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第一部

28話 力になりたい

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「ん……ここ、は……?」

 私が目覚めて一番初めに見たのは、見知らぬ天井。

「リフィルさんッ!」

 同時にシュバルツ様の声が響いた。

「大丈夫かリフィルさん! 急に倒れたから私は……」

 私はどうやら木製のベッドで寝かされていたようだ。そのすぐ近くにある備え付けの簡易チェアーに腰掛けていたシュバルツ様が、必死な形相で私の顔色を窺っている。

「はい……私はもう平気ですわ。それよりここは一体……?」

 辺りを見回してみると、木造の宿らしき一室に私とシュバルツ様は二人きりでいるようだ。

「ここは王都にある小さな宿だよ。倒れたキミをここまで運んできたんだ」

「そうでしたのね。……ごめんなさい、シュバルツ様。せっかくの楽しかったデートの終わりにあんな……」

 私はセシリアに突っかかっていった事を思い返して、彼に謝る。

 私が我慢していれば、余計ないざこざを起こさずに済んだのだ。

「いや、リフィルさん。むしろお礼を言わせて欲しい。ありがとう」

「え……?」

「キミは私の為に……いや、私の弟の為に怒ってくれた。本当に嬉しかったんだ。やはり私の目に狂いはなかったのだと安心したよ」

「シュバルツ様の……目、ですの……?」

「そ、その……キミの事を……す、好きになって良かった、という意味で、だな……」

 照れながらそう話すシュバルツ様の言葉を聞いて、改めて私はエリシオンタワーでの出来事を思い返す。

 そして私の顔はすぐにまた真っ赤になってしまったので、慌てて布団を頭から被った。

「……もう、シュバルツ様ったら」

 でも、嬉しい。

 大好き。

「す、すまない。私も少し浮かれてしまっているようだ」

 シュバルツ様だけじゃない。

 浮かれているのは私も一緒だもの。

 ずっとふわふわしてる。

「……ねえ、シュバルツ様」

 私は被った布団の中から尋ねる。

「うん? なんだい?」

「ちょっと、もうちょっと、私の近くに寄ってくださらない?」

「ふむ……? このくらいだろうか?」

 そう言って近づいてきた彼を確認して、

「ん」

「!」

 私は素早く彼の唇へとさっとキスをした。

「リ、リフィルさん……」

「恥ずかしい事を言われたお返し、ですわ」

「……はは。リフィルさん、それはお返しというよりご褒美、の間違いだよ」

 そう言って彼は私の髪をそっと撫でてくれた。

 そして私と彼は再び見つめ合う。

「シュバルツ様……」

「リフィルさん……」

 お互いの吐息がわかるほどに顔と顔が近づくと、

「リフィル姉様ぁ!」

「リフィル姉様……」

「「ひゃあああッ!?」」

 いつの間にか部屋の中にいたルーラとルーフェンが不意に声を掛けてきた事に驚き、私とシュバルツ様は飛び上がるように距離を取った。

「リフィル姉様ぁー、ルーラ、すっごく心配しましたですよ……! でもすっかり元気そうで一安心ですッ!」

「リフィル姉様、もう平気なのか?」

 ルーラとルーフェンも私の身を案じてくれている。

「二人とも、ありがとうございますわ」

「えっへん! どういたしましてですッ!」

「いや、ルーラ。お前は何もしてないだろ……」

 二人のそんなやりとりに、私とシュバルツ様は思わず笑みをこぼす。

「とりあえず姉様とシュバルツ殿に言っておきたい事がある」

 ルーフェンが真剣な顔をして、私たちを見る。

「相思相愛なのは結構だが、人前ではあまりやりすぎるな。その……見ててこっちが小っ恥ずかしい」

「「……~~ッッッ!!!」」

 全部見られてたッ!

 と、思い私とシュバルツ様は同時に耳まで真っ赤にして、顔を伏せた。

「えー? そうですか? ルーラ、嬉しいですよ? リフィル姉様、シュバルツ様とチューしてる時の顔、すっごい幸せそうですもんッー!」

「「~~~~ッッッッ!?!?」」

 ああッ! 穴があったら入りたい、とはこの事を言うのですわね、と人生で初めて思った。

「……ォホン。まあそれはいいとして、姉様。ちょっと頬を見せてみろ」

「え? 頬?」

 ルーフェンは私のいるベッドの近くまで寄り、私の顔をじっと見た。

「……火傷は軽度だが、跡になりそうだな」

 そう言われればそうだ。

 私はセシリアの魔法で頬を焼かれたんだった。

 それとドレスも……。

 さっきまではシュバルツ様と二人でドキドキしてて全然気にならなかったのに、思い出してきたらだんだん痛みを感じ始めてきた。

「すまないルーフェン殿、ルーラ殿。あなたがたの大事な家族であるリフィルさんをちゃんと守れなくて」

 シュバルツ様が頭を深く下げて謝罪した。

「私に……私にもっと力があれば……っ」

 そう言って悔しがるシュバルツ様を見たルーフェンは、

「いや、シュバルツ殿のせいではないさ。全部、ダリアスのクソッタレのせいだ」

「そうだとしても、私にルーフェン殿みたいな力があれば、と思うと……」

 シュバルツ様はまた悔しそうな顔をして、塞ぎ込んでしまった。

 なんとか彼の力になりたい。

 きっと今の彼なら、新しい上位魔法を覚える事ができるはずなのだ。

 何故なら、私からたくさんの【魔力提供マジックサーバー】を受け取っているのだから。

 私はシュバルツ様とデートを始めた昼間から、ずっと、彼へ【魔力提供マジックサーバー】の魔法を密かに施している。

 【魔力提供マジックサーバー】は、私から離れていても、私がその対象を視界に収め、見つめてさえいればその効力を発揮し、持続し続ける。

 しかしそれよりも、直接対象者へと触れる事でより大きな魔力を相手に授けられる、と以前にテロメア様に教えてもらっていた。

 この魔法の『不思議』なところは、提供する私が持つ魔力よりも大きな魔力を与え続けられる、という点だ。

 何故そういう事になるのか、全くもって理解はできないが、テロメア様曰く、全ての魔法における『不思議』とは、人の想いの結晶なんだよ、と言っていた。

 つまり私の想いが……愛が、彼を強くする、と言っても過言ではないのである。

 だから、離れてダリアス様を支持していた頃よりも、ずっとずっと早い速度でシュバルツ様には大量の魔力が注がれている。

 直接触れた手や……唇から、何度も。

 と、私は思い返してまた顔を真っ赤にしてしまう。

「ん!? リフィル姉様、また頬に熱を持ってやがるな? やはり魔法の傷はしつけぇな! おいルーラ、氷水をもらってきてくれッ!」

「わかりましたですッ!」


 あ、いや……これは私の妄想が引き起こしただけなんですけれど……。



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