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79.カラオケ
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「おもーいではーいつの日も──……」
パチパチパチパチ
歌い終わると悲しい拍手が巻き起こった。拍手を受けた私は演歌歌手のようにゆっくりとお辞儀をした。
「えーっと、次の泣ける曲は……」
「いや、一曲目からずっとこんなテンションでいくの?」
横に座る中学からの友人の畠山が溜息をつく。居酒屋で飲んだ後にカラオケに付き合わされて怠そうだ。今日は私の失恋パーティだ。三日前に一年付き合った彼氏にフラれた。突然だった……上手くいっているとばかり思い込んでいた。突然すぎてショックは日が経つにつれ倍増していく。
「好きだったのにな……」
「桂子……それ俺に言ってる? それとも歌の題名?」
「ハタケ……恋なんてつらいね、もうそんなのすっ飛ばして結婚したい」
「好きでも無いやつと結婚なんて考えただけで嫌だ」
畠山の言葉に桂子は顔を上げた。
意外だった。恋愛に淡白な男だと思っていた。結婚願望も聞いたことなかったし、顕微鏡か試験管と結婚するのかと思っていたぐらい研究の仕事に没頭している男だ。
意外だ……ちゃんと考えているんだ。
「好きな人がいるの? ハタケ……ミドリムシ以外に」
「喧嘩売ってんの? バカにすんなよミクロの世界を──ってか歌えよ」
ハタケは私にリモコンを押し付けた。私はしょうがないので頭に浮かんだ曲を入れる。
私は曲のイントロ部分の音楽が流れ始めるとすぐに選曲ミスに気づく。元彼がよく聞いていた曲だ。一緒に過ごした日々を思い出す。二人の笑顔の思い出が頭を駆け巡る──。
あ、だめだ。
歌い始めたが声が震え出した。桂子の様子がおかしい事に気付き、携帯電話を見ていた畠山がゆっくりと顔を上げた。
横に座る桂子は真顔で歌いながら涙を流して歌っている。暗い部屋でテレビに映る映像の光が桂子の頰を流れる涙に映える。
バカなやつ。
一途なのにいつもフラれるいい人すぎるバカなやつ。
俺の気持ちも知らないバカなやつ──俺の好きな、バカなやつ。
畠山は桂子のマイクを奪うとそのまま抱きしめた。
え?
抱きしめられている間、時間が止まったようだった。部屋に流れる音楽が時を知れる唯一のものだった。
「ハタケ……」
「泣くな。泣かれると困る……」
「じゃあ……一緒に歌ってくれる?」
畠山は頭を掻くとぶっきらぼうに頷いた。
それから桂子の鬼のデュエット曲メドレーが始まった。
最後は立ち上がり肩を組んで歌った。愛がテーマのデュエット曲までやり切ると桂子は楽しそうに笑った。畠山は疲れ切ったようにソファに座った。
「……もういいか? 喉が痛い」
「うん、いいよ……ハタケ」
「ん?」
畠山が呼ばれて顔を上げるとその頰に桂子はキスをした。一瞬の事なのに血が沸きそうになるぐらい顔が熱くなる。
「ありがと、ハタケ」
「……おう」
畠山はそう答えるだけで精一杯だった。心臓が痛い。気持ちを伝えたいが、奥手な自分には無理だ。
畠山はそのままリモコンを操作し始めた。その姿を見た桂子は隠れて微笑んだ。
パチパチパチパチ
歌い終わると悲しい拍手が巻き起こった。拍手を受けた私は演歌歌手のようにゆっくりとお辞儀をした。
「えーっと、次の泣ける曲は……」
「いや、一曲目からずっとこんなテンションでいくの?」
横に座る中学からの友人の畠山が溜息をつく。居酒屋で飲んだ後にカラオケに付き合わされて怠そうだ。今日は私の失恋パーティだ。三日前に一年付き合った彼氏にフラれた。突然だった……上手くいっているとばかり思い込んでいた。突然すぎてショックは日が経つにつれ倍増していく。
「好きだったのにな……」
「桂子……それ俺に言ってる? それとも歌の題名?」
「ハタケ……恋なんてつらいね、もうそんなのすっ飛ばして結婚したい」
「好きでも無いやつと結婚なんて考えただけで嫌だ」
畠山の言葉に桂子は顔を上げた。
意外だった。恋愛に淡白な男だと思っていた。結婚願望も聞いたことなかったし、顕微鏡か試験管と結婚するのかと思っていたぐらい研究の仕事に没頭している男だ。
意外だ……ちゃんと考えているんだ。
「好きな人がいるの? ハタケ……ミドリムシ以外に」
「喧嘩売ってんの? バカにすんなよミクロの世界を──ってか歌えよ」
ハタケは私にリモコンを押し付けた。私はしょうがないので頭に浮かんだ曲を入れる。
私は曲のイントロ部分の音楽が流れ始めるとすぐに選曲ミスに気づく。元彼がよく聞いていた曲だ。一緒に過ごした日々を思い出す。二人の笑顔の思い出が頭を駆け巡る──。
あ、だめだ。
歌い始めたが声が震え出した。桂子の様子がおかしい事に気付き、携帯電話を見ていた畠山がゆっくりと顔を上げた。
横に座る桂子は真顔で歌いながら涙を流して歌っている。暗い部屋でテレビに映る映像の光が桂子の頰を流れる涙に映える。
バカなやつ。
一途なのにいつもフラれるいい人すぎるバカなやつ。
俺の気持ちも知らないバカなやつ──俺の好きな、バカなやつ。
畠山は桂子のマイクを奪うとそのまま抱きしめた。
え?
抱きしめられている間、時間が止まったようだった。部屋に流れる音楽が時を知れる唯一のものだった。
「ハタケ……」
「泣くな。泣かれると困る……」
「じゃあ……一緒に歌ってくれる?」
畠山は頭を掻くとぶっきらぼうに頷いた。
それから桂子の鬼のデュエット曲メドレーが始まった。
最後は立ち上がり肩を組んで歌った。愛がテーマのデュエット曲までやり切ると桂子は楽しそうに笑った。畠山は疲れ切ったようにソファに座った。
「……もういいか? 喉が痛い」
「うん、いいよ……ハタケ」
「ん?」
畠山が呼ばれて顔を上げるとその頰に桂子はキスをした。一瞬の事なのに血が沸きそうになるぐらい顔が熱くなる。
「ありがと、ハタケ」
「……おう」
畠山はそう答えるだけで精一杯だった。心臓が痛い。気持ちを伝えたいが、奥手な自分には無理だ。
畠山はそのままリモコンを操作し始めた。その姿を見た桂子は隠れて微笑んだ。
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