100のキスをあなたに

菅井群青

文字の大きさ
上 下
61 / 101

61.転校

しおりを挟む
 今日……初恋の人が転校する。

 小学生から好きだった。
 人気者でもない、目立つ訳でも運動も得意でもない……授業中に見せる彼のふとした表情に恋に落ちた。

 中学生になり父親の転勤で遠くへ引越すと担任が話すのを聞いていた。

 まさか──嘘だと思った。これからまだ私たちには時間があると思っていた。突然の事にどうしようもない……気持ちを伝えても──ダメだ。

 今日のHRで皆と写真を撮ってお別れをした。同級生の一人としてしか会話ができなかった。

『元気でね』

『ありがとう』

 多くのクラスメートがいる中本心を伝えることなんてできない。

 そんなありきたりな言葉で終わりたくない……。

 私は最後のお別れの挨拶をしに家へと向かった。彼は玄関を開けると驚いた顔をしていた。少しはにかんだように笑っていた。

「……来てくれたんだ」

「うん、もう行くの?」

「いや、明日の朝向かうよ。荷物はもう何も無いんだけどね」

 玄関に入ると不思議なぐらい声が反響している。もう、ここには誰もいなくなるんだと思うと辛くなる。

 行かないで
 好きなの
 寂しい

 全ての思いを胸に秘め、最後のプレゼントを渡す。彼はそれを受け取ると嬉しそうに笑った。

「ありがとう大事にするよ」

「うん……じゃ、元気で──」

 ダメだ、泣きそうだ。言葉の続きは言えない。

「──っ! ありがとう……その、元気でね」

 私はそのまま急いで立ち去ろうとした。

「待って! あの──よかったら、来週、映画見に行かない?」

「……え?」

「あの、その──出来ればでいいんだけど……」

 映画? 来週? 何の話だろう……引っ越すのに……。

「え、安藤くん、遠くに引越すんじゃ……」

 目の前の彼は瞬きを繰り返す。

「遠いよ? ここから電車で……一時間半かな?」

「……近いじゃん」

 私は涙が出る。
 転校するがもう会えない距離じゃない。子供の私たちにとっては遠い距離だが、大した距離じゃないように思えた。

「あの、好きなんだ……黒田のこと。転校前に言いたかったんだけど、学校ではチャンスがなくて諦めてたんだけど……」

「私も好き、だ、よ」

 二人はみるみる顔が赤くなる。安藤くんはもう顔から火が出そうなくらい真っ赤だ。胸が痛くなるほど脈が早く打っているのがわかる。

「黒田……」

 安藤くんは私の頬に掠めるようにキスをした。次は私の顔から火が出る番だった──。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?

ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。 しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。 しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…

処理中です...