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友達
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目の前で浩介と凛花があんぐりと口を開けている。いつもの居酒屋に浩介と凛花を呼び出した。注文した料理が到着し終わった頃琢磨は話を切り出した。
凛花は箸を一本小皿の上へと落とした。カランと高い音が響く。浩介の声が掠れている。
「お前、なんて言った?」
「俺、千紘が好きだ」
凛花が自分の頬をつねる。痛いことを確認し、目の前に座る琢磨に詰め寄る。
「あ、あああ、あんた! それ本気?! 友達としてとか言わないよね!?」
「あぁ、好きだ、千紘に恋してる」
凛花が浮かせていた腰を下ろすと浩介と見つめ合った。二人は無言で抱き合う。ひとしきり抱き合うと凛花が真っ赤な顔して浩介の肩を叩く。
「やった、やった! やったよぉ浩介!」
「きたな。やったな……まさかの琢磨が公言を破った──」
二人の抱擁を見て琢磨は苦笑いをする。桃香と別れた事を伝えて二人に詫びた。
「で? 千紘に伝えたの?」
「まだ、言えていない──ちょっと仕事でトラブって……今日、言うよ」
あれから担当している雑誌で急に写真がすり替えになり、急遽素材を撮り直しになった。目が回るほど忙しかった。なんとか間に合ったが、何度経験しても冷や汗が止まらない。
浩介は満面の笑みで枝豆に手を伸ばす。その表情は父親のようだ。
「そうか、頑張れよ」
「今から告白しに行くよ……その前にお前らに言っておきたくて……俺のせいで千紘を傷つけて、ごめんな。俺自分の気持ちに気付こうとしてなかった──公言に、囚われてた」
凛花は気まずそうに琢磨に声をかける。
「……琢磨、聞いていい? なんで公言していたの?」
琢磨に公言の訳を聞いても笑って誤魔化していた。浩介ですらその理由は知らなかった。琢磨は少し考えて話し始めた。
琢磨は浩介と凛花に恋愛絡みで仲の良かった友人を失った過去の話をした。二人は黙って聞いていた。
浩介にはきっとその相手が分かっていただろう……浩介とは同じサークルだったので俺たちの喧嘩を耳にした事があったはずだ。その頃はまだ浩介と今ほど深い仲ではなかった。
浩介は何も言わずにビールを飲み干した。その表情は固い。
「俺……友達があんなふうに離れるのが怖かったんだ。千紘を苦しめてるなんて知らなかった……本気で友達と思い込んでいたんだ。でも、それは違った」
凛花は怒ったようにビールのジョッキを置いた。その瞳は興奮して真っ赤だ。
「琢磨はどう思うかわからないけど、離れていった友達は、私……本当の友達じゃなかったと思う。もちろん、恋愛絡みで友情にヒビが入ることはあるけど、そのヒビを直すぐらいの絆がなかったんだと思うよ、琢磨の言葉聞いてもくれなかったんだから……」
琢磨は何度も相槌を打つ。凛花の熱い瞳や言葉に琢磨は心が温かくなった。
「正直、何度も琢磨に言いたかった。千紘が泣いてるよって、好きなんだよって……でも、琢磨に言うのはダメだし……公言を絶対に破らない琢磨をそばで見てきたから怖くて言えなかった。──それに、ずっとこの四人で会いたかったの……」
凛花は悲しげな表情で長い髪を掻き上げた。
「凛花、ありがとう、ごめんな」
浩介は机に大きい音を立ててジョッキを置いた。
「……何も知らなかったとはいえ千紘を泣かした事は事実だ──これからは大事にしてやれよ」
「あぁ、もう、泣かさない──」
琢磨があの晩のことを思い出していた。千紘の気持ちを初めて知った夜だ。
「千紘は、本当に琢磨しか見えてないものね。今まで付き合った男には悪いけど……千紘は自分が辛くても琢磨と一緒にいたかったもんね」
