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35.塾
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夏休みに入ると塾は朝から学生たちが多くなる。いつものメンバーだけではない、夏期講習を申し込んできた学生も加わり一気に賑やかになる。
静香は大きく溜息をつく。
ホワイトボードを指差し数式を説明する若い男性講師を睨みつけていた。なんともまぁ集中力のない、やる気がないと思われそうだがそれには理由がある。決して不真面目なわけではない……。
「──であるからして……ここのXを置き換えて……」
丁寧に説明していくこの男性講師の周りには瞳の中にハートマークをつけた女子どもがうようよ群がっている。
何よ……多賀先生もまんざらでは無い感じ…… 。
静香は多賀のことが好きだった。
最近になり多賀は黒縁メガネからコンタクトレンズに変えた。それに長かった髪もバッサリと切り爽やかになった。
静香は気づいていたが、多賀が綺麗な顔であることが皆にバレて一気に人気男性講師になってしまった。自分だけが知っていればいいと思っていたのになぜ今になってコンタクトレンズにしたのか……。
静香は再び大きく溜息をついた。
その日、静香は晩遅くまで塾に残っていた。ただ単にキリのいいところまで問題集をやり切りたかっただけだ。喉が渇いたので自動販売機にいこうと席を立つと途中で多賀とすれ違った。
一瞬息を飲むがそのまま会釈をして横を通り過ぎようとするとその手を取られた。
「中村、何怒ってんの?」
「怒って、ませんよ」
嘘だ。嫉妬で気持ちがぐちゃぐちゃしている。こんな醜い顔をした自分を見られたくないだけだ。
「……ちょっと、きて」
そのまま塾の非常用階段に出る。ここは生徒が出ることを許されていない。主に塾の喫煙する講師しか利用しない。
「せっかく……伊達眼鏡を外したんだけど……逆効果だったな」
「え?」
「俺、視力悪くないんだ。眼鏡は度が入っていない」
多賀が面白そうに微笑むが静香は訳がわからず呆然とその瞳を見つめる。
「なんで──そんな事」
「中村の視線を、見ないようにするため」
言われたことを理解した瞬間一気に顔が赤くなる。ずっと特別な目で見ていたことがバレていたということか……。
「ごめんなさい、その──」
「違うよ。だから、眼鏡を外したんだ。中村の視線をちゃんと見たくて──意味わかんない? ちゃんと言わないと、ダメ?……中村は頭がいいから、俺の気持ち……わかるよね?」
そういって多賀は静香との距離を詰める。背の高い多賀の顔を見るために上を見上げる。
多賀は静香の頰を包み込むとそっとキスをした。
「……悪い、先生だな──これでも、随分我慢したんだが……」
「良いとか悪いとかは、関係ないです。私には……」
多賀は嬉しそうにもう一度キスをした。
静香は大きく溜息をつく。
ホワイトボードを指差し数式を説明する若い男性講師を睨みつけていた。なんともまぁ集中力のない、やる気がないと思われそうだがそれには理由がある。決して不真面目なわけではない……。
「──であるからして……ここのXを置き換えて……」
丁寧に説明していくこの男性講師の周りには瞳の中にハートマークをつけた女子どもがうようよ群がっている。
何よ……多賀先生もまんざらでは無い感じ…… 。
静香は多賀のことが好きだった。
最近になり多賀は黒縁メガネからコンタクトレンズに変えた。それに長かった髪もバッサリと切り爽やかになった。
静香は気づいていたが、多賀が綺麗な顔であることが皆にバレて一気に人気男性講師になってしまった。自分だけが知っていればいいと思っていたのになぜ今になってコンタクトレンズにしたのか……。
静香は再び大きく溜息をついた。
その日、静香は晩遅くまで塾に残っていた。ただ単にキリのいいところまで問題集をやり切りたかっただけだ。喉が渇いたので自動販売機にいこうと席を立つと途中で多賀とすれ違った。
一瞬息を飲むがそのまま会釈をして横を通り過ぎようとするとその手を取られた。
「中村、何怒ってんの?」
「怒って、ませんよ」
嘘だ。嫉妬で気持ちがぐちゃぐちゃしている。こんな醜い顔をした自分を見られたくないだけだ。
「……ちょっと、きて」
そのまま塾の非常用階段に出る。ここは生徒が出ることを許されていない。主に塾の喫煙する講師しか利用しない。
「せっかく……伊達眼鏡を外したんだけど……逆効果だったな」
「え?」
「俺、視力悪くないんだ。眼鏡は度が入っていない」
多賀が面白そうに微笑むが静香は訳がわからず呆然とその瞳を見つめる。
「なんで──そんな事」
「中村の視線を、見ないようにするため」
言われたことを理解した瞬間一気に顔が赤くなる。ずっと特別な目で見ていたことがバレていたということか……。
「ごめんなさい、その──」
「違うよ。だから、眼鏡を外したんだ。中村の視線をちゃんと見たくて──意味わかんない? ちゃんと言わないと、ダメ?……中村は頭がいいから、俺の気持ち……わかるよね?」
そういって多賀は静香との距離を詰める。背の高い多賀の顔を見るために上を見上げる。
多賀は静香の頰を包み込むとそっとキスをした。
「……悪い、先生だな──これでも、随分我慢したんだが……」
「良いとか悪いとかは、関係ないです。私には……」
多賀は嬉しそうにもう一度キスをした。
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