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第一章 大舞踏会編
35話 ベンズ家の在り方
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エレイン様との会話を終え、私は再び応接室へと戻る。
「デレアくんおかえり。その……うちの愚息が本当に申し訳なかった」
ザルバ卿が私を見るなりすぐに頭を下げてきたが、私は「もう気にしないでください」と軽く流した。
「それで……母上の事についてだが……」
「うむ。デレア、エレイン様のお身体はお前から見てどんな具合だ?」
ザルバ卿とギランお父様が私の目を見て尋ねてきた。
「……ザルバ卿。お母様は今年で六十五歳になられるんでしたよね」
「うむ」
「お母様に起きている現象の原因までを完全に解明するのはこの私でもすぐには無理です。その為には最上級光魔法が扱える魔導師の魔法が必要です」
「そう、なのか……」
「ですが、お母様に起きている症状は呪いなどではないと断言します」
「何故だねデレアくん?」
「確かに山奥や光届かぬ大森林、もしくは戦争の跡地や廃墟では魔族や魔物といった人外的な存在がいて、その中でも悪魔や死霊、総じて悪霊と呼ばれる種の魔物や魔族は呪いの魔法を人間に掛けてくる事はあります」
「うむ。母上はごく最近まで一級魔導師としてそのような地に呼ばれ、赴く事があった」
「ですが、呪いは必ず魔力を含みます。呪われた対象からは僅かながらでも魔力の残滓を感じますし、そもそも呪いの類いでこのような症状が起こるというのは私も知りません」
「そうなのだ。私も呪いにしては少し変だと思っていた」
「これは呪いなどではなく、れっきとした病気です」
「病気……だが母上はずっと健康で、今も具合が悪そうにしている様子など見た事がないが……」
「これは目には見えない頭の病気。いわゆる認知症と呼ばれるものです」
「「に、にんち……しょう?」」
ザルバ卿とギランお父様が聞いたこともない単語に目を丸くする。
認知症。
様々な要因や原因によって脳が委縮し、正常な働きをしなくなってしまい、記憶障害や記憶を忘れさせてしまう病気だ。
少し前までは死ぬ前に人はボケる、と呼ばれていたこの症状は、昨今進んできた魔導医学の見解などにより脳が委縮したり、もしくは脳内の障害によって引き起こされる記憶障害の病気として位置づけられ、数年前その名称も正式に認知症と名付けられた。
だが魔導医学の周知は実に遅い。
魔導医学師たちはそういう知識を本などにして残しはするが、積極的に国民に推し広めようとはしないし、貴族魔法学院の授業でもあまりそういう項目は重視しない。
「で、では母上は認知症という病気で呪いなどではない、と。それならばその認知症とやらを治せば母上は元に戻るのだな!?」
「……いいえ。残念ながらザルバ卿。認知症を回復させる手立ては現状の魔導医学では不可能です」
「そ、そんな……」
「脳の萎縮の多くは加齢と共に引き起こされ、そしてその速度は人それぞれですが確実に進行していきます。委縮してしまった脳を元に戻す事は、例え最上級の治癒魔法をもってしても不可能なのです」
「こ、このままその認知症が進むとどうなってしまうんだね!?」
「……」
私はチラリ、とギランお父様の方を見やる。
私が酷な事を告げなければならないという事をすぐに察したギランお父様は、それでも伝えよと言わんばかりにこくんと頷く。
「徐々に忘れていく内容が悪化していきます。最初は今くらいの出来事を繰り返していき、その頻度が増えるでしょう。そのうちに言葉や物もどんどんと忘れ、いずれは身内の顔や名前すらも忘れていき、最終的には人としての会話や生活はほぼ不可能となります」
「そんな……私たち家族の事も忘れてしまうと言うのか……!?」
「あくまで最終的には、です」
「そんな……う、うう……母上……」
ザルバ卿は涙を溢して崩れ落ちた。
「わ、私も全く知らないわけではない……認知症という言葉は初めて聞いたが、つまりはボケてしまう、という事なのだろう?」
「……そう、です」
「人はボケたらおしまいだ。あんなみじめな思いを母上にさせるくらいならいっそ……」
「ザルバ卿。何を?」
「いっそ、人としてのまま殺してあげた方が良いのではないか……。私は知っている。ボケてしまったご老人が地面に落ちている汚物すらも口に入れてしまう事を。そのような愚行、母上にして欲しくない!」
ザルバ卿は涙ながらに近くにあった騎士の剣をその手に取った。
「落ち着かれよ、ザルバ卿!」
ギランお父様がザルバ卿を止める。
「離してくれギラン卿! 私は……私には耐えられない! あの誇り高かった貴婦人の母上が、人では無くなってしまう事が耐えられそうにないのだ!」
彼の気持ちはわからないでもない。
だが、私にはそれを容易に認める事はできない。
「ザルバ卿。認知症は確かに進行性の病気ですが、その速度は人や状況によって様々です。幸い、今のエレイン様はまだ認知症の始まりの段階ゆえ、さほど会話が困難というレベルではないでしょう」
「そうだが、やがてはデレアくんの言った通りになってしまうのだろう!? そんな姿を見るなんて私には……!」
「落ち着いてくださいザルバ卿。あくまで脳の萎縮が進行し続けた場合の最終段階では、の話です。進行の遅延に対する案が全くないわけではありません。それよりも注視しなくてはならないのは今後のエレイン様の行動管理についてです」
「な、なんだって? デレアくん、それはどういう意味だ?」
「エレイン様の行動には物取りと常同行動が見られています。これは認知症の中でもおそらく前頭側頭型認知症と呼ばれる難病です。このタイプの認知症は進行がゆっくりですが、性格の変化が見られやすいです」
「だ、だから母上は突然怒り出したりしたのか……」
「はい。そしてこのタイプの認知症にはルーチン化療法が適切と言われております」
「ルーチン化療法?」
「毎日行われる内容を生活状況において無理のない流れを作っておくという事です。朝起きたらまずどうするか、次に食事はどう摂るか、その次は……と言った具合に決められた流れをエレイン様に覚えさせ、日課にしてその通りに行動させるのです」
認知症にも様々なタイプがあるが、前頭側頭型認知症の場合、突然新しい事が起きてしまうとパニックを起こし感情が抑えられなくなる事が多い。
だからこそ生活において無理のない、それでいて決まったリズム、一連の流れを意図的に作ってあげなければいけない。
「そして彼女の行動には必ず誰かが監視してあげてください。周徊と言って、ずっと同じ行動を続けていつまでも繰り返してしまう事があります」
「だから真夜中に徘徊していたりしたのか……」
「脳がそれをルーチン化として記憶してしまうとその行動を一生続けてしまいます。それこそ足が折れようが続けようとします。だからこそ、誰かの監視のもと、おかしな周徊行動からはゆっくり切り離してあげるといったケアが必要です」
私は他にも今知っている前頭側頭型認知症に対する緩和ケア方法を提示し、生活スタイルの見直しをなるべく細かく説明した。
「それとエレイン様は日常的に魔力を使われていますか?」
「いや……ほとんど使わせていない。さっきの騒動で本当に久しぶりに母上の魔法を見せてもらったくらいだ」
「そうでしたか。なら、最後に最も効果のある方法の提示なのですが、魔力の精製を毎日行なう事です。エレイン様の魔力はまだご健在でしたから」
「魔力の精製を毎日……? だ、だが魔法の使用は身体に負担をかけるものでは……」
「はい。魔法まで使ってしまうと体力の消耗が激しいので魔力の具現化までで良いです。それを毎日、約十分間程、必ず決まった時間、午前と午後で行うのが良いかと。精製量はおよそ0.20mg/MHぐらいが適量でしょう」
「そ、それは何故かね?」
「魔力というものは体内神経系に深く密接に関与します。そして体内において最も神経が集中しているのが中枢神経のある脳と脊髄です。魔力を扱う時、体内の神経系は全て活性化します。これにより脳の血行も促進され認知症においては有効な自己ケアになるのではと言われております」
「そうなのか……つまり、魔力を扱わせるとその認知症とやらの進行が遅れるかもしれない、と」
「はい。あくまで可能性ですが、何もしないよりは良いはずです」
「……そう、か」
私の話を聞き終えて、立ち上がっていたザルバ卿はゆっくりソファーへと腰を降ろした。
「……ザルバ卿。どうか早まった行動だけはしないで欲しいです」
「そう、だな。うむ……すまない、デレアくん、ギラン卿。取り乱してしまった」
「いえ。ザルバ卿の心中お察ししております」
それから私たちはベンズ家の侍女たちにお茶菓子と紅茶を淹れてもらい、応接室で少しくつろがせてもらった。
私はザルバ卿に認知症のケアに関する方法を再度書面にまとめ、それをベンズ家の侍女たちにも周知してもらうようお願いしておいた。
私とギランお父様が帰る頃にはすっかり日が暮れてしまっていた。
「ありがとう、デレアくん。ギラン卿。今回の事、深く感謝するよ」
「いえ、結局私は何もできませんでした」
「そんな事はない。キミの知識が私たち家族の在り方を見直させてくれたのだから。これを感謝せずに何に感謝すればいい。うちの息子との事も重ねて謝らせてくれ。デレアくんには重ね重ね迷惑をかけてしまい本当にすまなかった」
「……いえ。それでは」
私とギランお父様は会釈をして、馬車に乗り込みベンズ家を後にした。
後で聞いた話だが、ザルバ卿の奥様のフィアナ様は両親が貴族であるにもかかわらず、極めて低い魔力しか持ち合わせておらず、ベンズ家の中でもいつも卑屈にしていたそうだ。
そんなフィアナ様を姑のエレイン様はいつも気にかけてくれていたのだとか。
去り際の馬車の中、ベンズ家のお屋敷の二階の窓からエレイン様が私たちを見下ろしていたので、私は馬車から腕を伸ばして目一杯、エレイン様に向けて手を振った。
彼女は優しく微笑んでいた。
「デレアくんおかえり。その……うちの愚息が本当に申し訳なかった」
ザルバ卿が私を見るなりすぐに頭を下げてきたが、私は「もう気にしないでください」と軽く流した。
「それで……母上の事についてだが……」
「うむ。デレア、エレイン様のお身体はお前から見てどんな具合だ?」
ザルバ卿とギランお父様が私の目を見て尋ねてきた。
「……ザルバ卿。お母様は今年で六十五歳になられるんでしたよね」
「うむ」
「お母様に起きている現象の原因までを完全に解明するのはこの私でもすぐには無理です。その為には最上級光魔法が扱える魔導師の魔法が必要です」
「そう、なのか……」
「ですが、お母様に起きている症状は呪いなどではないと断言します」
「何故だねデレアくん?」
「確かに山奥や光届かぬ大森林、もしくは戦争の跡地や廃墟では魔族や魔物といった人外的な存在がいて、その中でも悪魔や死霊、総じて悪霊と呼ばれる種の魔物や魔族は呪いの魔法を人間に掛けてくる事はあります」
「うむ。母上はごく最近まで一級魔導師としてそのような地に呼ばれ、赴く事があった」
「ですが、呪いは必ず魔力を含みます。呪われた対象からは僅かながらでも魔力の残滓を感じますし、そもそも呪いの類いでこのような症状が起こるというのは私も知りません」
「そうなのだ。私も呪いにしては少し変だと思っていた」
「これは呪いなどではなく、れっきとした病気です」
「病気……だが母上はずっと健康で、今も具合が悪そうにしている様子など見た事がないが……」
「これは目には見えない頭の病気。いわゆる認知症と呼ばれるものです」
「「に、にんち……しょう?」」
ザルバ卿とギランお父様が聞いたこともない単語に目を丸くする。
認知症。
様々な要因や原因によって脳が委縮し、正常な働きをしなくなってしまい、記憶障害や記憶を忘れさせてしまう病気だ。
