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第三部

隠し事

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 いつものように先生の腰の治療を受けていた。先生の鍼は相変わらず厳しいがその後の軽やかさは最高だ。

「う……ん……先生──股間、節が、こ、こかん……」

「……区切るところ間違ってません? 一気に言ってくださいね。気が散るから」

 幸が鍼を臀部へと刺し直す。

「ふ、深いな……くっ、今方向変えたな? 勝手に筋肉が動くぞ」

 組長は随分と鍼を受ける玄人になったようだ。受け慣れて体の中の鍼先の動きが分かるようになった。

です。自然現象ですから大丈夫です」

「朝立ちと一緒か……」

「あれは生理現象ですよ……勃起が反射なら服も着れないし、外を歩けないですよ。いや……確か勃起は──」

 幸は頭の中の医学書を開く。恥ずかしげもなく勃起と連呼する幸は相変わらずだ。

 組長が楽しそうにクククと笑う。そのままストレッチのために仰向けになると組長が誘うようなエロい視線を送ってくる。

「ストレッチか──先生も一緒にしないか?」

 組長の言うストレッチに反応して幸は頰を紅潮させる。

「あ、仰向けで鍼を打たないから、服着て──ん……」

 組長が幸の腕を引き自分の胸に乗せる。突然感じる岩のような胸板に真っ赤になる。組長はそのまま体を起こすと胡座を組みその上に幸を座らせた。

「柔らかいな、先生は……」

「ひゃ……」

 組長が幸の首筋に噛み付いた。噛んだ後を舐めると幸の体が小刻みに震える。

「それに、甘い」

「組長──あの……腰」

「……何もしない」

 組長は長白衣の上から幸の胸から腰の辺りまでを撫でるとそのままキスをする。角度を変え舌を誘い絡ませる。背中に回した腕で強く引き寄せた。幸の蕩けた顔を確認すると組長は満足げに微笑んだ。

「ム、ムダにエロい──そ、それに、手、手が大きい!」

「ククク、ありがとうな」

 幸が口を尖らせて抗議の声を上げるが褒め言葉にしか聞こえない。

 先生は本当に可愛くて、食べたくなる。
 だが、今は腰が本調子ではないので腰の主治医の許可が下りない。

 組長は服を羽織る。幸はそのままカーテンの外に出ると、院の外のベンチで待っていた町田に声を掛けた。

「お待たせしました。終わりましたよ」

 院内に入ってきた町田が難しい本を手にしていた。待合のソファーに座ると再び真剣な表情で読んでいる。

「あら、勉強しているの? どれどれ……」

「最近色々な勉強に力を入れようかと……組長はその辺は適当なんで、龍晶会のために」

「ふ、悪かったな……先生、そういえば今度詰め放題──」

 組長が幸の顔を見ると真っ青になっている。組長の声が耳に届いていないようだ。いつもの明るい笑顔が消えこの世の終わりのような顔をしている。

「あ、なんですか?」

「いや、何でもない……先生大丈夫か?」

 組長が心配そうに顔を覗くと幸が視線を逸らした。そのまま使用した鍼を廃棄箱に入れていく。

「大丈夫です……」

 それから幸は元気のないままだった。組長たちは後ろ髪を引かれるように院をあとにした──。


 組長と町田が院を去ると幸は壁に寄りかかり溜息をついた。

「私のバカ……」

 幸は携帯電話を取り出すと電話をかける。

「お久しぶりです……ええ……分かってます、もちろん。会って、頂けますか?」

 幸は電話を切ると待合のソファーへと身を投げた。

「……組長、本当にごめん──」

 天井を見上げていた幸は眩しい蛍光灯から逃げるように目を腕で覆った……。
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