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51.こたつ
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「「ハッピーニューイヤー!」」
テレビの生放送ではテンションの上がった芸人が新年を祝うように雄叫びを上げた。その様子を私は冷めた目で見つめる。だからといってテレビの電源ボタンを押そうという気にもならない。消してしまえば今の私には何も残らない。
こたつの上に置かれた落花生と温州みかんは尽きた……あと私がすべき事はこのままこたつで寝てしまうことだ。
あったかい。
最高だ……。一体誰なんだ? こんな素敵なものを発明した日本人は……。
ゆっくりと眠気に襲われていく。
あぁ……クリスマスに振られた私にもこんな至福のときが訪れるなんて……。
「おーい、ノリいるか?」
微睡みの中、男の声が聞こえた……私をそう呼ぶ人間は、一人しかない──。典子はこたつの誘惑には勝てず、そのまま夢の中へと引き込まれていった。
随分と寝ていたのだろう。体が痛い。こたつから目覚めるとすぐに後悔する。ゆっくりと瞳を開ける。喉が渇いて仕方がない……。
は?
なぜかこたつにもう一人いる。足だけ入れて私の頭を抱えるように横になっている。男のズボンのベルトが目の前にある……異様な光景だ。小さなこたつはおしくらまんじゅう状態だ。
ゆっくりと顔を上げると、そこには幼なじみで腐れ縁の佑がいた。
急病の際助け合うため母親同士の提案で私達は互いのアパートの合鍵を持っている。
よりによって大晦日にこの鍵が初めて使われた。
「なんで……?」
「……ん? 急病だろ?」
独り言のつもりで発した声に返事が返ってきて驚いた。佑はどうやら起きていたらしい。
「年末のくせに帰省しないって、おばちゃんが言ってた。何かあったのかと俺んとこに連絡きたんだよ」
「……佑こそなんで実家に帰らなかったの?」
佑の顔は見えないが、少し戸惑ったような空気を感じた。
「つまんないだろ、お前いないんだし……だから、迎えにきた……ここにいると思った」
佑は典子の額をペシッと叩く。
「ノリ、振られたのか?」
「……ふん、だから何? 浮かれてたわよ、悪い?」
典子は五年付き合った彼氏に振られた。話があると言われた時にプロポーズだと思い込んでいた自分を呪いたい。
「ほら、やっぱ急病じゃん」
佑は私を抱きしめる力を更に強めた。
う、どうしよう……泣いちゃいそうだ。
典子が我慢できずに泣き出す。
すぐさま佑が典子をこたつから引っ張り出す。典子の体を起こしてやると佑は再び抱きしめた。
部屋の真ん中で座ったまま抱き合う……。
一体どういう状況なのか分からず典子は戸惑う。佑は自分の胸に典子をすっぽりと閉じ込めたまま、何も言わず動こうともしない──佑の香りが鼻腔いっぱいに広がる。
ああ、佑の匂いだ。
なぜか落ち着く。昔からそばにある香りだからかもしれない。
「ノリ、もう……いいか?」
「……何が?」
「もう、そろそろ俺の番でいいだろ?」
佑は典子から体を離すと典子の口を塞ぐ。勢いよく口付けたので油断していた典子の歯が佑の唇に当たる。佑はお構いなしにさらに深く口付ける。
佑なのに、佑のくせに……どうして心地よいのだろう。昔から知っている唇だし、何度もふざけてつねり合った頰が触れているだけなのに……。
ずっとこうしたい。
もっと繋がりたい。
いつのまにか自ら舌を動かし佑を感じようとしていた。騒がしいテレビの音と自分たちの粘膜が触れ合うような水々しい音だけが響く。
「……頼むから、もう俺を選んでくれよ。もう待ちくたびれて、普通になんて告白できなくなったんだから」
佑は唇を離すと私の胸へ額をつける。
小さい、こんなに佑は弱気な男だったか?
いつもと違う佑を目の当たりにして、典子は声が出なかった。
私が、そうさせているのか……。
典子はそのまま抱きしめると佑はおずおずと典子の背中に手を回した。
胸がときめく。居酒屋で何の気なしに抱擁した時とは違う何かが自分の心に生まれたのを感じた。
なんだ、佑のこと……ちゃんと男として好きなんだ。
自分の気持ちを再確認できた。
「佑、あけましておめでとう。開けて早々あれなんだけど──」
──お待ちどうさま……愛し合おうか?
