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第三章 王国を包む闇編
83話 隠された狙い
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さて、そろそろ限界だな。
「もうここまでにしようか。国家反逆者、ザイン・アレクサンドルスッ!」
私が一際声を荒げてそう言うと、同時に突然会議室の扉が勢いよく開かれ、大勢の衛兵がばたばたと駆け込んできた。
「な、なんだ? この騒ぎを聞きつけたのか? まあいい、ちょうど良いタイミングだ! 衛兵ども、その無礼な女を拘束し、ただちに投獄しろ! 後に私自ら死刑にしてくれるッ!」
そう喚き散らすザイン宰相の思惑とは裏腹に、衛兵たちが取り囲んだのはザイン宰相の方であった。
「な、なんだ……? 何をしている貴様ら!?」
すると、数名の衛兵はザイン宰相の腕を掴み、その腕に手枷状の魔導具を素早く取り付けた。
「これは魔力封印の紋様式が施された手錠!? き、貴様ら何故こんな事を……ッ!?」
「ザイン宰相。あなたを魔力乱用罪の現行犯、および税金の横領、違法薬物所持、使用。また国璽の不正利用による国家転覆罪の疑いで拘束させてもらう」
「なッ!? 何を言っておるのだ!? 私はだな――」
驚愕の表情をして反論するザイン宰相であったが、それはその場にいた多くの宮廷官や諸侯たちもであった。
私は半ば理解していた上でこの行動を起こしていたが、こうまで想定通りだと中々に笑えてくる。
とはいえ、私もあのクソ虫の言葉には本気で腹が立ったから、ついいつも通りの口調になってしまったがな。
「デレア! 大丈夫だったか!?」
そう言って私のもとへと駆け込んで来たのは、青い髪色の彼。グラン様であった。
「グラン様!」
彼の安否も気に病んでいたので、無事な姿を見れて私はホッと安堵する。
「よかった……特に暴行を受けたりしていないんだね」
「ええ、かろうじて」
「本当に焦ったよ。様子を窺っていたら、会議室の中からあり得ないほどの高濃度の魔力を感じさせられた時は……」
「ごめんなさい。でもちゃんと来てくれましたよね、グラン様は」
「それはもちろん私が言い出した事だからね。この賢人会議を利用してザイン宰相の罪を公の場に晒し出す事は。とはいえ、キミからの合図が中々なかったからずっと冷や汗が止まらなかったよ」
グラン様は本当にその額に汗を浮かばせている。
心配をかせさせてしまったみたいだ。
「……陛下」
「うむ」
グラン様はマグナクルス国王陛下の方を見て声を掛けると、陛下は悟った表情で静かに頷いた。
「皆の者、驚かせてすまなかった。此度の賢人会議の真の目的は二つあった。一つはザイン宰相の断罪だ」
それから陛下はその場でゆっくりと説明を始めた。
私はこの事の成り行きを始めから全て理解していた。
それはグラン様に教えてもらっていたからだ。
賢人会議の前々日、リアンナ長官と飲み明かしてしまった翌日にグラン様と出会ったあの時に――。
●○●○●
「――とすると、ザイン宰相が国璽の更新を提案した方だったのですか?」
「ああ。国璽を更新して今度はザイン宰相も開く事ができる金庫にする予定だったみたいだ。そして彼こそが全ての黒幕で間違いないだろう」
賢人会議の前々日の早朝。
私はようやく会えたグラン様から、王宮が抱えている闇について教えてもらっていた。
何年も前からザイン宰相については黒い噂が絶えなかったが、それらについて全てマグナクルス国王陛下は黙認し続けていた。
いつの間にやら陛下はザイン宰相の傀儡となり、立場は逆転。実質、この国のトップはザイン宰相となっていた。
ザイン宰相は自らの都合の良いように国の法をじわじわと作り替えるだけに留まらず、王家や国税も着服し、みるみる私腹を肥やしていった。
それを極秘に調査し続けていたのがグラン様だ。
「私とナーベル法官はザイン宰相をあの地位から引き摺り下ろす為の証拠集めに奔走していた。そしてようやく今回の賢人会議にて、事を起こす為の材料が揃ったんだ」
ザイン宰相が密かに行なっていた犯罪の証拠を集めたグラン様とナーベル法官は、彼を捕まえる準備を進めた。
「それだけじゃなくキミの今の話を聞いて全て確信に変わったよ。やはりシエルは……シエル殿下は、ザイン宰相が原因であのような目に遭わされていたんだと」
私はリフェイラ邸にいたリビアという魔力変異症を患っている少女の話をした。
そしてその少女にデイブ魔導卿が関与している事も。
「やっぱりデイブ魔導卿が他国の密偵者だったんですね」
「ああ。中々尻尾を出さなかったがキミの話を聞いてようやく確信した。デイブ魔導卿は随分昔からザイン派の宮廷魔導師だ。隣国のガルトラント公国に情報を流していたのはザイン宰相で間違いない」
「そしてガルトラントの非人道的実験結果が……」
「ああ、そうだ。……シエル殿下だ」
グラン様は魔力変異症の原因まではわからずともアレが人為的に起こされた事までを突き止めてくれた。
――魔力変異症は人為的に引き起こされたもの。
それは私がグラン様に伝えたのではなく、グラン様から言い出したのである。
「魔力変異症が自然発生する原因まではいまだにわからないとしても、人為的に引き起こすにはその病を患っている者の混合精製魔力を微量ずつ他者の体内へ直接流せば良い、なんて普通は考え付かないです」
「そうだ。そもそも罹患者が極小数でしかありえない難病であるし、魔力変異症を患った人間がまともに魔力を精製できるかどうかすらわからないからね。しかしそれも含めた非人道的な人体実験をガルトラントでは密かに進めていたようだ」
グラン様が言うには、魔力変異症を患っている者にしかできない混合精製された魔力を他者の体内に流し込む事で、魔力変異症は意図的に誘発させる事が可能になるというのである。
「ただでさえ弱っている人間に鞭打ってそんな魔力を練らせるなんて……!」
その話を聞いた時、私は怒りで震えていた。
「おそらくその実験体の元となっているのがリビアという少女だ。そしてリビアから魔力変異症を意図的に引き起こされたのがシエルだろう」
グラン様はシエル殿下が何者からかその混合精製魔力を体内に注入された事を知ったのだ。
そしてこれに気がつく事ができたのである。
何故グラン様がそれに気づく事ができたのか、その時は教えてもらえなかった。
そもそもカイン先生の話によれば、シエル殿下は突然魔力変異症になったと本人が言っているくらいなので、当人にも記憶がないはずなのである。
「とにかく今回の賢人会議にて私はザイン宰相を捕える。その為にデレア、キミに協力してもらいたい」
今回の賢人会議にてナーベル法官が現状の国王陛下の問題点を皆の前で列挙する事で、わざとザイン宰相とぶつからせると言った。
その時のザイン宰相の言葉を端から端まで記憶、記録してもらいたいというのがグラン様から頼まれた事、だったのである。
●○●○●
――結果として、私はザイン宰相の言葉に我慢ができずにあのような状況になってしまったが、ザイン宰相を強制的に拘束する良い理由ができたというわけだ。
どうやらザイン宰相はガルトラントが開発した違法なドラッグによって自身の魔力を強制的に高めていたらしく、それがあの異様なまでの闇魔力の正体だったらしい。
その現場も確認できた為、ああしてグラン様の部下の衛兵たちは一斉に乗り込んできたというわけである。
「ザイン宰相は少々やりすぎた。ゆえに余はグランに全てを託し、そして彼奴を拘束させてもらう事に決めた」
会議室にて。
ザイン宰相が連れ去られた後、それまで寡黙だったマグナクルス国王陛下がザイン宰相の罪について次々と言葉を紡いでいく。
国税や法を好き勝手にコントロールしていた事。
他国に情報を流していた事。
非人道的な行為に身を染めていた事。
「しかしながら陛下、それはザイン宰相だけが問題なわけではないですよね? 陛下もそれをわかっていながら長年黙認していたのですよね?」
ガウレル徴税官がもっともな疑問をぶつけた。
「……そうだ。だからこそ、この賢人会議の真の目的である二つ目。それは余が全責任を負い、王の座から退位する事である」
「もうここまでにしようか。国家反逆者、ザイン・アレクサンドルスッ!」
私が一際声を荒げてそう言うと、同時に突然会議室の扉が勢いよく開かれ、大勢の衛兵がばたばたと駆け込んできた。
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「な、なんだ……? 何をしている貴様ら!?」
すると、数名の衛兵はザイン宰相の腕を掴み、その腕に手枷状の魔導具を素早く取り付けた。
「これは魔力封印の紋様式が施された手錠!? き、貴様ら何故こんな事を……ッ!?」
「ザイン宰相。あなたを魔力乱用罪の現行犯、および税金の横領、違法薬物所持、使用。また国璽の不正利用による国家転覆罪の疑いで拘束させてもらう」
「なッ!? 何を言っておるのだ!? 私はだな――」
驚愕の表情をして反論するザイン宰相であったが、それはその場にいた多くの宮廷官や諸侯たちもであった。
私は半ば理解していた上でこの行動を起こしていたが、こうまで想定通りだと中々に笑えてくる。
とはいえ、私もあのクソ虫の言葉には本気で腹が立ったから、ついいつも通りの口調になってしまったがな。
「デレア! 大丈夫だったか!?」
そう言って私のもとへと駆け込んで来たのは、青い髪色の彼。グラン様であった。
「グラン様!」
彼の安否も気に病んでいたので、無事な姿を見れて私はホッと安堵する。
「よかった……特に暴行を受けたりしていないんだね」
「ええ、かろうじて」
「本当に焦ったよ。様子を窺っていたら、会議室の中からあり得ないほどの高濃度の魔力を感じさせられた時は……」
「ごめんなさい。でもちゃんと来てくれましたよね、グラン様は」
「それはもちろん私が言い出した事だからね。この賢人会議を利用してザイン宰相の罪を公の場に晒し出す事は。とはいえ、キミからの合図が中々なかったからずっと冷や汗が止まらなかったよ」
グラン様は本当にその額に汗を浮かばせている。
心配をかせさせてしまったみたいだ。
「……陛下」
「うむ」
グラン様はマグナクルス国王陛下の方を見て声を掛けると、陛下は悟った表情で静かに頷いた。
「皆の者、驚かせてすまなかった。此度の賢人会議の真の目的は二つあった。一つはザイン宰相の断罪だ」
それから陛下はその場でゆっくりと説明を始めた。
私はこの事の成り行きを始めから全て理解していた。
それはグラン様に教えてもらっていたからだ。
賢人会議の前々日、リアンナ長官と飲み明かしてしまった翌日にグラン様と出会ったあの時に――。
●○●○●
「――とすると、ザイン宰相が国璽の更新を提案した方だったのですか?」
「ああ。国璽を更新して今度はザイン宰相も開く事ができる金庫にする予定だったみたいだ。そして彼こそが全ての黒幕で間違いないだろう」
賢人会議の前々日の早朝。
私はようやく会えたグラン様から、王宮が抱えている闇について教えてもらっていた。
何年も前からザイン宰相については黒い噂が絶えなかったが、それらについて全てマグナクルス国王陛下は黙認し続けていた。
いつの間にやら陛下はザイン宰相の傀儡となり、立場は逆転。実質、この国のトップはザイン宰相となっていた。
ザイン宰相は自らの都合の良いように国の法をじわじわと作り替えるだけに留まらず、王家や国税も着服し、みるみる私腹を肥やしていった。
それを極秘に調査し続けていたのがグラン様だ。
「私とナーベル法官はザイン宰相をあの地位から引き摺り下ろす為の証拠集めに奔走していた。そしてようやく今回の賢人会議にて、事を起こす為の材料が揃ったんだ」
ザイン宰相が密かに行なっていた犯罪の証拠を集めたグラン様とナーベル法官は、彼を捕まえる準備を進めた。
「それだけじゃなくキミの今の話を聞いて全て確信に変わったよ。やはりシエルは……シエル殿下は、ザイン宰相が原因であのような目に遭わされていたんだと」
