9 / 19
会社の忘年会
しおりを挟む
師走は忙しい。別に先生と呼ばれる人だけではない。猫も杓子も皆いい意味で追われている。
一番大変なもの、それは──酒の席だ。
「「カンパーイッ」」
それまで積もりに積もった鬱憤と疲れを吹き飛ばそうとする大人たちの声が重なる。
今日は琴音の勤める会社の忘年会だ。建築会社のため普段は現場に出ていて顔を合わせない人も一緒に酒を交わす貴重な機会だ。
「まぁまぁ、飲みな」
「いただきます」
酒好きの琴音とすれば嬉しい機会かと思われるが実は違う。
琴音からすれば皆酒を飲むピッチが早いのだ。お酒が強くない琴音は気を使って口に含むがすぐに酔ってしまう。毎年その後二日酔いになるので気をつけて臨まなければいけないイベントだ。
なんせこの業界は今でこそ女の子も多いがまだまだ男性が圧倒的な数を占める。いまも居酒屋の貸切のこの部屋に女子は一割も満たない。大変居心地の悪い空間だ。
「よっ! 社長! 日本一!」
忘年会は終盤のようだ、いつのまにか社長の恒例の腹踊りが始まったこれが始まると宴が終わるサインだ。
琴音はよろつく足を踏ん張りトイレに立つ。やはり途中でセーブしたとはいえ足にはきてしまっているらしい。
トイレで火照った体をハンカチで冷やして戻ると、みんながゾロゾロと帰りはじめていた。慌ててカバンを取りに行くと同僚の佐藤が荷物を持って入口に待っていた。
「大丈夫?」
佐藤は寿退社した琴美の親友の旦那さんだ。二ヶ月後には第一子が生まれると毎日惚気るのを聞くと結婚っていいなと思ったりする。
カバンを受け取り外へ出ると社員たちは皆別れ惜しいのか店の前でまだ喋っている。
「駅まで送ってくよ」
「ありがとう」
身重の妻のことが気になるのだろう。私ももう足が限界だった。酔った皆にさらっと声をかけて二人は並んで商店街を駅に向かって歩きはじめた。ふらつく体を時折横の佐藤が支えてもらいつつなんとか駅に着いた。
「ありがとう! またね」
「気をつけろよ」
電車に揺られながらやっぱり酒を飲むのは俊とがいいなと思った。
一番大変なもの、それは──酒の席だ。
「「カンパーイッ」」
それまで積もりに積もった鬱憤と疲れを吹き飛ばそうとする大人たちの声が重なる。
今日は琴音の勤める会社の忘年会だ。建築会社のため普段は現場に出ていて顔を合わせない人も一緒に酒を交わす貴重な機会だ。
「まぁまぁ、飲みな」
「いただきます」
酒好きの琴音とすれば嬉しい機会かと思われるが実は違う。
琴音からすれば皆酒を飲むピッチが早いのだ。お酒が強くない琴音は気を使って口に含むがすぐに酔ってしまう。毎年その後二日酔いになるので気をつけて臨まなければいけないイベントだ。
なんせこの業界は今でこそ女の子も多いがまだまだ男性が圧倒的な数を占める。いまも居酒屋の貸切のこの部屋に女子は一割も満たない。大変居心地の悪い空間だ。
「よっ! 社長! 日本一!」
忘年会は終盤のようだ、いつのまにか社長の恒例の腹踊りが始まったこれが始まると宴が終わるサインだ。
琴音はよろつく足を踏ん張りトイレに立つ。やはり途中でセーブしたとはいえ足にはきてしまっているらしい。
トイレで火照った体をハンカチで冷やして戻ると、みんながゾロゾロと帰りはじめていた。慌ててカバンを取りに行くと同僚の佐藤が荷物を持って入口に待っていた。
「大丈夫?」
佐藤は寿退社した琴美の親友の旦那さんだ。二ヶ月後には第一子が生まれると毎日惚気るのを聞くと結婚っていいなと思ったりする。
カバンを受け取り外へ出ると社員たちは皆別れ惜しいのか店の前でまだ喋っている。
「駅まで送ってくよ」
「ありがとう」
身重の妻のことが気になるのだろう。私ももう足が限界だった。酔った皆にさらっと声をかけて二人は並んで商店街を駅に向かって歩きはじめた。ふらつく体を時折横の佐藤が支えてもらいつつなんとか駅に着いた。
「ありがとう! またね」
「気をつけろよ」
電車に揺られながらやっぱり酒を飲むのは俊とがいいなと思った。
1
お気に入りに追加
245
あなたにおすすめの小説
終わりにできなかった恋
明日葉
恋愛
「なあ、結婚するか?」
男友達から不意にそう言われて。
「そうだね、しようか」
と。
恋を自覚する前にあまりに友達として大事になりすぎて。終わるかもしれない恋よりも、終わりのない友達をとっていただけ。ふとそう自覚したら、今を逃したら次はないと気づいたら、そう答えていた。
あなたのそばにいられるなら、卒業試験に落ちても構いません! そう思っていたのに、いきなり永久就職決定からの溺愛って、そんなのありですか?
石河 翠
恋愛
騎士を養成する騎士訓練校の卒業試験で、不合格になり続けている少女カレン。彼女が卒業試験でわざと失敗するのには、理由があった。 彼女は、教官である美貌の騎士フィリップに恋をしているのだ。
本当は料理が得意な彼女だが、「料理音痴」と笑われてもフィリップのそばにいたいと願っている。
ところがカレンはフィリップから、次の卒業試験で不合格になったら、騎士になる資格を永久に失うと告げられる。このままでは見知らぬ男に嫁がされてしまうと慌てる彼女。
本来の実力を発揮したカレンはだが、卒業試験当日、思いもよらない事実を知らされることになる。毛嫌いしていた見知らぬ婚約者の正体は実は……。
大好きなひとのために突き進むちょっと思い込みの激しい主人公と、なぜか主人公に思いが伝わらないまま外堀を必死で埋め続けるヒーロー。両片想いですれ違うふたりの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。
すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。
なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる