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第二部

51話 【閑話】ルーラの婚約者【sideルーフェン】

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「ルーラ。そのレオガルドってまさか、エリシオンの王子のか?」

「そうですよ?」

 信じ難い事実を軽々と言われてしまった。

「なんでお前、レオガルド殿下と知り合いなんだ……?」

「レオガルド様、お忍びでよく冒険者ギルドに依頼を出してるですよ。ルーラは結構レオガルド様の依頼をこなすので仲良くなりました!」

 とんでもないところでコネを持ってるなあ、こいつ。
 あ、なんかちょっと読めて来たぞ。
 こいつ、王族の話を聞いて来たな?

「そういう事か。あのなルーラ、レオガルド様は王族で、エリシオン王国の為に後継者が必須なんだよ。だから婚約者も複数いて良い事になってるし、その後の結婚も正妃の他に側妃を数名設けても良いことになってるんだ。けど、それは王族以外では許されない、駄目な事なんだよ」

「えー、それ本当なんですかルーフェン兄様?」

「本当だよ。貴族以下の一般人は婚約者も結婚相手も一人だけって決まってるんだ。だからリフィル姉様も結婚前にダリアスの野郎に婚約破棄されたろ?」

「あッ! もしかしてこんやくはきって、こんやくをやめるって事だったですか!?」

「……やっぱりそこからか。ルーラ、てっきりお前は理解してるもんだと思ったいたんだが」

「へへへ。ルーラ、よくわかってませんでした! ただダリアスって嫌な奴に束縛されててかわいそうだった姉様が帰って来れるようになったって事ぐらいしか!」

 うーん、なるほど。
 ルーラはただでさえ馬鹿なのに、俺の魔法で10年間異次元世界で成長したから余計に一般常識に疎くなっちまったのかもなあ……。
 俺も貴族マナーとかは疎い方だけど。

「そっかあー。じゃあルーラ、おみあいしないです!」

「いや、別にしてもいいだろ。打算的な事じゃなくて、ルーラと波長の合う男もいるかもしれないだろ? アルカードの事なんか気にしないで、自分の合う奴との結婚を考えりゃいいんだよ。お前、見た目だけはリフィル姉様に負けじ劣らじで可愛いしな」

「ダメですよ。だってさっきルーフェン兄様、ダメって言いました」

「はあ? ルーラ、何を言ってんだお前は」

「だってルーフェン兄様、こんやくをたくさんしてもいいのは王族だけって言いました。そうするとルーラ、王族じゃないからできません」

「だーかーら! 別に一人だけと婚約すりゃあいいんだよ! せっかくフリック父様もこんなに釣書を集めてくれたんだし、お前みたいな馬鹿な妹でも貰ってくれる奇特なお貴族様がいるかもしれねえだろ!?」

「だからはこっちのセリフです! ルーラはもうこんやくしゃ、いるです!」

 ……?

 駄目だな。

 ついにフリックお父様だけじゃなく、俺にもこいつの言葉が理解できなくなって来た。
 
「あのなルーラ。お前も良い年頃なんだ。そろそろまともな彼氏を作らなくちゃ駄目だと俺もお父様も心配してるんだよ。だから釣書をだな」

「かれしいます。こんやくしゃいます」

「はあ。だからなルーラ。婚約者ってのはそんな軽く生まれるもんじゃなくてな? まずは家柄だの背景だのをお互いによく知り合ってな」

「ルーラたくさんお話ししました! そんでもってレオガルド様、ルーラをこんやくしゃにしてくれるって言ってくれました!」

 ……?
 俺は笑顔でお父様の方を見てみる。
 うん。お父様も笑顔で俺を見ている。
 俺たちの耳がおかしくなったのか?

 と、ジェスチャーしてみる。

 お父様もそうだ、と頷く。

「馬鹿な事言ってんじゃねえよルーラ。そんなワケあるか」

「そんなワケあります! レオガルド様、ルーラの事好きだって言ってくれましたもん! だから将来けっこんしよーって言ってくれましたもん!」

 はは。
 そんな馬鹿な話があるわけ……。
 いやいや、落ち着け俺。もう一回冷静になって再確認だ。

「ルーラちょっと待て。確認だが、レオガルド殿下とお前が婚約者だって言いたいのか? アルカード家の末娘であるルーラ・アルカードのお前と?」

「そうですよ?」

「……」

 しばしの沈黙。

「……んな、な、なんだとルーラァ!? んな話は聞いてねえぞ!?」

「当たり前です。言ってないですもん」

「なんで言わねえんだ!?」

「レオガルド様に言うなって言われてたです!」

 俺とフリックお父様は互いに顔を見合わせて少しばかり考え込んだ。
 ルーラの言ってる事が本当なら、それは大変な事になる。
 アルカードの親戚に王族ができるって事なんだから。

「……お父様、どう思う?」

「うむ……。半信半疑だ……」

「だよな……。ルーラの事だ。何か勘違いしてる可能性も……」

「ありうる……だけどもし事実なら……」

「いや、だったら王家から何かしらアプローチがあってもいいはずだ。ルーラの奴、揶揄われてるだけの可能性も……」

「それもありうる……もしくは騙されているか……」

 俺とフリックお父様が小声でひそひそ話していると、ルーラの奴が不機嫌そうに口を膨らませた。

「聞こえてます! ルーラ、耳もいいんですよ! 騙されてなんかいないですッ!」

「わ、悪い。ただあまりに突拍子もなくてな。それに婚約関係ならうちからも挨拶に行かなくちゃまずいし、陛下や殿下の方からも何か連絡があってもいいはずだしさ」

「だから、まだ言うなって言われてたんです! でも今日こんな話になっちゃったから言わなくちゃならなくなっちゃったんです!」

 確かにそれはそうだが……。

 いや、しかし俄かには信じられん。あの誠実で愚直そうなレオガルド殿下がルーラを見初めた、なんて。

「そこまで言うならわかったです! 明日、王都へ行ってレオガルド様を呼んで来ますッ!」

「え!? あ、ちょ、ルーラ!?」

「ぷんぷんッ!」

 ルーラは口にも出してる通りぷんぷんしながら、部屋から出て行ってしまった。

 レオガルド様を呼んでくるって……そんな軽く呼べるわけが……。


 ――そう、俺とお父様が思っていたその翌日。

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