少し前までは死ぬ前に人はボケる、と呼ばれていたこの症状は、昨今進んできた魔導医学の見解などにより脳が委縮したり、もしくは脳内の障害によって引き起こされる記憶障害の病気として位置づけられ、数年前その名称も正式に認知症と名付けられた。
だが魔導医学の周知は実に遅い。
魔導医学師たちはそういう知識を本などにして残しはするが、積極的に国民に推し広めようとはしないし、貴族魔法学院の授業でもあまりそういう項目は重視しない。
「で、では母上は認知症という病気で呪いなどではない、と。それならばその認知症とやらを治せば母上は元に戻るのだな!?」
「……いいえ。残念ながらザルバ卿。認知症を回復させる手立ては現状の魔導医学では不可能です」
「そ、そんな……」
「脳の萎縮の多くは加齢と共に引き起こされ、そしてその速度は人それぞれですが確実に進行していきます。委縮してしまった脳を元に戻す事は、例え最上級の治癒魔法をもってしても不可能なのです」
「こ、このままその認知症が進むとどうなってしまうんだね!?」
「……」
私はチラリ、とギランお父様の方を見やる。
私が酷な事を告げなければならないという事をすぐに察したギランお父様は、それでも伝えよと言わんばかりにこくんと頷く。
「徐々に忘れていく内容が悪化していきます。最初は今くらいの出来事を繰り返していき、その頻度が増えるでしょう。そのうちに言葉や物もどんどんと忘れ、いずれは身内の顔や名前すらも忘れていき、最終的には人としての会話や生活はほぼ不可能となります」
「そんな……私たち家族の事も忘れてしまうと言うのか……!?」
「あくまで最終的には、です」
「そんな……う、うう……母上……」
ザルバ卿は涙を溢して崩れ落ちた。
「わ、私も全く知らないわけではない……認知症という言葉は初めて聞いたが、つまりはボケてしまう、という事なのだろう?」
「……そう、です」
「人はボケたらおしまいだ。あんなみじめな思いを母上にさせるくらいならいっそ……」
「ザルバ卿。何を?」
「いっそ、人としてのまま殺してあげた方が良いのではないか……。私は知っている。ボケてしまったご老人が地面に落ちている汚物すらも口に入れてしまう事を。そのような愚行、母上にして欲しくない!」
ザルバ卿は涙ながらに近くにあった騎士の剣をその手に取った。
「落ち着かれよ、ザルバ卿!」
ギランお父様がザルバ卿を止める。
「離してくれギラン卿! 私は……私には耐えられない! あの誇り高かった貴婦人の母上が、人では無くなってしまう事が耐えられそうにないのだ!」
彼の気持ちはわからないでもない。
だが、私にはそれを容易に認める事はできない。
「ザルバ卿。認知症は確かに進行性の病気ですが、その速度は人や状況によって様々です。幸い、今のエレイン様はまだ認知症の始まりの段階ゆえ、さほど会話が困難というレベルではないでしょう」
「そうだが、やがてはデレアくんの言った通りになってしまうのだろう!? そんな姿を見るなんて私には……!」
「落ち着いてくださいザルバ卿。あくまで脳の萎縮が進行し続けた場合の最終段階では、の話です。進行の遅延に対する案が全くないわけではありません。それよりも注視しなくてはならないのは今後のエレイン様の行動管理についてです」
「な、なんだって? デレアくん、それはどういう意味だ?」
「エレイン様の行動には物取りと常同行動が見られています。これは認知症の中でもおそらく前頭側頭型認知症と呼ばれる難病です。このタイプの認知症は進行がゆっくりですが、性格の変化が見られやすいです」
「だ、だから母上は突然怒り出したりしたのか……」
「はい。そしてこのタイプの認知症にはルーチン化療法が適切と言われております」
「ルーチン化療法?」
「毎日行われる内容を生活状況において無理のない流れを作っておくという事です。朝起きたらまずどうするか、次に食事はどう摂るか、その次は……と言った具合に決められた流れをエレイン様に覚えさせ、日課にしてその通りに行動させるのです」
認知症にも様々なタイプがあるが、前頭側頭型認知症の場合、突然新しい事が起きてしまうとパニックを起こし感情が抑えられなくなる事が多い。
だからこそ生活において無理のない、それでいて決まったリズム、一連の流れを意図的に作ってあげなければいけない。
「そして彼女の行動には必ず誰かが監視してあげてください。周徊と言って、ずっと同じ行動を続けていつまでも繰り返してしまう事があります」
「だから真夜中に徘徊していたりしたのか……」
「脳がそれをルーチン化として記憶してしまうとその行動を一生続けてしまいます。それこそ足が折れようが続けようとします。だからこそ、誰かの監視のもと、おかしな周徊行動からはゆっくり切り離してあげるといったケアが必要です」
私は他にも今知っている前頭側頭型認知症に対する緩和ケア方法を提示し、生活スタイルの見直しをなるべく細かく説明した。
「それとエレイン様は日常的に魔力を使われていますか?」
「いや……ほとんど使わせていない。さっきの騒動で本当に久しぶりに母上の魔法を見せてもらったくらいだ」
「そうでしたか。なら、最後に最も効果のある方法の提示なのですが、魔力の精製を毎日行なう事です。エレイン様の魔力はまだご健在でしたから」
「魔力の精製を毎日……? だ、だが魔法の使用は身体に負担をかけるものでは……」
「はい。魔法まで使ってしまうと体力の消耗が激しいので魔力の具現化までで良いです。それを毎日、約十分間程、必ず決まった時間、午前と午後で行うのが良いかと。精製量はおよそ0.20mg/MHぐらいが適量でしょう」
「そ、それは何故かね?」
「魔力というものは体内神経系に深く密接に関与します。そして体内において最も神経が集中しているのが中枢神経のある脳と脊髄です。魔力を扱う時、体内の神経系は全て活性化します。これにより脳の血行も促進され認知症においては有効な自己ケアになるのではと言われております」
「そうなのか……つまり、魔力を扱わせるとその認知症とやらの進行が遅れるかもしれない、と」
「はい。あくまで可能性ですが、何もしないよりは良いはずです」
「……そう、か」
私の話を聞き終えて、立ち上がっていたザルバ卿はゆっくりソファーへと腰を降ろした。
「……ザルバ卿。どうか早まった行動だけはしないで欲しいです」
「そう、だな。うむ……すまない、デレアくん、ギラン卿。取り乱してしまった」
「いえ。ザルバ卿の心中お察ししております」
それから私たちはベンズ家の侍女たちにお茶菓子と紅茶を淹れてもらい、応接室で少しくつろがせてもらった。
私はザルバ卿に認知症のケアに関する方法を再度書面にまとめ、それをベンズ家の侍女たちにも周知してもらうようお願いしておいた。
私とギランお父様が帰る頃にはすっかり日が暮れてしまっていた。
「ありがとう、デレアくん。ギラン卿。今回の事、深く感謝するよ」
「いえ、結局私は何もできませんでした」
「そんな事はない。キミの知識が私たち家族の在り方を見直させてくれたのだから。これを感謝せずに何に感謝すればいい。うちの息子との事も重ねて謝らせてくれ。デレアくんには重ね重ね迷惑をかけてしまい本当にすまなかった」
「……いえ。それでは」
私とギランお父様は会釈をして、馬車に乗り込みベンズ家を後にした。
後で聞いた話だが、ザルバ卿の奥様のフィアナ様は両親が貴族であるにもかかわらず、極めて低い魔力しか持ち合わせておらず、ベンズ家の中でもいつも卑屈にしていたそうだ。
そんなフィアナ様を姑のエレイン様はいつも気にかけてくれていたのだとか。
去り際の馬車の中、ベンズ家のお屋敷の二階の窓からエレイン様が私たちを見下ろしていたので、私は馬車から腕を伸ばして目一杯、エレイン様に向けて手を振った。
彼女は優しく微笑んでいた。
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