100のキスをあなたに

菅井群青

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43.兄友

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「えっと……んじゃ、このタイミングで恵那ちゃんに出てきてもらって……お祝いの言葉を言ってもらって──」

「そうですね、その間に門田さんは披露宴会場を出てもらって、ビールサーバーの準備をしましょう」

 狭い居酒屋の個室で男女のカップルが真面目な顔をして酒も飲まずに真剣な話をしている。

 それはそうだ。人生に一回の晴れ舞台だ、たぶん一回。来月の頭に私の兄が結婚する。よりによって私の親友と……。 

 全く、いつの間にそんなことになったのだろうか……。

  何度か実家に連れて行ったのだが、まさか付き合うとは夢にも思わなかった。彼氏ができたと聞き名前を聞いて本当に椅子からひっくり返った。本気で驚くとテレビみたいにひっくり返るものなんだなと思った。

「……恵那ちゃん聞いてる?」

「あ、ごめんなさい……」

 目の前の背の高いくっきり二重の男性は兄の親友の門田さんだ。
 高校からの付き合いだからだいぶ長い。私も面識はあったがほとんど話したこともなかった。大人になりこうして再会してみると意外に話しやすい人だった。出会ったあの頃は思春期という難しい年頃だったからかも知れない。

 二次会の幹事を任された私達はこうして最近居酒屋で集合していた。あとは列席者の確認作業だ。それは兄たちにも協力してもらえばすんなり終わるだろう。

 ひと段落して私達はつまみを追加注文し、酒を飲み出した。恵那は実はザルだ。門田は逆に好きだがあまり飲めないようだった。恵那が強いことを知ると門田は恥ずかしそうに頭を掻いていた。

 しばらく飲んでいると門田の顔がどんどん赤くなる。おかしい……いつもこんなにも酔わないはずだ。

「門田さん……なんか顔赤くないですか?」

「あ……もしかして……風邪気味だったからかな……」

「え……言ってくださいよ! 打ち合わせ延期したのに……さ、もう帰りましょう。熱が出ちゃったのかも」

 恵那が門田の体を支えて店を出た。背の高い門田を支えるのはひと苦労だ、途中商店街のベンチに座らせると水を買いにコンビニ向かった。帰ってくると門田が頭を抱えて座っていた。だいぶ調子が悪そうだ。

「これ、水飲んでください。飲むと少しは……」

 門田に駆け寄りペットボトルの蓋を開けようとしていた恵那の腕を掴んで、自分の元へと引き寄せると抱きしめた。門田の頭が恵那の胸の下にある。いつもは身長差があり触れることのない髪が目の前にある。

「ごめん、ちょっとだけ、ちょっと……」

「え? ええ……はい……」

 胸に感じる門田の体温と背中に回された逞しい腕に恵那は動けなくなる。自分の心臓の音が門田の耳には聞こえているはずだ。おかしくなるぐらい心臓が激しく動いている。

 お願い、静かにして!

「恵那ちゃん……ドキドキしてくれるの?」

 門田が恵那を離して見上げる。視線が交差すると恵那は思わず目を逸らす。

「そりゃ……そうです……」

「嬉しいな……恵那ちゃんが好きだから、俺」

「……はい? あ──何言ってんですか、もう」

「高校の時に好きで、卓に諦めろって言われて……大人になって再会してみたら……もっと可愛くて……まったく卓のせいだ。何があの時の詫びだ……遅すぎだ」

 門田は頭が痛いらしい。恵那から離れると額に手を当てて項垂れる。

「あの……遅いんです、か?」

「恵那ちゃん、彼氏いるだろ? 同棲中の、男」

「ん、あ……いますけど、マルチーズの次郎が……」

「……ん!?……イテテ」

 一気に興奮して大声を出したせいで血圧が上がり、門田がこめかみを押して苦しみ出す。思わず恵那は吹き出した。

「あはは……おっかしい……門田さん、可愛いですね」

「笑い事じゃない! 卓の野郎……アイツわざと誤解させたままだったな……」

 いたずら好きの兄らしい。
 そして、そのいたずら好きはわが家の病だ。恵那は門田に近づくと顎に手を添えて上を向かせるとその唇に音を立ててキスをした。

 チュ

 門田の顔がより真っ赤になった気がした。瞳が落ちそうなぐらい大きく見開かれている。

「驚きました?ふふ」

「あの兄にして、この妹か……全く」

 門田は再び恵那の腕を引くともう一度口付けた。今度はいたずらじゃない、本物のキスを……。
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