91 / 101
91.体育祭
しおりを挟む
軽快な音楽と共に盛大な歓声が上がる。 例年は雨天で延期になることも多いが、今年はうまく台風の合間をすり抜けたらしい。
今日は麻里の勤める高校の体育祭だ。
麻里は椅子から立ち上がると窓の外を眺めた。今日は麻里も朝から大忙しだった。張り切っているのか競技中に転倒し膝を擦る学生が多い。消毒をして絆創膏を貼るのが大半だ。さっき来た学生は足首を捻挫していたが大事には至らなかった。骨折など大きな怪我をしていれば日曜日なので病院探しが大変だ。
保険医になって二年……ようやくこの学校の生活にもなれてきた。保健室は多くの学生にとって特別な場だ。
怪我の手当て
熱などの急病の際に休む場
心のケア
そして……恋い焦がれる学生を宥める場だ。
「先生──」
その声に麻里は溜息を漏らす。振り返らずともその声の主は分かる。毎日この保健室を訪れているのだから。
紺色のジャージを着た男子学生がゆっくりとドアを開けて入ってきた。そのまま麻里のいる窓際へとやって来る。
「おー、走ってる走ってる」
「他人事みたいに言わないのよ、鈴木くん出番はないの?」
「足が遅いから出番無しです」
ただ、本気で走ると代表に選ばれるのが面倒だから普段から本気で走らないのを知っている麻里は何も言わない。鈴木は勉強も、運動も出来るが敢えて目立たないようにしている変わった学生だ。
「……で? 今日は何? 頭痛?」
「そんなところです」
鈴木はベッドに横になると猫のように背伸びをした。
白いお腹が見えて麻里は目を背ける。
向こうのペースに巻き込まれてはいけない……私は先生なのだから。毅然とした態度で臨まないと。
「鈴木くん、運動場に戻りなさい。保健室は休憩所じゃないわ」
「……先生ごめん、暑くて目眩がしたんだ、熱中症かな? このままでいさせて」
「……三十分だけね」
大きく溜息をつくと麻里はそのまま背を向け回転椅子に腰掛けた。そのまま日誌に捻挫をして処置したことを書き込んでいく──。
ガチャン
ドアを施錠する音が響く──。
その音に反応して振り返るといつのまにか鈴木が背後に立っていた。思わず立ち上がるとデスクとの間に挟まれる。お尻に机の角が当たるのが分かった。
「これ邪魔……」
回転椅子を足で横に追いやると鈴木が麻里を閉じ込めるようにデスクに手をつく──不敵な笑みで麻里を見下ろす。
麻里は精一杯体を反らすがこれ以上逃げられない。
机と鈴木の間に閉じ込められてしまった──。
「何、してるの──」
「いつものことでしょう? 先生」
唇が触れそうなほどの位置で鈴木が囁く。
「……やめて──」
顔を背ける麻里の顔を無理やり自分の方へと向けるとそのまま口付ける。鈴木の口付けは初めてではない……こうして保健室にやってきては奪われ続けている。
力で敵うはずはない。男子高校生はもう大人だ……そう、拙かったはずのこのキスも成長を遂げ麻里を蕩けさせるほど上達している。
「ん……はぁ──」
「先生……好きだ」
鈴木が離れると愛おしそうな瞳でこちらを見下ろす。毎回こうして鈴木は想いを口にする。
やめて欲しい。学生時代の恋なんて儚いものに私を巻き込むのは。もう大人になった私は必死でその必死な想いに抗う。
「ダメだって、言っているでしょう?」
「じゃあ、なんで……今、俺の唇ばかり見てるの?」
鈴木の言葉に一気に顔が赤くなる。物欲しそうな表情をしていたのかもしれない。
いや、そうじゃない──そんなはずない。私が、こんな子供に欲情なんか……。
「ほら……どう?」
鈴木が自身の唇で麻里の唇をくすぐる様に左右に往復する……。温かい、柔らかい感覚に麻里は目を閉じた。
弄ばれている様なその行為に麻里は唇を噛み締めて耐える。
「……もう、大人になると──素直じゃなくなるんだね」
鈴木はそう言って笑った。そのまま麻里の唇に優しく口付けると、麻里は観念したように鈴木の首の後ろに腕を回した──。
今日は麻里の勤める高校の体育祭だ。
