12 / 101
12.二人乗り
しおりを挟む
HRが終わり担任の先生の話が終わった途端に教室の前後のドアが開く。一斉に皆が出て行くのを麻子は頬杖をつきながら眺めていた。部活に行く子、バイトに行く子、友人と痴話話をしながら出て行く子たちがあっという間にいなくなり一気に教室が寂しくなる。
前の席に座っていた友人もカバンに荷物を詰め込むと私の方を振り返る。
「麻子、池崎くん待ち?」
「うん。先帰っていいよ」
友人に別れを告げると教室に一人ぼっちになった。しばらくして隣の教室からぞろぞろと学生が廊下を歩く音がする。その中に目当ての人物を見つけると麻子は手をあげた。麻子に気が付くと彼は友人に別れを告げ教室へと入ってくる。
「待った?」
「ううん、今終わった所」
麻子は立ち上がり池崎の横を歩き始めた。池崎は一週間前に付き合い出した麻子の彼氏だ。
サラサラの茶色い髪は地毛で、思わず触れたくなるほどいい香りがする。本人は茶髪だと生活指導の先生に目をつけられると嫌がっているようだが麻子はその髪に惹かれていた。
駐輪所に停めてあった池崎の自転車を取りに行くと、ゆっくりと二人は歩き出した。校門を出てしばらくすると池崎はゆっくりと自転車を跨いだ。麻子のカバンを自分のカバンの上に乗せると、それが合図だったかのように麻子が荷台に腰掛ける。
「行くよ」
「うん」
ゆっくりと自転車のペダルを踏み込む。この瞬間が麻子は好きだ。
少し小高い丘の上にあるこの学校の帰り道はほとんどが下り坂だ。秋から冬になろうとしているこの季節は頰に当たる風も心地よい。横向きに座っているので右肩が池崎の体温と混ざり合いより温かさを感じる。風が吹くと池崎の髪がなびいていい香りが麻子の元へと届く。
あぁ、もっと坂道が続けばいいのに。
次の日の朝になればこの坂道を上がる時に逆のことを思うのにいつもこの瞬間はこう思ってしまう。坂道が終わるころ小さな公園が見えてくる。公園のそばに来ると池崎はスピードを緩め停車した。
停まると池崎は後ろを振り返る。振り返った瞬間にいい香りが遠ざかった気がして思わず立ち上がる。意外と近くに池崎の顔があって麻子は息を止める。池崎は麻子が降りて軽くなった自転車を片手で支えると麻子の頰に手をやり掠めるようなキスをした。
照れ隠しでちょっと悪戯っぽく笑う池崎に麻子もなぜかつられて笑ってしまう。
キスは池崎の香りでいっぱいだ。池崎の香りがそのまま鼻に抜けていくような気がした。甘くて、思わず身震いするようなそんなキス。
「麻子ちゃん……」
「な、に?」
「自転車見るたびに、この事思い出してにやけるかも……」
池崎の顔は真っ赤で、本当にそう思っているのだろう。麻子は空いていたハンドルを支えると池崎の唇に自分のそれを重ねた。
「私も」
二人はそう言って笑った。
前の席に座っていた友人もカバンに荷物を詰め込むと私の方を振り返る。
「麻子、池崎くん待ち?」
「うん。先帰っていいよ」
友人に別れを告げると教室に一人ぼっちになった。しばらくして隣の教室からぞろぞろと学生が廊下を歩く音がする。その中に目当ての人物を見つけると麻子は手をあげた。麻子に気が付くと彼は友人に別れを告げ教室へと入ってくる。
「待った?」
「ううん、今終わった所」
麻子は立ち上がり池崎の横を歩き始めた。池崎は一週間前に付き合い出した麻子の彼氏だ。
サラサラの茶色い髪は地毛で、思わず触れたくなるほどいい香りがする。本人は茶髪だと生活指導の先生に目をつけられると嫌がっているようだが麻子はその髪に惹かれていた。
駐輪所に停めてあった池崎の自転車を取りに行くと、ゆっくりと二人は歩き出した。校門を出てしばらくすると池崎はゆっくりと自転車を跨いだ。麻子のカバンを自分のカバンの上に乗せると、それが合図だったかのように麻子が荷台に腰掛ける。
「行くよ」
「うん」
ゆっくりと自転車のペダルを踏み込む。この瞬間が麻子は好きだ。
少し小高い丘の上にあるこの学校の帰り道はほとんどが下り坂だ。秋から冬になろうとしているこの季節は頰に当たる風も心地よい。横向きに座っているので右肩が池崎の体温と混ざり合いより温かさを感じる。風が吹くと池崎の髪がなびいていい香りが麻子の元へと届く。
あぁ、もっと坂道が続けばいいのに。
次の日の朝になればこの坂道を上がる時に逆のことを思うのにいつもこの瞬間はこう思ってしまう。坂道が終わるころ小さな公園が見えてくる。公園のそばに来ると池崎はスピードを緩め停車した。
停まると池崎は後ろを振り返る。振り返った瞬間にいい香りが遠ざかった気がして思わず立ち上がる。意外と近くに池崎の顔があって麻子は息を止める。池崎は麻子が降りて軽くなった自転車を片手で支えると麻子の頰に手をやり掠めるようなキスをした。
照れ隠しでちょっと悪戯っぽく笑う池崎に麻子もなぜかつられて笑ってしまう。
キスは池崎の香りでいっぱいだ。池崎の香りがそのまま鼻に抜けていくような気がした。甘くて、思わず身震いするようなそんなキス。
「麻子ちゃん……」
「な、に?」
「自転車見るたびに、この事思い出してにやけるかも……」
池崎の顔は真っ赤で、本当にそう思っているのだろう。麻子は空いていたハンドルを支えると池崎の唇に自分のそれを重ねた。
「私も」
二人はそう言って笑った。
1
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
JC💋フェラ
山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……
甘い失恋
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私は今日、2年間務めた派遣先の会社の契約を終えた。
重い荷物を抱えエレベーターを待っていたら、上司の梅原課長が持ってくれた。
ふたりっきりのエレベター、彼の後ろ姿を見ながらふと思う。
ああ、私は――。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる