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菅井群青

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27.栄枯盛衰

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 ビル街の一室にそのデザイン会社はある。深夜にも関わらずガラス張りの社長室では男の怒号が響いていた。当然のことながら他の社員は既に退社したようで辺りは真っ暗でPCのランプだけが光っている。
 デスクの周りには多くのラフ画やデザイン画が散乱している。相当暴れていたのだろう、固定電話の受話器が外れぶらりと上下に揺れている。

「そんなバカなことがあるか……そんなバカなことが!!」

 今の白川は髪は乱れ、汗で頰に髪の毛がまとわりついている。いつもきちんと結ばれているネクタイは外されだらしなく首元から垂れ下がっている。とてもデザイン業界の一線を走り続けて皆から尊敬されている男には見えない。
 ここにいるのは嫉妬にかられ欲にかられ自我を崩壊しかけている悲しい男だ。

 数年前……地位も名声も手に入れた白川は念願の独立を果たした。デザイン会社を立ち上げた当初は良かった。有名な賞を受賞し、登竜門と言われた《Design.mochi》の二つの看板で仕事が途切れることはなかった。すべてはあの【影花】のおかげだった。そう、その時は宝だった。

 いつからだろう、白川のデザインするものすべてが【影花】と比べられ、影で陰口を叩かれるようになったのは……。どんなに自信があっても、どんなに努力してもあれを超えるデザインが絞れ出せない。多くの顧客も【影花】を超えるものを欲し、求めてきた。あれは俺のものではない……そう叫びたかったことは数知れない。

 あれは宝なんかじゃない、盗んだ俺に静かなる罰を与える呪いの宝だった。

 最初にあの作品を見たときは……本当に素晴らしくて応援したくなった。次にはその才能に嫉妬し、最後は自分のものにしたくなった。結衣を愛していた。確かに愛していたはずなのに自分の中の悪が勝ってしまった。

 確実に仕事が取れなくなってきている。もうこの会社は火の車だ……。日にちの問題ではない、時間の問題だ……。白川はその場に力なく崩れた。乾いた笑いが自分の口から出たことに驚いていた。

 ドンドンドンッ!

 誰かが表のドアを叩いている。けたたましい音の主を白川は分かっていた。ゆっくりと立ち上がるとドアの鍵を開けた。

「白川龍樹さんですね? あなたに脅迫と窃盗の容疑で逮捕状が出ています。あなたの証言は──裁判で……」

 警察官が白く薄い紙を持って立っている。その声を聞きながら白川は嬉しそうに微笑み涙を流していた。
 彼はようやく【影花】から解放された──。





 あれから白川が逮捕された。そのことを知った時に結衣は苦しかった。まだ愛しているわけではないが……白川の話を聞き辛くなった。結衣は【影花】失い苦しんだが、彼は得たことで苦しんだ。
 あれから残していた制作過程の写真やラフ画に書かれたサインによって【影花】が結衣の作品であったと発表された。

 木下が怒り狂って拘置所まで行こうとするのを宥め、気付いてやれなかったと悔し涙をながす武田に結衣は頭を下げた。自分に強さがなかったばかりにこんなことになったと感じた。牧田と坂上は何も言わなかった。

 あれからマスコミが会社に押しかけてきたり、一時は仕事もままならなかったが世の中の流れは早く、ようやく落ち着きを取り戻し始めていた。

 ようやく【影花】が結衣の元へと帰ってきた。
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