友達の肩書き

菅井群青

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合コン

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『琢磨はさ……俺の気持ち考えた?俺がもうリサのこと何とも無いって、思った?』

──ちょっと待て。俺は何も……。

『お前なんかもう友達じゃない……』

 そんなこと言うなよ、俺は──俺は……

 目覚めると朝だった。
 目覚まし時計が鳴る前に起きてしまった。友達との修羅場の記憶が夢になって出てきた。

「さい、あくだ──本当」 
 
 顔を手で覆うと暫く動けなかった。少しずつ人の群れの中で生活していく中で学習したことがある。

 友達の彼女に近づくな。

 友達の好きなやつに近づくな。

 そして今夢に見た掟だ──友達の元カノとは付き合わない。

 これが分からなかった頃、俺は大切な友達を失った。ショックだった。それまで笑い合っていたのにある日突然俺から離れていく。

 それに気付いてからはどんな事があろうともそれを守って生きてきた。誰も傷つかないように……大事な人が離れていかないように……。
 上手くいっていると思っていたのに──大事な友達が俺から離れた。

 千紘

 今までの女友達の中でも最も気が合い、気の置けない友達だ。

 千紘の気持ちに気付けなかった。最初の出会いは浩介の彼女として出会った。出会った時から千紘を友達としか思わなかった。
 
 浩介と千紘の関係が変わった後、友達の元彼女とは距離を取るはずだったが、なぜか別れた後も浩介と千紘は変わらず一緒にいることが多かった。付き合っていた頃と変わらない二人に俺は迷った。別れてしばらくして浩介に尋ねてみたことがある。

『俺、千紘と変わらず友達でいていいか?』

 俺の言葉に浩介は笑った。

『当たり前だろ? 俺も千紘と距離を置くつもりはないぞ。千紘は俺の友達だ。それに俺を介さなくたって、お前たちはもう友達だろう?』

 浩介の言葉に心が熱くなった。
 良かった……千紘とこれからも友達でいていいんだと思った。

 千紘がどんな気持ちで俺と一緒にいてくれたのかを考えると辛かった。

「千紘……ごめん──俺……」

 琢磨はベッドからなかなか抜け出せなかった。





「こちら、千紘さんです」

「よろしくー」

 目の前の男性陣から口々に挨拶の言葉が飛ぶ。

「どうも……」

 千紘はこの日凛花がセッティングした合コンに参加していた。いつも逃げていたので合コンに慣れていない。年齢も合コンに参加するには遅い歳だ。気まずい……。

 六人掛けのテーブルに分かれるように座った。目の前の男性たちは若く見える。千紘の横に座る女の子たちも恐らく千紘より年齢が下だろう。
 肝心の凛花は同棲している彼氏にこの合コンのことがバレて不参加になっていた。年下の彼氏はヤキモチ焼きだそうだ。不参加になっても凛花は嬉しそうだった。

 自己紹介が終わるとみんなで痴話話から遊びの話で意外にも合コンは盛り上がった。
 特に千紘のやっているゲームが若い子たちに人気で千紘がゲーマーであることに驚いた男たちに神と崇められた。千紘はあまり気にしていなかったが、相当レベルが上の方らしい。

「今度誘っていいですか? 嬉しいなぁ……」

「え、あ……はい。こちらこそ」

 いい年した女がゲームをしているのは恥ずかしいと思ったが、参加していた眼鏡の女の子も隠れゲーマーらしく合コンは大いに盛り上がった。一人だけキラキラとしたメイクをしている気合の入った女の子はまさかの展開に苦笑いを浮かべていたが、今回の合コンはそんなメンバーだったので諦めるしかない。

 その合コンで一人だけ見た目に特徴がある男の子がいた。

 黒髪でパーマをかけている言葉数の少ない男の子だ。首の横に小さく黒龍のタトゥーがある。顔よりもそのタトゥーに視線がいく。会社員ではなくバーテンダーをしているらしい。何となくだが、黒のタキシードが似合いそうな気がした。

 なんか、悪そうな執事みたい……。確か名前は……朔也さくやくんだったかしら。

 朔也と目が合うと千紘に向かって薄っすら微笑んだ。キラキラした女の子に積極的に声掛けられて困ったように笑っている。きっと人数合わせで呼ばれたのだろう。

 もちろん千紘も合コンに意気込んでいるわけではない。凛花の気持ちに応えているだけだ。

 そのまま飲んでいると横に座っていた男の子が千紘の肩を抱きしめて引き寄せた。さっきゲームの話で盛り上がった一人だ。

「千紘さん……カッコいいですよね。なんか出来る女って感じ」

 酔っていて距離感が分からなくなっているのだろう……あと数センチでキスしそうなぐらいの距離で話す。あまりに近くて驚いているとその男の子の隣に座っていた朔也が首根っこを掴んで千紘から引き離す。

「彰、飲み過ぎだ」

 そう言いながら引く彼の顔を見ると嫉妬するような拗ねた顔だった。

 朔也と目が合うと恥ずかしそうに笑った。
 朔也の笑顔を初めて見た。八重歯が見えて可愛らしかった。

「なんだよぉ、朔也……お前千紘さんが好きなのかぁ?」

「「そんな訳ないでしょ(だろ)」」

 千紘と朔也の声が重なった。千紘と朔也は吹き出した。少し遅れて彰も笑い出した。

 解散後彰に誘われ三人で朔也の勤めるバーへ行き、ゲームの話で酒が進んだ。
 琢磨のことを考えなくて済むいい夜だった。


 次の日の晩……仕事を終え帰途に就くと千紘は部屋を見渡し溜め息を漏らす。
 千紘は携帯電話から朔也の番号を探すと通話ボタンを押した。

「もしもし?」

『お疲れ様、考えてくれた?』

「あ、うん、私でいいの? 他の人の方が──」

『いや、千紘さんが……千紘さんがいい』

 朔也の言葉に千紘は「ありがとう」とだけ返事した。通話を終えると少し呼吸がしやすくなった。千紘はクッションを手にするとベッドの足元へと放り投げた。
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