私はリフェイラ邸にいたリビアという魔力変異症を患っている少女の話をした。
そしてその少女にデイブ魔導卿が関与している事も。
「やっぱりデイブ魔導卿が他国の密偵者だったんですね」
「ああ。中々尻尾を出さなかったがキミの話を聞いてようやく確信した。デイブ魔導卿は随分昔からザイン派の宮廷魔導師だ。隣国のガルトラント公国に情報を流していたのはザイン宰相で間違いない」
「そしてガルトラントの非人道的実験結果が……」
「ああ、そうだ。……シエル殿下だ」
グラン様は魔力変異症の原因まではわからずともアレが人為的に起こされた事までを突き止めてくれた。
――魔力変異症は人為的に引き起こされたもの。
それは私がグラン様に伝えたのではなく、グラン様から言い出したのである。
「魔力変異症が自然発生する原因まではいまだにわからないとしても、人為的に引き起こすにはその病を患っている者の混合精製魔力を微量ずつ他者の体内へ直接流せば良い、なんて普通は考え付かないです」
「そうだ。そもそも罹患者が極小数でしかありえない難病であるし、魔力変異症を患った人間がまともに魔力を精製できるかどうかすらわからないからね。しかしそれも含めた非人道的な人体実験をガルトラントでは密かに進めていたようだ」
グラン様が言うには、魔力変異症を患っている者にしかできない混合精製された魔力を他者の体内に流し込む事で、魔力変異症は意図的に誘発させる事が可能になるというのである。
「ただでさえ弱っている人間に鞭打ってそんな魔力を練らせるなんて……!」
その話を聞いた時、私は怒りで震えていた。
「おそらくその実験体の元となっているのがリビアという少女だ。そしてリビアから魔力変異症を意図的に引き起こされたのがシエルだろう」
グラン様はシエル殿下が何者からかその混合精製魔力を体内に注入された事を知ったのだ。
そしてこれに気がつく事ができたのである。
何故グラン様がそれに気づく事ができたのか、その時は教えてもらえなかった。
そもそもカイン先生の話によれば、シエル殿下は突然魔力変異症になったと本人が言っているくらいなので、当人にも記憶がないはずなのである。
「とにかく今回の賢人会議にて私はザイン宰相を捕える。その為にデレア、キミに協力してもらいたい」
今回の賢人会議にてナーベル法官が現状の国王陛下の問題点を皆の前で列挙する事で、わざとザイン宰相とぶつからせると言った。
その時のザイン宰相の言葉を端から端まで記憶、記録してもらいたいというのがグラン様から頼まれた事、だったのである。
●○●○●
――結果として、私はザイン宰相の言葉に我慢ができずにあのような状況になってしまったが、ザイン宰相を強制的に拘束する良い理由ができたというわけだ。
どうやらザイン宰相はガルトラントが開発した違法なドラッグによって自身の魔力を強制的に高めていたらしく、それがあの異様なまでの闇魔力の正体だったらしい。
その現場も確認できた為、ああしてグラン様の部下の衛兵たちは一斉に乗り込んできたというわけである。
「ザイン宰相は少々やりすぎた。ゆえに余はグランに全てを託し、そして彼奴を拘束させてもらう事に決めた」
会議室にて。
ザイン宰相が連れ去られた後、それまで寡黙だったマグナクルス国王陛下がザイン宰相の罪について次々と言葉を紡いでいく。
国税や法を好き勝手にコントロールしていた事。
他国に情報を流していた事。
非人道的な行為に身を染めていた事。
「しかしながら陛下、それはザイン宰相だけが問題なわけではないですよね? 陛下もそれをわかっていながら長年黙認していたのですよね?」
ガウレル徴税官がもっともな疑問をぶつけた。
「……そうだ。だからこそ、この賢人会議の真の目的である二つ目。それは余が全責任を負い、王の座から退位する事である」
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