100のキスをあなたに

菅井群青

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24.落ち葉

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 高校の旧校舎には大きなイチョウの木がある。樹齢何年かは知らないが相当大きい。その木のせいで秋になるとこの大木の近くにある家庭科室の掃除当番は俄かに忙しくなる。
次から次へと落ちてくる落ち葉に格闘する日々が始まる。
 私は溜息をつきながら黄色の綺麗な落ち葉をかき集めて壁際に寄せる。

「斉田ー、もっと北側んとこやれよ」

「分かってるって、そっちこそフェンスの所ちゃんとしなよ」

 私の言葉にふてくされた態度をとる山崎は大股でフェンス側に向かい黄色の群れをレーキでかき集める。

 この時期の家庭科室の掃除当番にこの男と選ばれてしまった。
 山崎智……半年前に別れた元彼だ。

 隣のクラスだったが学年が上がりまさかの同じクラスになってしまった。しかもなぜか同じ掃除当番……。
 別れたきっかけはよく覚えていない。何かで大げんかし、亀裂が入ったことしか覚えていない。

 学ラン姿がよく似合うその男に告白された時のことを思い出した。頰を赤らめていたのを思い出し笑う。余計なことを思い出した。


「おい、終わるぞ」

「あ、はいはい」

 足元に溜まっていたイチョウの葉をかき集めると山積みになった黄色の山へと足してやる。こんもりとした山を見ると私はウズウズとしてきた。

「ちょ……ごめん!」

「え、って、おい!」

 山崎の声はもう聞こえなかった。黄色のイチョウの山にダイブした。ガサガサと葉が擦れる音と中にあった空気が押し出される感覚がした。堪能していると横にボフッと何かが落ちてきた。山崎が真似をして飛び込んできたらしい。

「斉田お前一人ズルイぞ。俺だって我慢してたのに」

「はは、ごめんごめん……さ、行こうか」

 起き上がり髪に刺さったイチョウの葉を取る。頭を振ってみるがよくわからない。

「取れた?」

「……いや?」

 山崎が腕を伸ばして私の髪に触れた。一瞬体が強張ってしまった。しまった、意識しないように気をつけていたのに。山崎はそっと葉を抜き取るとその辺に捨てた。その目は細められ、私を睨む。

「ごめん」

 山崎が急に私に近づいてキスをする。一瞬のことだが、懐かしい山崎のキスの味がした。一気に昔のことを思い出す。

「何してんの? あんた、私達もう──」
「別れてる」

 山崎は食い気味に答えた。

「じゃあ、こんなこと、しないでよ……」

 話していて泣きそうだった。山崎の口から別れてる事実を聞かされて傷つく。もう過去のことだと言われたようだ。

 まだ引きずっている……しつこいな、私も。

「別れたけど、好きなんだ。麻季のこと……」

 久しぶりに聞く呼び方に動揺する。いま、なんて言った? 夢じゃない?

「やりなおして。俺と付き合って」

「バカ……」

 山崎は冗談を言っているようには見えなかった。私は座ったままのイチョウの山に山崎を引きずり込みその体を抱きしめた。

 山崎は嬉しそうにキスを返す。誰にも見えないように……黄色の葉が覆い隠してくれた。
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