凛花が鼻をすする。化粧も剥がれてきたが本人はそれどころじゃない。凛花はいつだったか千紘が悪酔いした時のことを思い出した。
『凛花ぁ、彼氏のこと好き?』
真っ赤な顔して凛花に抱きつく。凛花は千紘を支えながら携帯を耳と肩に挟みタクシーを呼ぶ。
『〇〇銀行△△支店前に一台お願いします──ちょ、千紘、ちゃんと立って!』
『私ね、この二文字が遠いの。言えないの……終わりの言葉だもん』
『千紘……』
『凛花ぁ、凛花がいてくれて良かった……今は言っていい? 私、琢磨が──……』
凛花は思い返しながら本格的に涙が出てきた。なんとかしてやりたかった、でも何も出来ない自分が悔しかった。無理矢理合コンもセッティングした。いい男がいれば紹介した。
それでも千紘の気持は変わらなかった。でも今こうして千紘の想いは実を結んだ……凛花は琢磨を引き寄せると抱きしめた。
「ありがとね、琢磨、頑張れ、琢磨」
「おう……行ってくるわ」
浩介は紙ナプキンを凛花の顔に押し付けた。凛花はそれで鼻をかむ。
「千紘によろしくな──琢磨」
琢磨は飲みかけのビールを浩介のそばへ寄せた。琢磨は席を立つと二人の頭を順番に叩いて笑った。
「センキュ、いい友達だな。行ってくるよ」
そのまま琢磨は駆け足で店を出て行った。凛花が手をつけていなかった琢磨の突き出しに手を伸ばす。
「浩介ここ払ってね、今月金欠なの」
「……本当に俺、いい友達に恵まれてるな」
琢磨のビールを飲み干す浩介を凛花が横目で見てニヤリと笑った。
二人が居酒屋を出る際、浩介が支払おうと財布を出すと若い店員が満面の笑みでお金を浩介に手渡した。
「え、これ──」
「お連れさまがお支払い済みでした。お釣りはお二人に分けて渡してほしいと……」
凛花と浩介は顔を見合わせて笑った。
「いい友達だね」
「ああ、いい友達だな」
二人はそのお釣りでボトルをキープした。ボトルには凛花の丸字で名前が書かれた。
──たくまが好きな仲間たち
四人でまた集まれる日は、近い。
凛花は箸を一本小皿の上へと落とした。カランと高い音が響く。浩介の声が掠れている。
「お前、なんて言った?」
「俺、千紘が好きだ」
凛花が自分の頬をつねる。痛いことを確認し、目の前に座る琢磨に詰め寄る。
「あ、あああ、あんた! それ本気?! 友達としてとか言わないよね!?」
「あぁ、好きだ、千紘に恋してる」
凛花が浮かせていた腰を下ろすと浩介と見つめ合った。二人は無言で抱き合う。ひとしきり抱き合うと凛花が真っ赤な顔して浩介の肩を叩く。
「やった、やった! やったよぉ浩介!」
「きたな。やったな……まさかの琢磨が公言を破った──」
二人の抱擁を見て琢磨は苦笑いをする。桃香と別れた事を伝えて二人に詫びた。
「で? 千紘に伝えたの?」
「まだ、言えていない──ちょっと仕事でトラブって……今日、言うよ」
あれから担当している雑誌で急に写真がすり替えになり、急遽素材を撮り直しになった。目が回るほど忙しかった。なんとか間に合ったが、何度経験しても冷や汗が止まらない。
浩介は満面の笑みで枝豆に手を伸ばす。その表情は父親のようだ。
「そうか、頑張れよ」
「今から告白しに行くよ……その前にお前らに言っておきたくて……俺のせいで千紘を傷つけて、ごめんな。俺自分の気持ちに気付こうとしてなかった──公言に、囚われてた」
凛花は気まずそうに琢磨に声をかける。
「……琢磨、聞いていい? なんで公言していたの?」
琢磨に公言の訳を聞いても笑って誤魔化していた。浩介ですらその理由は知らなかった。琢磨は少し考えて話し始めた。
琢磨は浩介と凛花に恋愛絡みで仲の良かった友人を失った過去の話をした。二人は黙って聞いていた。
