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ソフトクリーム
しおりを挟む彼女とは、もう何年会っていないのだろう。
計算してみるけど、最後に会ったのがいつなのか、正確には思い出せない。
たしか社会人になる前で、一緒に温泉に行った時だったと思う。
寒い季節で、露天風呂で川を眺めたのを覚えている。
アルバムを見ればわかるかもしれない。
スマホの容量を節約するために入れたアルバムアプリを、久しぶりに開く。
社会人になってからはストレージをお金で買うようになって、もうずいぶんと開いてもいなかった。
一番古い、彼女の名前のフォルダ。
温泉旅行は正しかったようで、一番新しい写真は、旅館の部屋で2人で寝転がりながら、自撮りをしているものだった。
日付は2021年3月。
私は彼女と、3年半以上会っていなかった。
彼女との出会いは高校の部活だった。
弓道部に入った私が彼女と仲良くなったのは、いつだっただろう。
正確なことは覚えていないが、私たちは自然と友達になった。
私たちはたぶん、興味のないものへの冷たさが似ていた。
好きと嫌いのラインがはっきりしていて、誰にでも優しくなんかしなかった。
あまり真面目ではなかったので、みんなが自主練をしている時間、2人で帰った。
田舎のショッピングセンターで、100円のソフトクリームを食べた。
何がそんなに面白かったのか覚えていないが、2人でソフトクリームを持ちながら、おなかを抱えて笑った。
笑いすぎて笑いすぎて、食べるのが追い付かなくて、溶けたソフトクリームで汚れた手を見てまた笑った。
死んだ母の話をしたのは、後にも先にも彼女だけだった。
たしか春の大会で、選手だった私と応援だった彼女は、他校の立ちを見ながら、初めてお互いの家のことを話した。
彼女はお父さんの病気のことを。私は亡くなった母のことを。
観客席から少し離れた木の下に立って、お互いにただ前を向きながら淡々と話した。
泣きはしなかった。お互いに。
不思議なことに、私は彼女の話の内容を、終わった直後から覚えていなかった。
初めて見る他人の地獄の一部に、目を向けたくなかったのかもしれない。
高校を卒業してからは、年に1,2回会った。
大学生の私と、社会人の彼女。
彼女は会うたびに煙草を吸う回数が増えていて、毎回私の知らない男の話をした。
大学で初めて彼氏ができた。
彼氏と付き合って1年ほど経った時、彼女と2人で旅行に行った。
それが彼女と会った最後だった。
車の中でも、食事中でも、部屋に帰ってからも、学生時代のように笑いあっていたのに。
一瞬だけ、彼氏との旅行のほうが楽しいな、なんて思った。
それから1年ほどして、結婚の報告をした。
インスタに写真は上げたけど、彼女には直接伝えたくて、チャットを送った。
「おめでとう、お祝いを渡したいから夏の帰省で会おう。」
日程を調整したが、私が帰省したタイミングで連絡がきた。
「急に仕事が入って、休みがずれた。また今度」
彼女とのチャットはそれきりだ。
私は何となく察してしまった。
結婚した私に、彼女は会いたくないんだろう、と。
ぼんやりと思う。
私たちはたぶん、この先一生会わない。
インスタは繋がっている。お互いのストーリーは見ている。
それでも、もう彼女から連絡が来ることはないんだろうと思っているし、私も連絡しないだろう。
私はもう何年もソフトクリームを食べていない、なんてことはない。
何回か食べたし、どれもあのときのソフトクリームより美味しかった。
でも、ソフトクリームは面白くないから、おなかを抱えて笑うなんてことできない。
手が汚れるのは嫌だから、溶けないように早めに食べる。
会いたいと、生きていればそれでいい、を定期的に繰り返す。
きっと一生。
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