100のキスをあなたに

菅井群青

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15.雨宿り

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 梅雨時期はみんな憂鬱そうだ。歩く姿も傘をさし、顔が影になっているからって訳じゃないだろう。きっと人間だけじゃない、カッパを着たまま散歩をする柴犬だって、どこにも行けず軒下でじっとしている猫だってそうだ。
 そして、急な雨だっていうのに学校で傘を盗まれた俺だってそうだ。雨なんてクソ食らえだ。

 俺は学校から鞄を抱えて走り出した。徒歩で十五分、走って七分……遠い道のりだ。俺は勢いよく走り出した──。

 ザァ──。

 俺が走り出したのが気に食わないのかなぜかこのタイミングで雨足が一気に強くなる。ついてない……。そのまま走っていると途中で誰かに呼び止められた。

「ち……ょ、ね、ねぇってば!! 和樹!」

 雨音が酷すぎて小学校からの友人の沙織の声が聞こえなかった。呼び止めようと走ったのだろう、俺のシャツを掴み赤い傘を差し出す沙織のほうも急激な雨のせいでずぶ濡れだ。

「おま、お前何やってんだよ! 風邪引くぞ!」

「和樹だって風邪引く! いいからうちに寄って行きなよ!」

 お互い同じ傘の下にいるのに大声で話す。耳に入る雨音がうるさすぎて自然と大声になる。
 半ば無理やり引っ張られて数メートル先の一軒家に押し込まれる。ここは沙織の家だ。小学生の頃その他大勢の友達とよく訪れていたが成長するにつれて遊びに来ることもなくなってしまった。記憶の中よりも少し年季の入った玄関の柱に過ぎた年月を感じていた。

「入って……誰もいないし」

「おお……」

 沙織の家にみんなで入り浸ったのは沙織の両親は共働きでゲームがやり放題だったことを思い出す。

 俺はびちゃびちゃになった靴を脱ごうとするが中にまで水が入り靴下が絞れそうなぐらい濡れていた。このまま他所の家に上がるわけにもいかず固まっているとバスタオルを持った沙織が現れた。俺の様子に苦笑いするとそのままバスタオルを押し付けた。

「ここでいいかな、ちょっと待って、雨止んだかな?」

 俺の横を通り抜けて玄関のドアを開ける。沙織の背中は濡れて下着が透けている。それに気づくと一気に緊張度が増す。

「まだダメだね、傘貸そうか……」
 沙織が振り返るとダメだとわかっているのに自然と沙織の胸元へ視線がいく。濡れたシャツが肌に所々くっつき細かなレースが映し出さされている。気づいてしまえばもう止められない黒髪のショートヘアから時々落ちる雫や、束になった髪の隙間から見える白い首筋とか濡れて熟れたような唇に目がいく。みるみる赤くなる俺を沙織が不思議そうに見つめる。

 玄関のドアを閉めると一歩俺に近づくが、とっさに俺は腕を伸ばして沙織がこれ以上近づけないようにする。

「いや、待て──そこで待て」

「いや、犬じゃねーし」

 てっきり冗談を言っていると思ったに違いない。だけどもう片方の腕で真っ赤になった顔を隠していることに気がつくと、ようやく自分の状況がわかったらしい。

「あ、そういうこと?」

 沙織は笑ってもう一歩俺に近づく。いやいや待て待てと言う俺の心の動きに反して沙織が俺との距離を詰めてくる。

「和樹……私のこと一応女と思ってたのね?」

「…………」

 それどころか好きだったなんて口が裂けても言えない。高校生になり通う学校は違うが時々見かける沙織に淡い思いを抱いていた。これ以上俺に近づかないようにしていた腕を沙織が掴むと自分の頰に触れさせる。雨に濡れた冷たい頰に一気に和樹の熱が上がった。
 
 何かがプツっと切れた。

 俺は沙織に近づき口付けた。
 触れた瞬間何もかもが吹っ飛んで沙織を堪能する。沙織は抵抗もしない。むしろ沙織の頰を包んでいた俺の手に重ねるように自身の手を添えた。それだけで俺のタガは一気に外れ沙織を抱きとめていた。

 ゆっくりと離れると沙織も俺も真っ赤なお互いの顔を見つめていた。

 エロい……。こんな顔するのか……。

「俺、沙──」
「和樹がずっと好きだった」

 沙織の顔は今にも泣きそうだ。俺がなにを言うかわからず不安だったのだろう。必死に気持ちを伝える沙織を俺はしっかりと抱きとめて耳元で聞こえるように囁いた。

 俺も、好きだ──。

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