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第一部
剛の失恋
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俺は密かに恋をしている。
目の前の長白衣の先生に……。
出会ってすぐ恋に落ちたものの封印した淡い思いが黒嶺会の一件で吹き出してしまった。司には悪いが好きなものは好きだ。
そしてその恋の相手……先生は今、俺の胸を揉んでいる。
「んー、この筋肉のつき方はちょっと負荷がかかりすぎてるのかも──鍼は刺せないので手でやるしか……」
「あ、先生、ちょっと力強い、かも……あ……」
「おいゴリラ、俺が揉んで成長させてやるよ」
同じく目の前で俺を殺しそうな目で見つめるこの男は先生のことが好きすぎて嫉妬の鬼と化している龍晶会の組長の万代司だ。
なんと、この男……初恋で初嫉妬、初片思い……全部が初めてだらけで自分でうまく制御できないらしい。
この前町田さんが頭を触りながら「組長の指の圧でココもぐにゃぐにゃで……すっかり解けてます」と心の内を吐露していた。若干風俗の女が言うセリフみたいで俺は内心焦ったがあえてスルーしておいた。
先生は真剣な様子で俺のシャツを引き抜き上半身裸にさせると左右の胸筋の大きさを把握していく。
「左に心臓がある分、ちょっとな……」
先生は丸椅子に座る俺の目の前に立つ。
ドクン
やばい、抱きしめたい。
折れそうなこの腰にしがみついてみたい。
ちらっと司を見てみると夜叉のような顔でこちらを見ている、恐らく俺の考えていることが分かったんだろう。
「剛さん、三角筋を太らせて立体的に見せた方がいいのでは?」
幸は胸から顔を上げて剛に微笑む。
「剛さん……」
俺の名を呟く司が限界だ。隙あらば俺をまた退化させようと企んでいるに違いない。
俺は話を変えようと試みた。
「司の胸筋も診てもらえ、鍛えるのにいいぞ? ん?」
「「え?」」
何気なく言った言葉に幸と組長が声を揃える。
「じゃ、先生……診てくれるか」
組長がシャツを脱ぐと幸はみるみる赤くなる。
見慣れているはずなのに幸の反応はまるで初々しい。
あれ? なにこの違い。
明らかに自分の時とは違う。俺を診るときは【筋肉】を見ている仕事モードだ。でも今の先生は筋肉じゃなくて……【司】を見ている。
決定的な違いだ。
先生は司の胸に触れる時緊張している。優しく揉んでいるときにも顔が真っ赤だ。
「いいよ、先生──上手だな」
「私褒められて伸びるタイプじゃないんですけど」
二人の慣れたやりとりに思わず笑ってしまう。
なんだ、俺の入る隙間なんて……最初から1ミリも残されてないな……。
剛は首を回しバキバキと関節を鳴らすとシャツを着た。
「じゃ、俺はもう行くからなー」
「え? もう?」
幸は早い帰宅に驚いているようだ。
「お邪魔虫はきえなきゃな」
「サナダ虫な」
「なんで腸の中這いずり回る寄生虫まで堕とした!?」
クククと声を出して司が笑う。その瞳の色は優しい。
「悪いな……剛」
「……じゃな」
俺は院をあとにした。失恋して歩く足取りにしては軽やかだった。
「先生──」
「何ですか?」
「ヤクザに好かれて、苦労するな……」
「……こんな平凡な人間──」
組長が幸を優しく抱きしめる。ふわっと温かく優しい。
「先生は、特別だ……」
そう言って組長は頭を撫でてくれた。
目の前の長白衣の先生に……。
出会ってすぐ恋に落ちたものの封印した淡い思いが黒嶺会の一件で吹き出してしまった。司には悪いが好きなものは好きだ。
そしてその恋の相手……先生は今、俺の胸を揉んでいる。
「んー、この筋肉のつき方はちょっと負荷がかかりすぎてるのかも──鍼は刺せないので手でやるしか……」
「あ、先生、ちょっと力強い、かも……あ……」
「おいゴリラ、俺が揉んで成長させてやるよ」
同じく目の前で俺を殺しそうな目で見つめるこの男は先生のことが好きすぎて嫉妬の鬼と化している龍晶会の組長の万代司だ。
なんと、この男……初恋で初嫉妬、初片思い……全部が初めてだらけで自分でうまく制御できないらしい。
この前町田さんが頭を触りながら「組長の指の圧でココもぐにゃぐにゃで……すっかり解けてます」と心の内を吐露していた。若干風俗の女が言うセリフみたいで俺は内心焦ったがあえてスルーしておいた。
先生は真剣な様子で俺のシャツを引き抜き上半身裸にさせると左右の胸筋の大きさを把握していく。
「左に心臓がある分、ちょっとな……」
先生は丸椅子に座る俺の目の前に立つ。
ドクン
やばい、抱きしめたい。
折れそうなこの腰にしがみついてみたい。
ちらっと司を見てみると夜叉のような顔でこちらを見ている、恐らく俺の考えていることが分かったんだろう。
「剛さん、三角筋を太らせて立体的に見せた方がいいのでは?」
幸は胸から顔を上げて剛に微笑む。
「剛さん……」
俺の名を呟く司が限界だ。隙あらば俺をまた退化させようと企んでいるに違いない。
俺は話を変えようと試みた。
「司の胸筋も診てもらえ、鍛えるのにいいぞ? ん?」
「「え?」」
何気なく言った言葉に幸と組長が声を揃える。
「じゃ、先生……診てくれるか」
組長がシャツを脱ぐと幸はみるみる赤くなる。
見慣れているはずなのに幸の反応はまるで初々しい。
あれ? なにこの違い。
明らかに自分の時とは違う。俺を診るときは【筋肉】を見ている仕事モードだ。でも今の先生は筋肉じゃなくて……【司】を見ている。
決定的な違いだ。
先生は司の胸に触れる時緊張している。優しく揉んでいるときにも顔が真っ赤だ。
「いいよ、先生──上手だな」
「私褒められて伸びるタイプじゃないんですけど」
二人の慣れたやりとりに思わず笑ってしまう。
なんだ、俺の入る隙間なんて……最初から1ミリも残されてないな……。
剛は首を回しバキバキと関節を鳴らすとシャツを着た。
「じゃ、俺はもう行くからなー」
「え? もう?」
幸は早い帰宅に驚いているようだ。
「お邪魔虫はきえなきゃな」
「サナダ虫な」
「なんで腸の中這いずり回る寄生虫まで堕とした!?」
クククと声を出して司が笑う。その瞳の色は優しい。
「悪いな……剛」
「……じゃな」
俺は院をあとにした。失恋して歩く足取りにしては軽やかだった。
「先生──」
「何ですか?」
「ヤクザに好かれて、苦労するな……」
「……こんな平凡な人間──」
組長が幸を優しく抱きしめる。ふわっと温かく優しい。
「先生は、特別だ……」
そう言って組長は頭を撫でてくれた。
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