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第一部

11話 ただいま

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「皆様、大旦那様がお目覚めになられました」

 そう言ってメイドさんに車椅子で連れられてきたのは、

「お父様ッ!!」

 私が声を上げる。

「うんうん、おかえり、リフィル。お前が元気そうで良かったよ」

 お父様は相変わらず優しい笑顔で私を迎えてくれた。

「みんなの楽しそうな声が響いてきて、やっと起きたよ。全く、起こしてくれたら良かったのに」

 お父様は少し淋しそうに言った。

「何言ってんだ、お父様。身体に触るだろうから寝かしておいたんだよ。もう起きて平気なのか?」

 ルーフェンが尋ねると、

「うむ、ありがとうルーフェン。今日はだいぶ体調も良い」

 そんな会話のやりとりを聞いて私は不安感を覚える。

「え……お、お父様、どこかお身体の具合が悪いのですか……?」

「うむ、まぁな……」

 そんな……。確かになんだか妙にやつれてしまっているし、お父様、もしかして重いご病気に……!?

「ね、ねえルーフェン。お父様は……」

「ああ、お父様は……病気だ」

 ルーフェンは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「ど、どんなご病気ですの!? どうして教えてくれなかったんですの!? 隠しておくなんて水くさいんじゃないんですの!?」

 私が必死な剣幕で問い詰めると、

「いや、リフィル。お前は気にしなくて良い事だ」

「そんな! 嫌ですわッ! 私だけ知らないなんて……ッ! だって、ルーフェンだけじゃなくルーラも知っているのでしょう!?」

「うん、ルーラも知ってるー。だけどルーラ、馬鹿だからあんまりよくわかんないですッ!」

「よくわかんないって……ルーラ! 今は真面目な話なんですのよ!? 私たちのお父様に何かあったら私は……ッ」

 私が涙目になりながら声を荒げていると、

「フリックさんったら、最近ずーっと頑張りすぎちゃって、満身創痍なのよ、リフィルちゃん」

 と、ニコニコ顔でお母様が言った。

「え?」

 私が困惑顔をすると、

「フリックさん、最近またあっちの方が元気になっちゃったのよぉ。母様はおかげで、肌艶がなんだかよくなっちゃったけどね! んっふふー」

「は?」

「リフィルちゃん、わからない? フリックさん……貴女の父様はね? まるで盛りのついた犬猫みたいに毎晩母様を――」

「「やめろ、お母様リアナ!」」

 お父様とルーフェンが同時に声を荒げた。

「あらー? どうして? 父様と母様が仲良しなのは家族みんな嬉しい事でしょう?」

「そうだけど、それをこんな、メイドさんたちもたくさんいる場所で言うもんじゃないだろ……」

「うむ……ルーフェンの言う通りだリアナ。そういうのは貴族婦人たるもの、伏せておくものだ。それにリフィルにはまだ少し刺激が強いかもしれんし」

 と、ルーフェンとお父様が恥ずかしげに言った。

「……もしかして、ただそれをし過ぎたから疲れてるってだけの話、だったりするんですの?」

「……そうだよ。だから別にお父様は、下半身が動かせない以外別に健康体だ」

「ある意味、フリックさんの下半身は一部だけすーっごい元気だけどねー!」

「「お母様リアナッ!!」」

 呆れた。

 ただの性欲お化けなだけ、という話だったわけだ。

 全く、お父様もお母様も……。

 それにルーラもルーフェンも……。

 みんな、みんな……。

「リ、リフィルちゃん!?」

「ど、どうしたリフィル!?」

「姉様!? なんで泣いてるんです!?」

 お母様とお父様とルーラがびっくりした顔で私に近寄る。

 私は自然と涙が溢れて。

「……ひっく……ふぐ……ぐす」

 感情が次々に込み上げてきて、涙が止まらなくなっていた。

「ご、ごめんなさいリフィルちゃん! 母様ったらリフィルちゃんの苦労の事を考えてあげずにこんな馬鹿な事言って……」

「すまないリフィル! 驚かすつもりはなかったんだ。ただ父様はお前にはまだ刺激の強い話だと思って言うべきではないと……」

「姉様、もしかしてルーラが勝手に大人になっちゃったの、不味かったです!? 姉様より身長もおっぱいも大きくなっちゃったから……」

 違う。

 みんながこの一年ですっごい変わってしまっているのに、実は全然変わっていなかった事に凄く、凄く安心したんですの。

 ダリアス様のお屋敷にいたこの一年、楽しいことなんてちっともなかった。笑った事なんて、多分一度もない。

 シュバルツ様にお会いできる夜会の日以外で、心温まる日なんて全くなかったんですの。

 それがここにはあった。

 みんな変わってしまったけれど、でもやっぱり変わらない家族の絆がここにはしっかりあって……。

 シュバルツ様に助けて頂けなければ、下手をすれば私は今日、どうなっていたんだろう。

 それを想像した上で、私の大好きなアルカードに私は無事帰って来れたのだと思ったら、急に涙が溢れて。

「ほれ、これで拭いとけ」

 ルーフェンがぶっきらぼうに、ハンカチを私へと差し出す。

 私は涙を拭って、

「お父様、お母様、ルーフェン、ルーラ。それにメイドさんたち、みんな……」

 顔を上げて。


「ただいま、ですわ」




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