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74.ハイヒール
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付き合う友達の影響か桃香はとうとう女の特権とも言えるものを買ってしまった……。
「いやぁ……早まったかなぁ、スニーカーからいきなりコレかぁ……」
机の上には黒のヒールが堂々と置かれている。しかも黒だからTHE出来る女みたいでカッコいい。
靴屋で試着した時は似合ってたはずなのに、家に帰れば後悔していた。
そもそも、こんな靴が似合う女じゃない。今は肩の高さまで髪があるが、少し前までは日焼けした猿みたいな女だった。部活の引退をむかえて桃香は受験生になった。
「売ろうかな……」
「何がだ」
振り返ると従兄の竜人が腕を組み私を見下ろしていた。同時に机の上のヒールに目をやると、あからさまに残念そうな顔をする。
腹が立つ。家庭教師じゃなければ追い返したい。
「何を色めき立ってんの、受験生が」
「ゔ……それを言わないでよ……」
桃香の将来を哀れんだ母親が姉である竜人の母親に泣きつき、結果竜人が桃香の家庭教師をすることになった。
社会人になったばかりの竜人は嫌がっていたが、慣れたのか約半年間桃香の家庭教師を続けている。
「机は勉強道具を置け。さ、今日は数学だ」
「ちょ、ちょっと待って! 竜人くん! これどう思う?……私が履いてもいいのかな?」
「あぁ?……チッ──やめとけ、子供が履くな」
「見てもないじゃん!」
口を尖らせて唸る桃香を腕を組み見つめる。竜人は諦めたようにベッドに腰掛ける。
「はいはい、じゃあ履いてみろ。デートの予定もないくせに」
「うるさいね。……私だってデートぐらいするしっ!」
桃香の言葉が意外だったようで竜人が顔を上げてじっと見つめている。
うーん……嘘だと思ってるな、よし──。
桃香は証拠を見せようと携帯電話を取り出してあるメールを見せる。
付き合ってほしい
差出人の名前には明らかに男と思われる名前とアイコン写真が使われている。桃香は印籠を突きつけるように得意げだ。
「……へぇ──だから、ヒール、ねぇ」
竜人がニヤリと笑うとヒールをカーペットの上に置いた。
「さ、どうぞ?」
「……似合うか似合わないかだけ言ってね」
桃香は椅子に腰掛けてヒールを履く。ちょうど短めのスカートを履いていたので足が少し主張されてしまうが仕方がない。
桃香の姿をベッドから座って見ていた竜人だったが、その瞳は真剣だ。恥ずかしいことをしているような気持ちになり思わず俯いた。
「ど、どうかな……その、似合う?」
「…………」
竜人は立ち上がり桃香の前に立つ。いつもは竜人の肩までぐらいしか身長がないが、ヒールを履くと目の前に竜人の口元が見える。
わ、視界が違う。
「ねえ、すごい。視界が全然違うね──」
竜人の顔が思いのほか近くにはあり桃香は固まる。
あ──あれ?
