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33.風紀委員の襲来
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華子が帰宅すると郵便受けに入っていた郵便物を取る。うちのアパートはセキュリティがしっかりとしていない。直接ドアに設けられた郵便受けへと放り込むシステムだ。
靴を脱ぎ部屋に入りながらその郵便物を確認していく。
ん?なんだこれ……
一枚のメモが郵便物の間に挟まっていた。そこには一言だけ書かれていた。
いかがわしい人間は出て行け
「いかがわしい……いかがわしい?」
何なんだこれは。
誰かわからないがこの住人の仕業か……。いかがわしいということはやはり……噂のことだろう。間に受けてしまった住人もいる……いや大半がそうかもしれない。
華子はため息をつきながらそのメモをもう一度見る。ボールペンで書かれたその文字は明らかに年齢が高い。必要以上に文字の止め跳ねが効いている。
華子はそのメモをとりあえず引き出しに入れておいた。
その時は軽く考えていた。葵にも黙っておいた。葵はこの誤解のことを何も知らない。
華子はメモはただの嫌がらせだろうと思っていた。
しばらくして日曜日の朝一番に華子の部屋のインターホンが鳴った。葵は音にも気づかないほど熟睡している。昨晩は野獣のように華子を抱いたので無理もない。
急いで服を着て覗き穴を覗くと、年配の女性三人がドアの前に立っている。恐る恐るドアを開けるとその女性たちも華子の顔も見て顔を強張らせた。
「ちょ、ちょっと、あなた……例のカップルでしょ」
「えーっと……はい、木村と申します」
絶倫ではないが、有名なカップルには間違いない。
「私たちこのアパートの風紀を守る会の者なんですけど。ぶしつけですけど……木村さん、このアパートから出て行ってくださらない?あなたがいるとこのアパートの風紀が乱れるの」
「そうよそうよ」
華子は女性たちの顔を見るがどうやら本気らしい。風紀と言われても何の話かわからない。普通に仕事して帰って休んでまた仕事している生活だ。
「風紀と言われてもちゃんとゴミは出してますし、ルールは守って──」
「絶倫の件よ……あなた、そういう人間なんでしょう?」
三人の中でも特に威圧感がすごいメガネをかけた女性が汚らわしいものを見るような目で華子を見る。どうやらこの人物がボスのようだ。
「そんな……」
ショックだった。
こんな風に他人から見られることが初めてで胸が締め付けられるように痛む。絶倫じゃないと否定しようとすると後ろから葵の声がする。
「華子さん……?どうしました?」
「あ、葵さん……」
騒動で目を覚ました葵が玄関に出て華子を守るように前へ出る。女性たちは一気に顔が赤くなり動揺している。
「どういうことです?何か悪いことでも?」
葵の静かな声に女性たちは怯む。
先ほどのメガネの女性がずり落ちたメガネを直すと声を上げる。
「絶倫で依存症な人間をこのアパートに住まわせるのは危険です!尚且つ地域の子供の教育に悪いですし……とりあえず、できるだけ早く転居を──」
「はぁ、言っていることがよく分かりませんが……とにかく、俺たちに出て行って欲しいと……そういうことですか?」
葵が怒るわけでもなく抑揚のない声で淡々と話す。
話が上手くいきそうだとみたメガネの女性は大きく頷きほんのり笑みを浮かべる。
「……特にこちらに過失がない場合の強制退去の際は……家賃の六ヶ月分を支払う義務があるのでは?それに退去に伴う費用、新たな転居先に掛かる費用も頂けるんですね?それを……あなたから貰えばいいんですね?」
「そうですね……え? え!?」
葵がメガネの女性に近づいた。まるで口説くように微笑む。
「あなたが支払ってくれるんですよね?もちろん、あなたが大家さんですよね?」
女性たちは黙り込んでしまう。
葵は怒っていた。華子の震える手を握りしめる。葵の手も震えていた。華子は葵を見上げるとその瞳は心配ないと言っているのが分かる。
「葵さん……」
「大家さんでもないのに、退去させようだなんて……おかしいでしょう」
「で、でも!いかがわしいのは本当よ!意味のわからないドリンクだって最近ゴミに多いし、あんな怪しげなものを毎日飲んでいるなんて……」
いかがわしい
その言葉に華子はメモを思い出した。
この真ん中にいる悪そうな姑オーラを出した女性があの投書をしたのかもしれない。
「あのメモ……あなたですか?」
華子が勇気を出して尋ねてみる。
女性はなぜバレたのかわからないようだが焦っているのが分かる。きっとこの女性だ。華子の言葉に葵はすぐに察知し華子を再び後ろに隠す。
隣近所が女性の金切り声に何事かと玄関のドアから覗く。そのままフロアに出て来て様子を伺う住人もいる。すっかり華子の部屋の周りは人で溢れかえった。皆表情が硬い、睨みつけるようにこちらを見る。
怖い
葵の握る手が一層強められる。
パンパンパン
誰かが手を叩く音が響いた……いつのまにかエレベーターが到着し、中から白髪マダムが現れた。人の群れが自然と動きエスカレーターから華子の部屋までの花道をが出来た。
