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女の悔恨はその地へと

第三十五話

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下駄箱にしまった靴を取り出し、上履きをしまう。

「…叶乃ちゃん」

幼い頃から、いや、かなり昔から聞き慣れているその声に顔を上げる。

「どうしたの?真人」

いつもの貼り付けているような笑顔はそこには無く、じっとこちらを見据える赤みがかった瞳があった。

何だか責められているような気持ちはなんだろうな…と少し自嘲気味に口角を上げる。

「…彼らに、本当の事は言わなくて良かったの?」

やはりその話かと思い、眩しそうに目を細めて彼を見返す。

「教えるのは、酷ってものよ…」

そう言って、私は困ったように笑った。

私のその言葉に彼はそうか、と言って覚悟したように眦を下げた。

瞬間、ふたりの背筋に氷塊が滑り落ちた。

「この…禍々しい“気”は…」

「どこかの鬼女の妖気か」

眉をひそめて真人が言い放つ。

暗い昇降口の中で静かに燃える赤い瞳を持つそのひとは、静かにその姿を別なものへと変えて行った──











真言を唱え、八千の身体を縛った碧はこれからどうするべきかと頭を稼働させていた。

動きを封じたは良いが、この先どうすれば良いのかが全く分からない。

稗田を操っているこの呪詛の主も見つけられていない為、これ以上下手に動く訳にも行かない。

ちらと狐達を見るが、彼らも成す術が無いようだ。

取り敢えず、高龗神を祀るこの地、貴船に染み渡っている呪詛を何とかせねば。

にしても日本の五指に入る程の力を持っているはずの高龗神がこの状態を放置しているのが不思議だ。

己を祀る地を守る、いや、護るのが通常のはず。

神の身に、何かが起こっている──?

高龗神は放置している訳ではなく、手が出せない状況にいるという事か?

もしそうだとするのならば神をも手こずらせる相手と、俺は対峙しなければならないということか。

そこまで考えて恐怖に汗が滴る。

碧は自分がどれ程未熟かという事を実感している。しっかりと分かっている。

故にこの状況は非常にまずいのだ。

自分を信じる事が出来ない、勝てるわけがない、そんな負の思考ばかりが彼の頭の中を埋めつくし始めた。
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