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番外編
木下のつぶやき
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アンティーク部はおもしろい。
中央にある屋久杉のテーブルを中心に放射線状に部屋が配置されている。だから向かいの部屋の様子だって、いとも簡単に見れる。
ここ数日不穏な動きがあった。会えば何かにつけて対立していた二人がなぜかおとなしい……。
犬と猿の休戦に木下は気になって仕事がはかどらない。ドアから覗くと向かいにある牧田の部屋が見える。なにやら座ったまま真剣に作業している。
おかしい……あいつは今抱えてる仕事には自身で手を加える物はないはずだが。
木下は今日はスパイ映画に出てきそうな黒のジャケットにチノパンだ。黒のサングラスさえかければ一気に怪しさが増す。ドアをすり抜け牧田の部屋へと近づく。片方だけ軍手をして小さな木片を一生懸命削っているようだ。牧田がここまで真剣に取り組むなんて一体何を作っているのだろう。
──もっと近づかねば……。
「ぬぉっ」
首根っこを突然背後から掴まれ隣の部屋へと引きずりこまれる。ドアが閉められるとそこには呆れた顔で見下ろす坂上の顔があった。さっきまで何かの作業していたのだろう、黒縁のメガネがずり下げられたままだ。
「坂上ちゃん、邪魔しないでよ。良いとこだったのに」
「バカ言わないで、覗きは犯罪よ」
坂上の横顔を見て改めて思う。
坂上はこんな格好とメガネで隠しているが、美しい。本人は言われるのを毛嫌いしているが、こうして見る横顔は彫刻のようだ。
木下は近づき、さも当たり前かのようにメガネを外す。坂上が信じられないものを見るような瞳で見上げるが、木下はその茶色の瞳から目が離せない。
「キレイだな、やっぱ」
そう呟くと「返して」といい再びメガネという盾を装着する。
背中を押されるように部屋をあとにしたが、木下は牧田の不穏な動きよりももっと気になるものが出来てしまったことに気づく。
自分の胸を握りこぶしで軽く二回叩くと、微笑む。
「あぁ……不穏だねぇ……」
中央にある屋久杉のテーブルを中心に放射線状に部屋が配置されている。だから向かいの部屋の様子だって、いとも簡単に見れる。
ここ数日不穏な動きがあった。会えば何かにつけて対立していた二人がなぜかおとなしい……。
犬と猿の休戦に木下は気になって仕事がはかどらない。ドアから覗くと向かいにある牧田の部屋が見える。なにやら座ったまま真剣に作業している。
おかしい……あいつは今抱えてる仕事には自身で手を加える物はないはずだが。
木下は今日はスパイ映画に出てきそうな黒のジャケットにチノパンだ。黒のサングラスさえかければ一気に怪しさが増す。ドアをすり抜け牧田の部屋へと近づく。片方だけ軍手をして小さな木片を一生懸命削っているようだ。牧田がここまで真剣に取り組むなんて一体何を作っているのだろう。
──もっと近づかねば……。
「ぬぉっ」
首根っこを突然背後から掴まれ隣の部屋へと引きずりこまれる。ドアが閉められるとそこには呆れた顔で見下ろす坂上の顔があった。さっきまで何かの作業していたのだろう、黒縁のメガネがずり下げられたままだ。
「坂上ちゃん、邪魔しないでよ。良いとこだったのに」
「バカ言わないで、覗きは犯罪よ」
坂上の横顔を見て改めて思う。
坂上はこんな格好とメガネで隠しているが、美しい。本人は言われるのを毛嫌いしているが、こうして見る横顔は彫刻のようだ。
木下は近づき、さも当たり前かのようにメガネを外す。坂上が信じられないものを見るような瞳で見上げるが、木下はその茶色の瞳から目が離せない。
「キレイだな、やっぱ」
そう呟くと「返して」といい再びメガネという盾を装着する。
背中を押されるように部屋をあとにしたが、木下は牧田の不穏な動きよりももっと気になるものが出来てしまったことに気づく。
自分の胸を握りこぶしで軽く二回叩くと、微笑む。
「あぁ……不穏だねぇ……」
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