「随分と、楽しそうね……あなたたち……」
白髪マダムは腕を組み華子と葵を見つめた──。
靴を脱ぎ部屋に入りながらその郵便物を確認していく。
ん?なんだこれ……
一枚のメモが郵便物の間に挟まっていた。そこには一言だけ書かれていた。
いかがわしい人間は出て行け
「いかがわしい……いかがわしい?」
何なんだこれは。
誰かわからないがこの住人の仕業か……。いかがわしいということはやはり……噂のことだろう。間に受けてしまった住人もいる……いや大半がそうかもしれない。
華子はため息をつきながらそのメモをもう一度見る。ボールペンで書かれたその文字は明らかに年齢が高い。必要以上に文字の止め跳ねが効いている。
華子はそのメモをとりあえず引き出しに入れておいた。
その時は軽く考えていた。葵にも黙っておいた。葵はこの誤解のことを何も知らない。
華子はメモはただの嫌がらせだろうと思っていた。
しばらくして日曜日の朝一番に華子の部屋のインターホンが鳴った。葵は音にも気づかないほど熟睡している。昨晩は野獣のように華子を抱いたので無理もない。
急いで服を着て覗き穴を覗くと、年配の女性三人がドアの前に立っている。恐る恐るドアを開けるとその女性たちも華子の顔も見て顔を強張らせた。
「ちょ、ちょっと、あなた……例のカップルでしょ」
「えーっと……はい、木村と申します」
絶倫ではないが、有名なカップルには間違いない。
「私たちこのアパートの風紀を守る会の者なんですけど。ぶしつけですけど……木村さん、このアパートから出て行ってくださらない?あなたがいるとこのアパートの風紀が乱れるの」
「そうよそうよ」
華子は女性たちの顔を見るがどうやら本気らしい。風紀と言われても何の話かわからない。普通に仕事して帰って休んでまた仕事している生活だ。
「風紀と言われてもちゃんとゴミは出してますし、ルールは守って──」
「絶倫の件よ……あなた、そういう人間なんでしょう?」
三人の中でも特に威圧感がすごいメガネをかけた女性が汚らわしいものを見るような目で華子を見る。どうやらこの人物がボスのようだ。
「そんな……」
ショックだった。
こんな風に他人から見られることが初めてで胸が締め付けられるように痛む。絶倫じゃないと否定しようとすると後ろから葵の声がする。
「華子さん……?どうしました?」
「あ、葵さん……」
騒動で目を覚ました葵が玄関に出て華子を守るように前へ出る。女性たちは一気に顔が赤くなり動揺している。
「どういうことです?何か悪いことでも?」
葵の静かな声に女性たちは怯む。
先ほどのメガネの女性がずり落ちたメガネを直すと声を上げる。
「絶倫で依存症な人間をこのアパートに住まわせるのは危険です!尚且つ地域の子供の教育に悪いですし……とりあえず、できるだけ早く転居を──」
「はぁ、言っていることがよく分かりませんが……とにかく、俺たちに出て行って欲しいと……そういうことですか?」
葵が怒るわけでもなく抑揚のない声で淡々と話す。
話が上手くいきそうだとみたメガネの女性は大きく頷きほんのり笑みを浮かべる。
「……特にこちらに過失がない場合の強制退去の際は……家賃の六ヶ月分を支払う義務があるのでは?それに退去に伴う費用、新たな転居先に掛かる費用も頂けるんですね?それを……あなたから貰えばいいんですね?」
「そうですね……え? え!?」
葵がメガネの女性に近づいた。まるで口説くように微笑む。
「あなたが支払ってくれるんですよね?もちろん、あなたが大家さんですよね?」
女性たちは黙り込んでしまう。
葵は怒っていた。華子の震える手を握りしめる。葵の手も震えていた。華子は葵を見上げるとその瞳は心配ないと言っているのが分かる。
「葵さん……」
「大家さんでもないのに、退去させようだなんて……おかしいでしょう」
「で、でも!いかがわしいのは本当よ!意味のわからないドリンクだって最近ゴミに多いし、あんな怪しげなものを毎日飲んでいるなんて……」
いかがわしい
その言葉に華子はメモを思い出した。
この真ん中にいる悪そうな姑オーラを出した女性があの投書をしたのかもしれない。
「あのメモ……あなたですか?」
華子が勇気を出して尋ねてみる。
女性はなぜバレたのかわからないようだが焦っているのが分かる。きっとこの女性だ。華子の言葉に葵はすぐに察知し華子を再び後ろに隠す。
隣近所が女性の金切り声に何事かと玄関のドアから覗く。そのままフロアに出て来て様子を伺う住人もいる。すっかり華子の部屋の周りは人で溢れかえった。皆表情が硬い、睨みつけるようにこちらを見る。
怖い
葵の握る手が一層強められる。
パンパンパン
誰かが手を叩く音が響いた……いつのまにかエレベーターが到着し、中から白髪マダムが現れた。人の群れが自然と動きエスカレーターから華子の部屋までの花道をが出来た。
「随分と、楽しそうね……あなたたち……」
白髪マダムは腕を組み華子と葵を見つめた──。
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