100のキスをあなたに

菅井群青

文字の大きさ
上 下
35 / 101

35.塾

しおりを挟む
 夏休みに入ると塾は朝から学生たちが多くなる。いつものメンバーだけではない、夏期講習を申し込んできた学生も加わり一気に賑やかになる。

 静香は大きく溜息をつく。
 ホワイトボードを指差し数式を説明する若い男性講師を睨みつけていた。なんともまぁ集中力のない、やる気がないと思われそうだがそれには理由がある。決して不真面目なわけではない……。

「──であるからして……ここのXを置き換えて……」

 丁寧に説明していくこの男性講師の周りには瞳の中にハートマークをつけた女子どもがうようよ群がっている。

 何よ……多賀先生もまんざらでは無い感じ…… 。

 静香は多賀のことが好きだった。

 最近になり多賀は黒縁メガネからコンタクトレンズに変えた。それに長かった髪もバッサリと切り爽やかになった。

 静香は気づいていたが、多賀が綺麗な顔であることが皆にバレて一気に人気男性講師になってしまった。自分だけが知っていればいいと思っていたのになぜ今になってコンタクトレンズにしたのか……。

 静香は再び大きく溜息をついた。

 その日、静香は晩遅くまで塾に残っていた。ただ単にキリのいいところまで問題集をやり切りたかっただけだ。喉が渇いたので自動販売機にいこうと席を立つと途中で多賀とすれ違った。
 一瞬息を飲むがそのまま会釈をして横を通り過ぎようとするとその手を取られた。

「中村、何怒ってんの?」

「怒って、ませんよ」

 嘘だ。嫉妬で気持ちがぐちゃぐちゃしている。こんな醜い顔をした自分を見られたくないだけだ。

「……ちょっと、きて」

 そのまま塾の非常用階段に出る。ここは生徒が出ることを許されていない。主に塾の喫煙する講師しか利用しない。

「せっかく……伊達眼鏡を外したんだけど……逆効果だったな」

「え?」

「俺、視力悪くないんだ。眼鏡は度が入っていない」

 多賀が面白そうに微笑むが静香は訳がわからず呆然とその瞳を見つめる。

「なんで──そんな事」

「中村の視線を、見ないようにするため」

 言われたことを理解した瞬間一気に顔が赤くなる。ずっと特別な目で見ていたことがバレていたということか……。

「ごめんなさい、その──」

「違うよ。だから、眼鏡を外したんだ。中村の視線をちゃんと見たくて──意味わかんない? ちゃんと言わないと、ダメ?……中村は頭がいいから、俺の気持ち……わかるよね?」

 そういって多賀は静香との距離を詰める。背の高い多賀の顔を見るために上を見上げる。

 多賀は静香の頰を包み込むとそっとキスをした。

「……悪い、先生だな──これでも、随分我慢したんだが……」

「良いとか悪いとかは、関係ないです。私には……」

 多賀は嬉しそうにもう一度キスをした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?

ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。 しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。 しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…

処理中です...