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69話 アンネの仕業

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「こらっなにしてくれたの!?」
「あれは超貴重なチョコレートなんだよ。課金アイテムで、これを食べると好感度が低くてもエッチに持ち込めるすっごい効果の媚薬で発情してんじゃないかってぐらい勢い……ぐえっ」

 掴んでいたアンネの襟を締め上げた。

「ひどいよ……」

 言葉も無い……。

「全部食べた?」
「3分の1ぐらい……ってそんなのどうでもいいじゃない!!」
「なんだぁ、24時間イキまくりマラソンにはならなかったんだね。すっごく気持ちいいのにもったいなっ!」
「どうでもいいよ、そんなの!アリスに合わせる顔がないじゃない!」
「なんで?」
「なんでって、あなた貞操観念どうなってるの?」
「この世界では、複数も有りでしょ。いいじゃん、いいじゃん3P……乙女の夢だよね」

--コイツ……マジで頭ぶっ飛んでる。そんな乙女がいるか!

 アンネは、さらに腹黒系激甘アリスフォードと筋肉ムキムキの人当たりの良いワンコ系お兄さんなんてウラヤマなどと言っている。

「私はアリスが……好きなの。添い遂げようとおもってるんだから……」

 例えばチョコレートのせいであっても許してくれるわけ無い。私だったら、きっと許せないもん。他の女性がアリスにキスした想像をするだけで、けがわらしくて腸が煮えくり返る思いだ。

 罪深い咎人の私はアリスに会わせる顔がない。覆水盆に帰らず。アンネを責めてもエバンとの事は消えない。

「……私、帰るね」
「えっ」

 私は公爵邸に帰宅した。

 帰って来るなり、お父様の執務室へ向かった。ある決心を胸に。




「本当にいいのか?」

 日が昇る前から公爵邸の玄関で使用人一同が並び、辺境の修道院へ行く私を見送っている。そこにエバンはいない。昨日からから王都郊外に魔物の討伐を申し付けたから。帰って来るのは三日後だ。その頃には王都から大分離れているだろう。
 使用人達は急な出来事にとても困惑していた。しかし、明日、明後日頃にはアリスが帰ってくるから急いで出発しなければならなかった。

「はい。魔物の数も暴走も落ち着いてきましたし、王都も落ち着いてまいりました。手の届かかない辺境の援助へ行って貴族としての勤めを果たしたいのです」
「私は心配だ。よもや帰って来ぬわけではないな!?」
「ええ、落ち着けば……」

 落ち着いても帰らない。アリスとエバンの二人が結婚しても、二人に合わせる顔がないから。人が私以外の誰かと結婚する想像をして厚かましくも胸が痛むなんて。二人は誰か一人に愛されるべき人だ。私みたいな二人とも好きだなんて不埒な女なんか相応しくないよ……

「お父様……愛してます」

 お父様に抱きついた。馴染み深い肩とコロンの匂い……抱きしめている腕に力を込める。

「アルセナ、私も愛してる。世界で一番の私の宝物だ……なんだ、泣いてるのか?」
「今回の魔物襲来で、人はいつ死んでもおかしくないと学びました。だからお父様と再び会える保証はないのかもしれないとセンチメンタルになっているのかもしれません」
「ノブレス・オブリージュなどどうでもいい。行くな、お前より大切な者などないんだぞ」
「もう子供じゃないんです。可愛い子には旅をさせろというではありませんか」
「ああ、そうだな気をつけていけ」
「はい……失礼します」

    私はもうこのクリマスタ公爵邸には帰らない。今まで育った生家が遠ざかっていく。もう一生拝めないのに涙でぼやけてよく見えない。遠ざかって行く公爵邸を見えなくなるまで見ていた。




――あっここはアリスと一緒に行ったケーキ屋さん
――私の商店……最近やっと再開店したんだよね

   ここはお父様と一緒にくまのぬいぐるみを探した通りだわ。この王都には至る所に思い出が詰まっていて、胸がギリギリと締め付けられた。
   アンネの家も通り過ぎる。彼女にはチョコレートの説明もせず食べさせた罰としてしばらく経ってから手紙を書くことにしよう。私はまだアンネに怒っている。だから大いに心配するがいいと思った。

   最初の街に着いた。もう太陽が沈みかけていて、東の空に一番星が輝いている。今晩はこの街に泊まる予定だ。街一番の宿の一番上等な部屋に泊まった。

    早々に布団に入ったけど寝付けなかった。こんな寝れない夜はスマホが恋しい。ゆーtubeが見たい。

    気付くと朝になっていた。
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