて腹を立ててしまい、喧嘩したそうです。

「素直に謝ったら解決じゃないですか」

「でも女性を馬鹿にしていると思いませんか?」

 みんな頷いている。

「そうですけど、彼もアグネス様に甘えてらっしゃるんですよ」

「それが甘えてる態度には思えません」

「親しい人には、つい自分の気持ちをぶつけても許してくださると思って、甘えちゃうんです。意地を張って大好きな人と仲違いする方が時間の無駄だと思いますよ。アグネス様の女の度量を見せるときですよ。きっと婚約者様も仲直りしたいけど、意地を張ってるだけです。もし、アグネス様から謝っても横柄な態度を取るようでしたら、捨てて構わないと思いますよ」

 にっこり笑うと何故か皆、ちょっぴり怯んだ後で同意してくれた。

「そ、そうね」

 次の相談者はぱっつん前髪の黒髪の物静かなサリー子爵令嬢。
 こないだ初めて婚約者に会ったそうなんだけど、緊張して会話がが弾まなくて困ってるんだそう。

「共通の話題を探したらいかがでしょうか?」

「でも私口下手で……」

 サリー様は控えめでとっても可愛らしい紫色の瞳を、自信なさげに揺らした。

「では、相手の殿方の好きな物を話して貰えばいいんです」

「どうすれば話してくれんでしょうか?」

「趣味でもなんでもいいですから、興味が持てそうな事があれば、素直に教えてくださいって言えばいいんですよ。で話してくれたら肯定的な相槌を打てば良いんです」

 こんなにしたり顔で言っているが、私は彼氏いない歴=年齢です。恋愛経験?恋愛スキル?元婚約者に付き纏って、少年漫画のヒロインみたいな無駄に邪魔な豊満な胸を押し付けてただけですけど……う゛ぅ涙が、あぁ~消えてしまいたい……黒歴史です。皆さん、記憶をインシャライズしてください。そして、最初から人生やり直したい。おおっと脱線してしまいました。

「うーん……なんて言えばいいのかわかりませんわ」

 彼女は長い睫毛を伏せた。

「例えば、楽しそうだと思えば”面白いですね”とか、感心すれば”すごいです!”とか相手を肯定的する事を言ったらきっと沢山話してくれますよ。ファイトです」

 私は握りこぶしを作って、頑張れとアピールした。

「ありがとうございます」

 涙目で感謝されてとても嬉しかったけど、青春している皆が、ものすっごくスーパー超絶羨ましい。私も無事に乙女ゲームを生き残れたら、絶対婚約者とイチャラブすると固く誓った。

 次に美容関係の話になり、こないだ配った泥パックは好評でもっと欲しいと頼まれた。彼女達の母親も使って絶賛していたらしい。ついでにアグネス様に”ケンプソン公爵御用達”の使用許可も頂戴した。

 乙女達のトークは尽きることがなく、お茶会は夕暮れまで行われ夏季休暇中何度も開催された。因みに筋トレはきつくて5分でお開きとなった。他にもロベーヌ家に行ったり、エランちゃんと観劇を見たり、クロードお昼ご飯を一緒に作ってお庭で食べたり、ついでにお父様とお食事に出掛けてあげたりして、今までエリカに生まれてから一番楽しい夏季休暇を過ごした。ずっと侘びしさを抱えていた、がらんどうの心が満たされてく。もう私は独りじゃないし、淋しくない。




 夏季休暇、最終日。クロードはノヴァ家を出ていった。感傷的になったけど、別に永遠の別離でもないので笑顔で送り出した。”いつでも帰ってきて良いからね”って言ったら失笑されたのでいじけていたら、クロードに”僕がいなくなっても大人しくしててくださいね”とお説教されてしょんぼり肩を落とした。




 翌日学院に登校すると、クリフ殿下の金髪を発見してそれはもう忍者ばりに素早く身を隠す。何故か玄関を右往左往と彷徨いていた。私はこれ以上関わるつもりは無いので、目立つ髪を隠す為に、ほっかむりをして見つからない様に教室へ急いだ。

 教室にはクロードが居て、これまでの様に挨拶を交わす。うちから出てって少し心配してたけど、元気そうで安心した。カロリーナ達は周りに聞こえる声で、やれ有名リゾート地に行ったとか、どこそこの貴公子口説かれただのと自慢しあって、お互いをマウンティングをしている。然し、女子同士の格付けと素敵な男性のお眼鏡に適うかは関係しないと思う。実に時間の無駄だし、これみよがしに聞こえる大きな声で言っているのが、耳障りだ。




 今日は始業式だけで、授業は明日からだ。あとはもう家に帰るだけだ。教室で帰り支度をしていると、平和を乱す使者が訪れた。キャロラインだ。

「エリカ・ノヴァ様はいらっしゃいますか?」

 鈴の響かせる様な声で私の名前を読んだ。

 私は彼女を見たあと、咄嗟に顔を背け隠れたが一目瞭然であり、まるで無意味な行動に馬鹿丸出しであった。
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