100のキスをあなたに

菅井群青

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26.階段

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 今日は金曜日だ。最高の夜だ。日頃家と会社の往復ばかりの人たちも金曜日は財布の紐も緩みやすい。

 ここにもその一人がいる。給料日前のくせに張り切って飲みまくったバカなやつだ。

「たっちゃん、早くーかえろー」

 国道沿いの歩道を歩いているが右に左にふらふらと危なっかしい。達也は亜希の手を取るとふらつく体を支える。

 亜希は子供のように満面の笑みでこちらを見上げる。亜希は幼い頃から共に育った妹みたいな存在だ……表向きは。隣同士の幼馴染なんて世の中にどれほどいるか分からないが、恋愛対象になってハッピーエンドなんてことはほぼないと思う。
 現に、再び俺の腕を離れて飛行機のように腕を伸ばし走り出した亜希は俺のことをただの保護者としか思っていない。

 そういう風に接してきたのは俺だし仕方がない。諦めている。大きく息を吐くといつのまにか亜希が歩道橋の階段をふらふらと上り始めた。

「おいおい! ちょっと待てって!」

 あの足取りで階段は危険だ。達也は駆け足で歩道橋を上り始める。案の定亜希の体が後ろに倒れそうになり、間一髪亜希の背中に腕を回した。

 俺の胸に頭が当たったまま亜希が固まっている。そのまま顎を上げて俺の顔を確認する。目と目があった瞬間亜希が信じられないほど顔を赤らめ大きな口を開ける。

「あ、あああ」

 うまく声も出ないらしい。ん? もしかして──。

 そのまま体を起こすと一段上の階段に向かい合わせに立たせる。いつも頭一個分背が高い俺と同じ目線になり至近距離になる。

「な、なんで……なに?」

「どうした? なんでそんなそわそわしてるんだ?」

 俺はわざと気づかぬふりをする。慌てる亜希が可愛い。なんだ……ずっとこんな風に隠してたのか? 俺みたいに。

 真っ赤な亜希の頰に触れてみる。開いていた口が閉じ小さく震えている。それでも俺から視線を離そうとしない。俺が顔を近づけていくと亜希はゆっくりと目を閉じていく。唇が重なった瞬間酒の香りに混じって亜希の甘い味がした。

「……酒、飲み過ぎ」

「たっちゃんだってビール飲み過ぎだよ」

 お互いに吹き出して笑うと再びキスをした。俺たち二人のファーストキスは酒の味だ。
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