上 下
69 / 72
女の悔恨はその地へと

第四十七話

しおりを挟む
如月先輩が刀印を結び、言い放つ。

「この声は神の声、この息は神の息、この手は神の御手。降ましますは高天原の風、神々の息吹よ。現世と隠世を隔て光のまがきと成せ!」

呪いが完成すると見えない壁が築かれていく。

如月先輩に半拍遅れて碧君も印を結び、真言を唱える。

「オンアボキャホジャマニハンドマ、バジレイビロキティ、サンマンダ、ウン!」

空気が変わった私達を見て螢子は眉を顰める。

『…何をする気だ。諦めろ、お主らが妾に叶う訳が…』

そこで気付いたかの様に目を瞠る。

碧がもう遅いとでも言わんばかりの笑みを浮かべ、呪文を唱える。

「雷神招来──!」

高らかな声に呼応するように黒雲からばちばちという音がし、真っ白な閃光が螢子の居る場所へと突き刺さる。

反応が遅くとも、長い長い髪と右腕右脚を犠牲にしてほうほうの体で逃げた螢子の目指す先には真黒な影があった。

まだ鳴る怒槌に照らされてその顔が顕になる。

『ひぃっ!!』

思わず引きつった悲鳴を出す螢子ににやりと笑ってその手に再び鬼火を顕現させる。

その焔は先程のものとは全く違うものであった。

赤い赤い焔は全てを焼き尽くす真白な焔へと変わっていた。

真人先輩は容赦なくそれを螢子に叩きつけようとし、軌道を変えて彼女の左腕を焼いた。

『ああああぁぁぁあああぁっ!!』

声にならない悲鳴を上げて地面に落ちのたうち回る彼女の顔を碧君が覗き込む。

彼女の全てが焼けてしまう前に。

「なあ、提案があるんだけど」

『なあぁっ──』

何だと言おうとするが痛みで言葉が紡げない彼女の様子を見て懐から符を出して螢子の左腕に翳す。

痛みが和らいだのか先程よりは顔の筋肉を緩める。

「止痛の符だ。しっかりとした処置はしていないから数分後にはまた痛みが来るだろう」

碧君の言葉に安堵していた表情がまた歪む。

「俺からの提案の返答次第では、助けてやらんことも無いが、どうする?」

自分達がやったという事は棚に上げて条件を出そうとする碧である。

螢子は必死に首を縦に振った。

取り敢えずは聞くという心積りの表しのようだ。

そんな彼女の様子を見て意地の悪い笑みを浮かべて提案を出す。

「俺の式にならない?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。 平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。 家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。 愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

処理中です...