典子は佑に耳打ちする。佑の顔が真っ赤になり動揺したのを確認すると典子は佑の手を引きそのまま隣の寝室へと連れて行った。
テレビの生放送ではテンションの上がった芸人が新年を祝うように雄叫びを上げた。その様子を私は冷めた目で見つめる。だからといってテレビの電源ボタンを押そうという気にもならない。消してしまえば今の私には何も残らない。
こたつの上に置かれた落花生と温州みかんは尽きた……あと私がすべき事はこのままこたつで寝てしまうことだ。
あったかい。
最高だ……。一体誰なんだ? こんな素敵なものを発明した日本人は……。
ゆっくりと眠気に襲われていく。
あぁ……クリスマスに振られた私にもこんな至福のときが訪れるなんて……。
「おーい、ノリいるか?」
微睡みの中、男の声が聞こえた……私をそう呼ぶ人間は、一人しかない──。典子はこたつの誘惑には勝てず、そのまま夢の中へと引き込まれていった。
随分と寝ていたのだろう。体が痛い。こたつから目覚めるとすぐに後悔する。ゆっくりと瞳を開ける。喉が渇いて仕方がない……。
は?
なぜかこたつにもう一人いる。足だけ入れて私の頭を抱えるように横になっている。男のズボンのベルトが目の前にある……異様な光景だ。小さなこたつはおしくらまんじゅう状態だ。
ゆっくりと顔を上げると、そこには幼なじみで腐れ縁の佑がいた。
急病の際助け合うため母親同士の提案で私達は互いのアパートの合鍵を持っている。
よりによって大晦日にこの鍵が初めて使われた。
「なんで……?」
「……ん? 急病だろ?」
独り言のつもりで発した声に返事が返ってきて驚いた。佑はどうやら起きていたらしい。
「年末のくせに帰省しないって、おばちゃんが言ってた。何かあったのかと俺んとこに連絡きたんだよ」
「……佑こそなんで実家に帰らなかったの?」
佑の顔は見えないが、少し戸惑ったような空気を感じた。
「つまんないだろ、お前いないんだし……だから、迎えにきた……ここにいると思った」
佑は典子の額をペシッと叩く。
「ノリ、振られたのか?」
「……ふん、だから何? 浮かれてたわよ、悪い?」
典子は五年付き合った彼氏に振られた。話があると言われた時にプロポーズだと思い込んでいた自分を呪いたい。
「ほら、やっぱ急病じゃん」
佑は私を抱きしめる力を更に強めた。
う、どうしよう……泣いちゃいそうだ。
典子が我慢できずに泣き出す。
すぐさま佑が典子をこたつから引っ張り出す。典子の体を起こしてやると佑は再び抱きしめた。
部屋の真ん中で座ったまま抱き合う……。
一体どういう状況なのか分からず典子は戸惑う。佑は自分の胸に典子をすっぽりと閉じ込めたまま、何も言わず動こうともしない──佑の香りが鼻腔いっぱいに広がる。
ああ、佑の匂いだ。
なぜか落ち着く。昔からそばにある香りだからかもしれない。
「ノリ、もう……いいか?」
「……何が?」
「もう、そろそろ俺の番でいいだろ?」
佑は典子から体を離すと典子の口を塞ぐ。勢いよく口付けたので油断していた典子の歯が佑の唇に当たる。佑はお構いなしにさらに深く口付ける。
佑なのに、佑のくせに……どうして心地よいのだろう。昔から知っている唇だし、何度もふざけてつねり合った頰が触れているだけなのに……。
ずっとこうしたい。
もっと繋がりたい。
いつのまにか自ら舌を動かし佑を感じようとしていた。騒がしいテレビの音と自分たちの粘膜が触れ合うような水々しい音だけが響く。
「……頼むから、もう俺を選んでくれよ。もう待ちくたびれて、普通になんて告白できなくなったんだから」
佑は唇を離すと私の胸へ額をつける。
小さい、こんなに佑は弱気な男だったか?
いつもと違う佑を目の当たりにして、典子は声が出なかった。
私が、そうさせているのか……。
典子はそのまま抱きしめると佑はおずおずと典子の背中に手を回した。
胸がときめく。居酒屋で何の気なしに抱擁した時とは違う何かが自分の心に生まれたのを感じた。
なんだ、佑のこと……ちゃんと男として好きなんだ。
自分の気持ちを再確認できた。
「佑、あけましておめでとう。開けて早々あれなんだけど──」
──お待ちどうさま……愛し合おうか?
典子は佑に耳打ちする。佑の顔が真っ赤になり動揺したのを確認すると典子は佑の手を引きそのまま隣の寝室へと連れて行った。
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