100のキスをあなたに

菅井群青

文字の大きさ
上 下
89 / 101

89.キスの練習

しおりを挟む
 週末の晩はこうしてソファーに座って映画を観る事が多い。今晩はSF超大作で序盤からシリアスなアクションシーンが続いて目が離せない。

 貴子は胸にポテトチップスの袋を抱えてテレビ画面に夢中だ。さっきから手を袋に突っ込んだまま止まっている。

「ほおぉ……そう来たか」

 貴子はすっかりストーリーに入り込んでいる。隣の哲太はそんな貴子をジトッとした目で見つめていた。

「なぁ……」
「…………」

「貴子……」
「何よ……」

「この映画観るの三回目じゃない?」
「違うわよ、四回目」

 哲太は溜息をつく。
 貴子はガサツな性格のくせになぜか何度同じ映画を観ても最初見たときのような新鮮な気持ちで観られるらしい。俺は一度見たらストーリー展開も覚えているのでどうも楽しめない。正直さっきから眠気も出てきた。

「なぁ、貴子──練習しない?」

 哲太の声に貴子が突然リモコンを握り電源ボタンを押した。

 妖艶な表情でこちらを見るとそのままソファーに押し倒す。さっきまでのマヌケ面はどこへやら、一気に女王様が降臨した。

 早い、早すぎるさっきまで脳内は映画の事しかなかったのに!

「ま、待て……いや、映画を見るのをやめて欲しくて、その──」

「哲太、何でもそうだけど反復練習って大事よ?」

「さっきの映画も反復して見てたけど良かったの!?」

 変なやる気スイッチを押してしまったようだ。仰向けの俺を押さえつけるように貴子は窮屈そうに跨る。

「で? 哲太からやる?」
「……おう」

 哲太はそのまま貴子の頭を引き寄せると唇にキスをした。下からなのでやりにくい。深く口付けようとしても貴子の顔が離れる。

 絶対に、わざとだな……。

 そのまま貴子が体を起こすと首をぐるりと回した。

「んー、首が痛いんだよね──不合格」

「お前がわざと……! いや、すみませんでした」

 言い返そうとしたが、上から見下ろす貴子の嬉しそうな顔を見てそのまま黙り込む。
 ここで反論すると後が怖い。

「名誉教授に任せなさいな」

「いつからそんな功績残したの?」

 貴子は俺の胸板に両手を添えると筋肉の感触を確かめるように臍へと指を滑らせる。

「──っ、おい……」

 貴子は俺の両手を拘束するように指と指を絡ませてソファーへと押し付けた。そのまま貴子が一気に唇を重ねてくる。

 貴子の香りが鼻から脳に上ってくるとじんと下半身が痺れた。貴子の肉厚な太ももの感触と、全てを飲み込むような貴子のキスに背筋が反り、鳥肌が立つ。拘束された手がもどかしい……。

 いつもそうだ、貴子は俺を捕食しようとする。

 貴子の舌は執拗に俺の口腔内を這いずり回り舌を出せと催促する。舌を絡め取るとより一層繋がっていくのがわかる。口の粘膜が麻痺し始めた頃、貴子は離れていく。
 唇を真っ赤な舌で舐めとると満足そうに俺の顔を見る。

「どう? 哲太……」

「……俺のターンだな。貴子、後悔させてやる……」

 哲太は下から貴子の胸を掴み上げると体を起こす。首筋にキスを落とすと貴子の体が震えた。

 哲太は耳元で囁く。

「俺のマグナム──よろしく」

「──このエロゴリラ……」

 二人は抱き合い再びキスをした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】王命婚により月に一度閨事を受け入れる妻になっていました

ユユ
恋愛
目覚めたら、貴族を題材にした 漫画のような世界だった。 まさか、死んで別世界の人になるって いうやつですか? はい?夫がいる!? 異性と付き合ったことのない私に!? え?王命婚姻?子を産め!? 異性と交際したことも エッチをしたこともなく、 ひたすら庶民レストランで働いていた 私に貴族の妻は無理なので さっさと子を産んで 自由になろうと思います。 * 作り話です * 5万字未満 * 完結保証付き

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

【完結】些細な呪いを夫にかけ続けている妻です

ユユ
ファンタジー
シャルム王国を含むこの世界は魔法の世界。 幼少期あたりに覚醒することがほとんどで、 一属性で少しの魔力を持つ人が大半。 稀に魔力量の大きな人や 複数属性持ちの人が現れる。 私はゼロだった。発現無し。 政略結婚だった夫は私を蔑み 浮気を繰り返す。 だから私は夫に些細な仕返しを することにした。 * 作り話です * 少しだけ大人表現あり * 完結保証付き * 3万5千字程度

処理中です...