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24.『策士』は雨上がりと共に⑨
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彼らが食している間、仕分けしなかった場所についてのメモを見せてもらっていた。学園来てから六年経つが、知らないスポットがまだまだあると分かり、目を通すだけでも発見があった。街の情報も多く、先ほどいたバルシュミーデ通りのこともあったが、学園内にもまだ見るべき場所があると分かり、今日一日だけでかなり多くの発見があった気がする。地図と照らし合わせながらエミリオと話していると、
「――来たか。」
窓の外に馬車が来たようだった。
「時間になったらここに来るよう伝えていたんだ。」
既に一息ついており空になったティーカップを置いたフィフスがそう説明した。――二人ともひと口が大きかったのか、すでに食べ終わっている。味わうというよりも腹を満たしているだけのように見えたが、馬車の時間を気にして急いでいたのかもしれない。
大事なメモを無くさないよう慎重に片付け、身支度を整え席を立つ。――個人情報が載っているものだ。フィフスがなにか落としたものはないか周囲を確かめていると、左翼がその紙袋を手に外へ出ていく。カランカランと乾いた鐘の音が響く。
「本日はありがとうございました。皆さま、またお気軽にお立ち寄りくださいませ」
店主が退出しようとする我々の元へやってきて丁寧に礼をした。
「ご馳走さまでした! またお父様のお話など教えてくださると嬉しいです」
「いい場所だった。また来よう」
「――恐悦至極にございます」
二人の王子から礼を言われ、静かに喜びを表していた。その様子にフィフスも満足そうだった。店を出ると、馬車の前で左翼が待機していた。支払いを済ませたフィフスが最後に店の外に出ると、何かに気付いたのか足を止め、道の先を見ていた。
「あれはなんだ……?」
少し険しい表情をしているようだった。つられて視線の先を見ると、
「――猫?」
「猫ですか」
「野良猫、でしょうか」
「黒猫ですが、――それ以外に何かありますか?」
一斉に声が上がる。道の真ん中に黒猫がおり、こちらに顔をむけて座っているようだった。長いしっぽを何度か揺らすと、横に道があるようでそちらに姿を消していった。
「猫? ――あれが? 小さくないか?」
一斉にひとつの答えをもらうも、納得いかないようだった。小さいというが、普通のサイズに見えるので、弟も侍従たちも不思議そうにフィフスを見た。
「……まさか西方天のとこにいるのが猫だと思ってないよな」
ずっと口を開かなかった左翼の声が静かに届く。
「猫じゃないのか? アイツも猫だって……。え? まさか違うのか?」
「……あの人が飼ってるのは虎だ」
「本当に……? おい、なんで今まで教えてくれなかったんだ?」
愕然とするフィフスに、彼がなんで驚いていたのか明らかになる。虎と猫を間違えていたとは。――実物は見たことがないがどのようなものかは知っている。
「望外のバカ……。サイズが全然違だろ」
「……道理で、猫とやらを飼ってるやつらの話がよくわからなかった訳だ。」
「――西方天さま、って虎を飼ってるんですか?」
生き物が好きな弟には嬉しい話題だったようだ。
「あぁ、どうやらそうらしい……。本人が猫だと言ってたし、周りの人間もそう言っていたから、あれが猫だと思っていた……。」
衝撃の事実に打ちのめされているようで、元気が少なくなっているようだった。
「フィフスは見たことがないのですか? ――聖都にいないとか?」
「私は動物には嫌われやすくてな。――あれくらいのサイズの動物は逃げてしまうから見たことがない。ペットを飼っているやつはいるから聖都にも動物はいるはずだ。」
「――昨日狼を野犬と言っていましたが、もしかして犬も狼も見たことが……?」
アイベルがおずおずと尋ねた。
「狼はあるが、――あれがそうだったか。街中にいるからあれが犬かと思った。」
動物に嫌われる人というのは聞いたことがあるが、ここまで避けられてしまうものなのか。アイベルもさすがになんと言葉をかけるべきか詰まっているようだった。
「……猫に九生というが、まさか本当なのか。」
「迷信で聞いたことがありますが、猫もそんなに長生きしないと思いますよ」
末弟の心配そうな眼差しがフィフスに向けられる。既に姿を消している猫の後を追っているのか、先ほどいた場所をまだ見ている。
「そうか。」
「……あの、良かったら後で博物館へ行きませんか? このあたりの動物について展示があるので、――本物じゃないですけど動物が見れますよ。詳しく見れないかもですが、一通りみることはできるかと!」
これから向かうスーシェン教会の後、どこへ行くか先ほど店内で話したのだが、行きたい場所として博物館と歌劇場が上がったのだが、博物館は時間が足りないということで一度却下になった。歌劇場は上演時間が決まっているので気軽に立ち寄れないと断っており、その時は姉たちと合流するかと話が一度まとまっていた。
「いいのか? ――なら時間内でどれだけ見れるか楽しみだな。」
「兄さまもいいですよね? ――知りたい事を学べる機会は貴重です。あそこなら僕も兄さまも行ったことがあるので、きっと案内はできると思います!」
張り切った様子の弟に、気を取り直したようでフィフスに少し笑みが戻った。
「気遣いに感謝する。――案内は頼んだ。」
「はい!」
キールが馬車の扉を開け、次の目的地へ向かうことにした。
「――来たか。」
窓の外に馬車が来たようだった。
「時間になったらここに来るよう伝えていたんだ。」
既に一息ついており空になったティーカップを置いたフィフスがそう説明した。――二人ともひと口が大きかったのか、すでに食べ終わっている。味わうというよりも腹を満たしているだけのように見えたが、馬車の時間を気にして急いでいたのかもしれない。
大事なメモを無くさないよう慎重に片付け、身支度を整え席を立つ。――個人情報が載っているものだ。フィフスがなにか落としたものはないか周囲を確かめていると、左翼がその紙袋を手に外へ出ていく。カランカランと乾いた鐘の音が響く。
「本日はありがとうございました。皆さま、またお気軽にお立ち寄りくださいませ」
店主が退出しようとする我々の元へやってきて丁寧に礼をした。
「ご馳走さまでした! またお父様のお話など教えてくださると嬉しいです」
「いい場所だった。また来よう」
「――恐悦至極にございます」
二人の王子から礼を言われ、静かに喜びを表していた。その様子にフィフスも満足そうだった。店を出ると、馬車の前で左翼が待機していた。支払いを済ませたフィフスが最後に店の外に出ると、何かに気付いたのか足を止め、道の先を見ていた。
「あれはなんだ……?」
少し険しい表情をしているようだった。つられて視線の先を見ると、
「――猫?」
「猫ですか」
「野良猫、でしょうか」
「黒猫ですが、――それ以外に何かありますか?」
一斉に声が上がる。道の真ん中に黒猫がおり、こちらに顔をむけて座っているようだった。長いしっぽを何度か揺らすと、横に道があるようでそちらに姿を消していった。
「猫? ――あれが? 小さくないか?」
一斉にひとつの答えをもらうも、納得いかないようだった。小さいというが、普通のサイズに見えるので、弟も侍従たちも不思議そうにフィフスを見た。
「……まさか西方天のとこにいるのが猫だと思ってないよな」
ずっと口を開かなかった左翼の声が静かに届く。
「猫じゃないのか? アイツも猫だって……。え? まさか違うのか?」
「……あの人が飼ってるのは虎だ」
「本当に……? おい、なんで今まで教えてくれなかったんだ?」
愕然とするフィフスに、彼がなんで驚いていたのか明らかになる。虎と猫を間違えていたとは。――実物は見たことがないがどのようなものかは知っている。
「望外のバカ……。サイズが全然違だろ」
「……道理で、猫とやらを飼ってるやつらの話がよくわからなかった訳だ。」
「――西方天さま、って虎を飼ってるんですか?」
生き物が好きな弟には嬉しい話題だったようだ。
「あぁ、どうやらそうらしい……。本人が猫だと言ってたし、周りの人間もそう言っていたから、あれが猫だと思っていた……。」
衝撃の事実に打ちのめされているようで、元気が少なくなっているようだった。
「フィフスは見たことがないのですか? ――聖都にいないとか?」
「私は動物には嫌われやすくてな。――あれくらいのサイズの動物は逃げてしまうから見たことがない。ペットを飼っているやつはいるから聖都にも動物はいるはずだ。」
「――昨日狼を野犬と言っていましたが、もしかして犬も狼も見たことが……?」
アイベルがおずおずと尋ねた。
「狼はあるが、――あれがそうだったか。街中にいるからあれが犬かと思った。」
動物に嫌われる人というのは聞いたことがあるが、ここまで避けられてしまうものなのか。アイベルもさすがになんと言葉をかけるべきか詰まっているようだった。
「……猫に九生というが、まさか本当なのか。」
「迷信で聞いたことがありますが、猫もそんなに長生きしないと思いますよ」
末弟の心配そうな眼差しがフィフスに向けられる。既に姿を消している猫の後を追っているのか、先ほどいた場所をまだ見ている。
「そうか。」
「……あの、良かったら後で博物館へ行きませんか? このあたりの動物について展示があるので、――本物じゃないですけど動物が見れますよ。詳しく見れないかもですが、一通りみることはできるかと!」
これから向かうスーシェン教会の後、どこへ行くか先ほど店内で話したのだが、行きたい場所として博物館と歌劇場が上がったのだが、博物館は時間が足りないということで一度却下になった。歌劇場は上演時間が決まっているので気軽に立ち寄れないと断っており、その時は姉たちと合流するかと話が一度まとまっていた。
「いいのか? ――なら時間内でどれだけ見れるか楽しみだな。」
「兄さまもいいですよね? ――知りたい事を学べる機会は貴重です。あそこなら僕も兄さまも行ったことがあるので、きっと案内はできると思います!」
張り切った様子の弟に、気を取り直したようでフィフスに少し笑みが戻った。
「気遣いに感謝する。――案内は頼んだ。」
「はい!」
キールが馬車の扉を開け、次の目的地へ向かうことにした。
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