竜人はそのまま掠めるようにキスをした。事故じゃない。目の前の竜人は重なる瞬間瞼を閉じたのだから。
「……キスしてますけど」
「キスしましたけど」
「なんで?」
「……ヒールを履くとこんな風に顔が近くなるんだ。だから通りすがりにキスしまくる痴女になるかもしれない。ヒールはまだやめておけ」
「そんな鈍臭い人いないでしょ」
桃香は真っ赤になり、口元を押さえたままヒールを脱ぐ。怒る気にもならないぐらい驚き過ぎた。そのまま机に座り辞書を出す。
「……桃香、数学だから辞書はいらないぞ」
「あ、そうだね」
竜人は背後から包むように桃香に近づく。耳元のから竜人の低い声が聞こえる。
「ヒールがまだ早いって事は、付き合うのもまだ早い──告白は断れ」
「それは違──ん……」
振り返りざまに言おうとした抗議の言葉は言えなかった。その日は数学より竜人くんでいっぱいだった。
「いやぁ……早まったかなぁ、スニーカーからいきなりコレかぁ……」
机の上には黒のヒールが堂々と置かれている。しかも黒だからTHE出来る女みたいでカッコいい。
靴屋で試着した時は似合ってたはずなのに、家に帰れば後悔していた。
そもそも、こんな靴が似合う女じゃない。今は肩の高さまで髪があるが、少し前までは日焼けした猿みたいな女だった。部活の引退をむかえて桃香は受験生になった。
「売ろうかな……」
「何がだ」
振り返ると従兄の竜人が腕を組み私を見下ろしていた。同時に机の上のヒールに目をやると、あからさまに残念そうな顔をする。
腹が立つ。家庭教師じゃなければ追い返したい。
「何を色めき立ってんの、受験生が」
「ゔ……それを言わないでよ……」
桃香の将来を哀れんだ母親が姉である竜人の母親に泣きつき、結果竜人が桃香の家庭教師をすることになった。
社会人になったばかりの竜人は嫌がっていたが、慣れたのか約半年間桃香の家庭教師を続けている。
「机は勉強道具を置け。さ、今日は数学だ」
「ちょ、ちょっと待って! 竜人くん! これどう思う?……私が履いてもいいのかな?」
「あぁ?……チッ──やめとけ、子供が履くな」
「見てもないじゃん!」
口を尖らせて唸る桃香を腕を組み見つめる。竜人は諦めたようにベッドに腰掛ける。
「はいはい、じゃあ履いてみろ。デートの予定もないくせに」
「うるさいね。……私だってデートぐらいするしっ!」
桃香の言葉が意外だったようで竜人が顔を上げてじっと見つめている。
うーん……嘘だと思ってるな、よし──。
桃香は証拠を見せようと携帯電話を取り出してあるメールを見せる。
付き合ってほしい
差出人の名前には明らかに男と思われる名前とアイコン写真が使われている。桃香は印籠を突きつけるように得意げだ。
「……へぇ──だから、ヒール、ねぇ」
竜人がニヤリと笑うとヒールをカーペットの上に置いた。
「さ、どうぞ?」
「……似合うか似合わないかだけ言ってね」
桃香は椅子に腰掛けてヒールを履く。ちょうど短めのスカートを履いていたので足が少し主張されてしまうが仕方がない。
桃香の姿をベッドから座って見ていた竜人だったが、その瞳は真剣だ。恥ずかしいことをしているような気持ちになり思わず俯いた。
「ど、どうかな……その、似合う?」
「…………」
竜人は立ち上がり桃香の前に立つ。いつもは竜人の肩までぐらいしか身長がないが、ヒールを履くと目の前に竜人の口元が見える。
わ、視界が違う。
「ねえ、すごい。視界が全然違うね──」
竜人の顔が思いのほか近くにはあり桃香は固まる。
あ──あれ?
竜人はそのまま掠めるようにキスをした。事故じゃない。目の前の竜人は重なる瞬間瞼を閉じたのだから。
「……キスしてますけど」
「キスしましたけど」
「なんで?」
「……ヒールを履くとこんな風に顔が近くなるんだ。だから通りすがりにキスしまくる痴女になるかもしれない。ヒールはまだやめておけ」
「そんな鈍臭い人いないでしょ」
桃香は真っ赤になり、口元を押さえたままヒールを脱ぐ。怒る気にもならないぐらい驚き過ぎた。そのまま机に座り辞書を出す。
「……桃香、数学だから辞書はいらないぞ」
「あ、そうだね」
竜人は背後から包むように桃香に近づく。耳元のから竜人の低い声が聞こえる。
「ヒールがまだ早いって事は、付き合うのもまだ早い──告白は断れ」
「それは違──ん……」
振り返りざまに言おうとした抗議の言葉は言えなかった。その日は数学より竜人くんでいっぱいだった。
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