浩介にはきっとその相手が分かっていただろう……浩介とは同じサークルだったので俺たちの喧嘩を耳にした事があったはずだ。その頃はまだ浩介と今ほど深い仲ではなかった。
浩介は何も言わずにビールを飲み干した。その表情は固い。
「俺……友達があんなふうに離れるのが怖かったんだ。千紘を苦しめてるなんて知らなかった……本気で友達と思い込んでいたんだ。でも、それは違った」
凛花は怒ったようにビールのジョッキを置いた。その瞳は興奮して真っ赤だ。
「琢磨はどう思うかわからないけど、離れていった友達は、私……本当の友達じゃなかったと思う。もちろん、恋愛絡みで友情にヒビが入ることはあるけど、そのヒビを直すぐらいの絆がなかったんだと思うよ、琢磨の言葉聞いてもくれなかったんだから……」
琢磨は何度も相槌を打つ。凛花の熱い瞳や言葉に琢磨は心が温かくなった。
「正直、何度も琢磨に言いたかった。千紘が泣いてるよって、好きなんだよって……でも、琢磨に言うのはダメだし……公言を絶対に破らない琢磨をそばで見てきたから怖くて言えなかった。──それに、ずっとこの四人で会いたかったの……」
凛花は悲しげな表情で長い髪を掻き上げた。
「凛花、ありがとう、ごめんな」
浩介は机に大きい音を立ててジョッキを置いた。
「……何も知らなかったとはいえ千紘を泣かした事は事実だ──これからは大事にしてやれよ」
「あぁ、もう、泣かさない──」
琢磨があの晩のことを思い出していた。千紘の気持ちを初めて知った夜だ。
「千紘は、本当に琢磨しか見えてないものね。今まで付き合った男には悪いけど……千紘は自分が辛くても琢磨と一緒にいたかったもんね」
凛花が鼻をすする。化粧も剥がれてきたが本人はそれどころじゃない。凛花はいつだったか千紘が悪酔いした時のことを思い出した。
『凛花ぁ、彼氏のこと好き?』
真っ赤な顔して凛花に抱きつく。凛花は千紘を支えながら携帯を耳と肩に挟みタクシーを呼ぶ。
『〇〇銀行△△支店前に一台お願いします──ちょ、千紘、ちゃんと立って!』
『私ね、この二文字が遠いの。言えないの……終わりの言葉だもん』
『千紘……』
『凛花ぁ、凛花がいてくれて良かった……今は言っていい? 私、琢磨が──……』
凛花は思い返しながら本格的に涙が出てきた。なんとかしてやりたかった、でも何も出来ない自分が悔しかった。無理矢理合コンもセッティングした。いい男がいれば紹介した。
それでも千紘の気持は変わらなかった。でも今こうして千紘の想いは実を結んだ……凛花は琢磨を引き寄せると抱きしめた。
「ありがとね、琢磨、頑張れ、琢磨」
「おう……行ってくるわ」
浩介は紙ナプキンを凛花の顔に押し付けた。凛花はそれで鼻をかむ。
「千紘によろしくな──琢磨」
琢磨は飲みかけのビールを浩介のそばへ寄せた。琢磨は席を立つと二人の頭を順番に叩いて笑った。
「センキュ、いい友達だな。行ってくるよ」
そのまま琢磨は駆け足で店を出て行った。凛花が手をつけていなかった琢磨の突き出しに手を伸ばす。
「浩介ここ払ってね、今月金欠なの」
「……本当に俺、いい友達に恵まれてるな」
琢磨のビールを飲み干す浩介を凛花が横目で見てニヤリと笑った。
二人が居酒屋を出る際、浩介が支払おうと財布を出すと若い店員が満面の笑みでお金を浩介に手渡した。
「え、これ──」
「お連れさまがお支払い済みでした。お釣りはお二人に分けて渡してほしいと……」
凛花と浩介は顔を見合わせて笑った。
「いい友達だね」
「ああ、いい友達だな」
二人はそのお釣りでボトルをキープした。ボトルには凛花の丸字で名前が書かれた。
──たくまが好きな仲間たち
四人でまた集まれる日は、近い。
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