100のキスをあなたに

37.アイスクリーム

　夏休みに入りようやく学校から解放されたというのに、次は照りつける太陽の所為で家から出ることができない。テレビでも連日のように熱中症患者の緊急搬送のニュースが取り上げられている。

　クーラーも効いている感じがしない。
　リビングでアイスクリームを咥えて仰向けで寝ていると、玄関から従兄弟である卓兄の声が聞こえる。どうやら図書館から帰ってきたようだ。

　関西の大学に進学した卓兄はわざわざこんな田舎まで帰ってきた。長い夏休みで余計なお金を使いたくないというが、ここまで帰ってくる交通費のことを考えるとそれは間違っているのではないかと思う……言ったら帰ってこなくなるかもしれないので言わないが。

　卓兄がリビングに入ってくるとソファーに寝転ぶ私を見て一瞬ビクッと体を揺らした。ソファーが大きいので寝転ぶ私が見えなかったのだろう。

「おかえり、勉強ははかどった？」

「まぁまぁだな、ってか暑い……」

　卓兄は汗だくだった。図書館までは徒歩十分だ。今日ぐらいの太陽の照り付けなら片道だけで着替えないとだめだ。

　卓兄は私の手元のアイスクリームに目をやるとゾンビのようにそのアイスめがけて手を伸ばす。


　取られる！

　すぐさまアイスクリームを口の中へと戻して、必死に取られまいと体をよじる。

「一口よこせ」

「やら、あたひのだ」

　咥えているので何を言っているか分からないだろう。卓兄の足が私の足に引っかかりドサッと私の体に卓兄が覆いかぶさる。まるでソファーで抱き合っているようで、一瞬思考が止まる。

　思考だけじゃない……そのまま体も動かせなくなる。足が絡み合っている感覚……そして、目の前に卓兄の顔がある、それだけで目が離せない。
　卓兄もじっと私の顔を見ている。いや、私の口元のアイスを見ているのかもしれない。

「……よこせ」

　卓兄はアイスを私の口から引き抜くとそのままパクッと咥えて食べ始めた。あっという間に消えていく。

　恥ずかしい……。昔から間接キスなんて慣れてたのに、この至近距離では、かなり恥ずかしい。

「私のアイスが……ああ……」

「……返す」

　そういうと卓兄が私の唇を舐める。

　は、はい？

　あの真面目な卓兄が、レールの上を慎重に走るようなそんな卓兄が、私の唇を舐め、そして……静かにキスをした。

　とにかく、甘い。
　生クリームのいい香りが二人の間を漂うようだ。

「……ごちそうさん」

「……ば、ばかじゃないの……」

　真っ赤な顔をしているであろう私の頭を卓兄はぐしゃぐしゃにかき混ぜた。

　きっと、恥ずかしかったんだろう。