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98.イルミネーション
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ちょうど去年の今頃……この場所を歩いていた。ただ、こんな風に左手に営業用の紙袋を持っていない……その頃俺の左手には愛しい恋人の手が握られていた。
真子と別れてもう一年を過ぎようとしている。別れる前の思い出はこのイルミネーションだ。
別れたのはお互い仕事が忙しくてすれ違いだった。
二人の思い出の場所に来るつもりなどなかった。ただ、たまたま営業の帰り道で通りかかっただけだ。この道を歩き続けているのに特に意味はない。
木の枝ぶりに合わせた青や赤のLEDライトが眩しい。その明るい光に照らされ足元の無機質なタイルですら幻想的なものへと変化させる。
『このイルミネーションってさ、毎年あるのかな?』
『あるんじゃないか? 来年も来る?』
『うん、絶対だよ』
数秒の間に交わしたその約束をなぜ思い出しのだろうか……余計に辛くなる。
真子は元気にしているのだろうか……。今もこの街にいるのだろうか……。もしかしたらいい人がいて結婚間近なのかもしれない……。
いろんな想像をしても答えはない。
イルミネーションを見上げながら大通りを進むと噴水がある広場までイルミネーションが続いていた。そこには多くのテントが並びバル祭りが開催されていた。酒を片手に皆張り巡らせられたイルミネーションを見上げている。
噴水のそばにあった石のモニュメントに腰掛けると上を見上げた。眩い光が夜空に舞っていた。白のLEDが眩しい。
夜空じゃ満足できないなんて、人間ほど欲深い生き物はいないな──。
前を見ると広場の奥のベンチに一人の女性が同じように上を見上げていた。行き交う人の波の隙間から見えたその姿に目を疑った。
──嘘だろ
その姿を正確に捉えると俺は呼吸するのを忘れていた。
──真子
ベンチに座っていたのは少し髪が伸びた真子だった。首に白のマフラーを何重にも巻き、じっとイルミネーションを見つめている。
夢を見ているんだろうか……。
こんな偶然があるのだろうか……。
本物の真子がそこに座っている。見上げる姿勢がしんどくなったのか視線を外し凝った首を回している。すぐに俺の存在に気づいた……そして俺と同じように固まったまま動かない。
お互いに目が合っているのに動けなかった。視線も逸らせない……二人だけの世界にいるようだった。真子がゆっくりと立ち上がる……俺も自然と向かい鏡のように腰を上げた。
俺たちはゆっくりと近付いていく。多くの人が行き交っているのに導かれるように真っ直ぐ歩き続ける。
ようやく触れ合えるほど近づくと真子は白い息を吐き笑った。随分と長い間寒空の中にいたんだろう。鼻の先も赤くなっている。つられるようにして笑うと真子が泣き始めた。
「ごめん……ごめんね」
「いや、俺が、俺が悪い、悪かった」
体を震わせながら泣く真子の背中に手を回すとゆっくりと引き寄せた。一年ぶりの抱擁はぎこちなかった。真子はひとしきり俺の胸の中で泣くとようやく笑った。
「真子……好きなんだ……忘れられなかった。もう一度、もう一度……そばにいてほしい」
俺の告白に頷くと真子は巻いていたロングマフラーを取ると二人の首を囲むように巻き直した。真子の温もりが残ったマフラーは暖かった。
真子は少し背伸びして俺の唇にキスをした。白のマフラーに覆われた俺たちは上を見上げてイルミネーションを眺めた。
また、来年も見に来よう──俺たちは約束した。
真子と別れてもう一年を過ぎようとしている。別れる前の思い出はこのイルミネーションだ。
別れたのはお互い仕事が忙しくてすれ違いだった。
二人の思い出の場所に来るつもりなどなかった。ただ、たまたま営業の帰り道で通りかかっただけだ。この道を歩き続けているのに特に意味はない。
木の枝ぶりに合わせた青や赤のLEDライトが眩しい。その明るい光に照らされ足元の無機質なタイルですら幻想的なものへと変化させる。
『このイルミネーションってさ、毎年あるのかな?』
『あるんじゃないか? 来年も来る?』
『うん、絶対だよ』
数秒の間に交わしたその約束をなぜ思い出しのだろうか……余計に辛くなる。
真子は元気にしているのだろうか……。今もこの街にいるのだろうか……。もしかしたらいい人がいて結婚間近なのかもしれない……。
いろんな想像をしても答えはない。
イルミネーションを見上げながら大通りを進むと噴水がある広場までイルミネーションが続いていた。そこには多くのテントが並びバル祭りが開催されていた。酒を片手に皆張り巡らせられたイルミネーションを見上げている。
噴水のそばにあった石のモニュメントに腰掛けると上を見上げた。眩い光が夜空に舞っていた。白のLEDが眩しい。
夜空じゃ満足できないなんて、人間ほど欲深い生き物はいないな──。
前を見ると広場の奥のベンチに一人の女性が同じように上を見上げていた。行き交う人の波の隙間から見えたその姿に目を疑った。
──嘘だろ
その姿を正確に捉えると俺は呼吸するのを忘れていた。
──真子
ベンチに座っていたのは少し髪が伸びた真子だった。首に白のマフラーを何重にも巻き、じっとイルミネーションを見つめている。
夢を見ているんだろうか……。
こんな偶然があるのだろうか……。
本物の真子がそこに座っている。見上げる姿勢がしんどくなったのか視線を外し凝った首を回している。すぐに俺の存在に気づいた……そして俺と同じように固まったまま動かない。
お互いに目が合っているのに動けなかった。視線も逸らせない……二人だけの世界にいるようだった。真子がゆっくりと立ち上がる……俺も自然と向かい鏡のように腰を上げた。
俺たちはゆっくりと近付いていく。多くの人が行き交っているのに導かれるように真っ直ぐ歩き続ける。
ようやく触れ合えるほど近づくと真子は白い息を吐き笑った。随分と長い間寒空の中にいたんだろう。鼻の先も赤くなっている。つられるようにして笑うと真子が泣き始めた。
「ごめん……ごめんね」
「いや、俺が、俺が悪い、悪かった」
体を震わせながら泣く真子の背中に手を回すとゆっくりと引き寄せた。一年ぶりの抱擁はぎこちなかった。真子はひとしきり俺の胸の中で泣くとようやく笑った。
「真子……好きなんだ……忘れられなかった。もう一度、もう一度……そばにいてほしい」
俺の告白に頷くと真子は巻いていたロングマフラーを取ると二人の首を囲むように巻き直した。真子の温もりが残ったマフラーは暖かった。
真子は少し背伸びして俺の唇にキスをした。白のマフラーに覆われた俺たちは上を見上げてイルミネーションを眺めた。
また、来年も見に来よう──俺たちは約束した。
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