麻里は椅子から立ち上がると窓の外を眺めた。今日は麻里も朝から大忙しだった。張り切っているのか競技中に転倒し膝を擦る学生が多い。消毒をして絆創膏を貼るのが大半だ。さっき来た学生は足首を捻挫していたが大事には至らなかった。骨折など大きな怪我をしていれば日曜日なので病院探しが大変だ。
保険医になって二年……ようやくこの学校の生活にもなれてきた。保健室は多くの学生にとって特別な場だ。
怪我の手当て
熱などの急病の際に休む場
心のケア
そして……恋い焦がれる学生を宥める場だ。
「先生──」
その声に麻里は溜息を漏らす。振り返らずともその声の主は分かる。毎日この保健室を訪れているのだから。
紺色のジャージを着た男子学生がゆっくりとドアを開けて入ってきた。そのまま麻里のいる窓際へとやって来る。
「おー、走ってる走ってる」
「他人事みたいに言わないのよ、鈴木くん出番はないの?」
「足が遅いから出番無しです」
ただ、本気で走ると代表に選ばれるのが面倒だから普段から本気で走らないのを知っている麻里は何も言わない。鈴木は勉強も、運動も出来るが敢えて目立たないようにしている変わった学生だ。
「……で? 今日は何? 頭痛?」
「そんなところです」
鈴木はベッドに横になると猫のように背伸びをした。
白いお腹が見えて麻里は目を背ける。
向こうのペースに巻き込まれてはいけない……私は先生なのだから。毅然とした態度で臨まないと。
「鈴木くん、運動場に戻りなさい。保健室は休憩所じゃないわ」
「……先生ごめん、暑くて目眩がしたんだ、熱中症かな? このままでいさせて」
「……三十分だけね」
大きく溜息をつくと麻里はそのまま背を向け回転椅子に腰掛けた。そのまま日誌に捻挫をして処置したことを書き込んでいく──。
ガチャン
ドアを施錠する音が響く──。
その音に反応して振り返るといつのまにか鈴木が背後に立っていた。思わず立ち上がるとデスクとの間に挟まれる。お尻に机の角が当たるのが分かった。
「これ邪魔……」
回転椅子を足で横に追いやると鈴木が麻里を閉じ込めるようにデスクに手をつく──不敵な笑みで麻里を見下ろす。
麻里は精一杯体を反らすがこれ以上逃げられない。
机と鈴木の間に閉じ込められてしまった──。
「何、してるの──」
「いつものことでしょう? 先生」
唇が触れそうなほどの位置で鈴木が囁く。
「……やめて──」
顔を背ける麻里の顔を無理やり自分の方へと向けるとそのまま口付ける。鈴木の口付けは初めてではない……こうして保健室にやってきては奪われ続けている。
力で敵うはずはない。男子高校生はもう大人だ……そう、拙かったはずのこのキスも成長を遂げ麻里を蕩けさせるほど上達している。
「ん……はぁ──」
「先生……好きだ」
鈴木が離れると愛おしそうな瞳でこちらを見下ろす。毎回こうして鈴木は想いを口にする。
やめて欲しい。学生時代の恋なんて儚いものに私を巻き込むのは。もう大人になった私は必死でその必死な想いに抗う。
「ダメだって、言っているでしょう?」
「じゃあ、なんで……今、俺の唇ばかり見てるの?」
鈴木の言葉に一気に顔が赤くなる。物欲しそうな表情をしていたのかもしれない。
いや、そうじゃない──そんなはずない。私が、こんな子供に欲情なんか……。
「ほら……どう?」
鈴木が自身の唇で麻里の唇をくすぐる様に左右に往復する……。温かい、柔らかい感覚に麻里は目を閉じた。
弄ばれている様なその行為に麻里は唇を噛み締めて耐える。
「……もう、大人になると──素直じゃなくなるんだね」
鈴木はそう言って笑った。そのまま麻里の唇に優しく口付けると、麻里は観念したように鈴木の首の後ろに腕を回した──。
1
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?
ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。
しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。
しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる