100のキスをあなたに

菅井群青

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4.エレベーター

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 仕事が終わり雪はひどい疲労を感じていた。肩こりも酷くなり、スーツの上から肩の筋肉を掴んだまま腕を回してほぐす。

「あぁ……お腹すいた」

 エレベーターのドアが開き乗り込もうとして雪は立ち止まった。こんな時間だから誰も乗っていないかと思ったが奥のボタン操作盤にネクタイを緩めた男性が立っていた。

「お、お疲れ様です」

「あぁ、お疲れ」

 乗り込むと距離を取り彼に背を向けて扉のそばに立つ。彼は私と同じ会社に勤める上司であり、元恋人だ。
 つい最近忙しくてすれ違いで別れた。まさかこんなところで遭遇するとは……。神さまは何を考えているんだ。

 エレベーターがゆっくりと動き出す……。二人っきりの密室は居心地が悪い。当然だがこんな時間まで残業している人はいないだろう。もうすぐ日が変わる……。電光板を見て順調に数字が減っていくのを黙って見ていた。

 ピ

 突然電子音が聞こえた。ボタンを見るとなぜかあと少しなのに何階か下にある階のボタンが明るく点灯していた。

「帰るんじゃないんですか?」

「帰るよ、もちろん」

 ピンポン

 どうやら到着したようだ。後ろに立つ彼は降りようとしない。やはり降りる気がないのに押したようだ。

「嫌がらせなんてやめ──」

 振り返ると抱きとめられて目の前に彼の顔があった。懐かしい香りに目を瞑り抗う。
 女の力なんて微力だ、そのまま頭を包み込まれ上を向かされて口内に熱い舌が侵入するとそのまま舌をすくい取られ一瞬音が聞こえなくなる。舌を絡まれると何も考えなれなくなることを彼は知っててやっているに違いない。

「な……ん、あ」
「口開けろ、雪」

 名前を呼ばれて胸がときめいてしまうのだから困ったものだ。残業ばかりで構ってもらえず寂しかった。辛かった。でも、こうしてキスをされるだけでこんなにも溺れてしまうそんな自分に呆れてしまう。

「なぁ? もう少し……ちょっとでいいから残業しないか?」

 彼の甘いささやきに断れる女などいるのか……。

 私は黙って、先程までいた階のボタンを無言で押した。二人を乗せたエレベーターはゆっくりと上がっていった──。
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