27 / 36
27.栄枯盛衰
しおりを挟む
ビル街の一室にそのデザイン会社はある。深夜にも関わらずガラス張りの社長室では男の怒号が響いていた。当然のことながら他の社員は既に退社したようで辺りは真っ暗でPCのランプだけが光っている。
デスクの周りには多くのラフ画やデザイン画が散乱している。相当暴れていたのだろう、固定電話の受話器が外れぶらりと上下に揺れている。
「そんなバカなことがあるか……そんなバカなことが!!」
今の白川は髪は乱れ、汗で頰に髪の毛がまとわりついている。いつもきちんと結ばれているネクタイは外されだらしなく首元から垂れ下がっている。とてもデザイン業界の一線を走り続けて皆から尊敬されている男には見えない。
ここにいるのは嫉妬にかられ欲にかられ自我を崩壊しかけている悲しい男だ。
数年前……地位も名声も手に入れた白川は念願の独立を果たした。デザイン会社を立ち上げた当初は良かった。有名な賞を受賞し、登竜門と言われた《Design.mochi》の二つの看板で仕事が途切れることはなかった。すべてはあの【影花】のおかげだった。そう、その時は宝だった。
いつからだろう、白川のデザインするものすべてが【影花】と比べられ、影で陰口を叩かれるようになったのは……。どんなに自信があっても、どんなに努力してもあれを超えるデザインが絞れ出せない。多くの顧客も【影花】を超えるものを欲し、求めてきた。あれは俺のものではない……そう叫びたかったことは数知れない。
あれは宝なんかじゃない、盗んだ俺に静かなる罰を与える呪いの宝だった。
最初にあの作品を見たときは……本当に素晴らしくて応援したくなった。次にはその才能に嫉妬し、最後は自分のものにしたくなった。結衣を愛していた。確かに愛していたはずなのに自分の中の悪が勝ってしまった。
確実に仕事が取れなくなってきている。もうこの会社は火の車だ……。日にちの問題ではない、時間の問題だ……。白川はその場に力なく崩れた。乾いた笑いが自分の口から出たことに驚いていた。
ドンドンドンッ!
誰かが表のドアを叩いている。けたたましい音の主を白川は分かっていた。ゆっくりと立ち上がるとドアの鍵を開けた。
「白川龍樹さんですね? あなたに脅迫と窃盗の容疑で逮捕状が出ています。あなたの証言は──裁判で……」
警察官が白く薄い紙を持って立っている。その声を聞きながら白川は嬉しそうに微笑み涙を流していた。
彼はようやく【影花】から解放された──。
◇
あれから白川が逮捕された。そのことを知った時に結衣は苦しかった。まだ愛しているわけではないが……白川の話を聞き辛くなった。結衣は【影花】失い苦しんだが、彼は得たことで苦しんだ。
あれから残していた制作過程の写真やラフ画に書かれたサインによって【影花】が結衣の作品であったと発表された。
木下が怒り狂って拘置所まで行こうとするのを宥め、気付いてやれなかったと悔し涙をながす武田に結衣は頭を下げた。自分に強さがなかったばかりにこんなことになったと感じた。牧田と坂上は何も言わなかった。
あれからマスコミが会社に押しかけてきたり、一時は仕事もままならなかったが世の中の流れは早く、ようやく落ち着きを取り戻し始めていた。
ようやく【影花】が結衣の元へと帰ってきた。
デスクの周りには多くのラフ画やデザイン画が散乱している。相当暴れていたのだろう、固定電話の受話器が外れぶらりと上下に揺れている。
「そんなバカなことがあるか……そんなバカなことが!!」
今の白川は髪は乱れ、汗で頰に髪の毛がまとわりついている。いつもきちんと結ばれているネクタイは外されだらしなく首元から垂れ下がっている。とてもデザイン業界の一線を走り続けて皆から尊敬されている男には見えない。
ここにいるのは嫉妬にかられ欲にかられ自我を崩壊しかけている悲しい男だ。
数年前……地位も名声も手に入れた白川は念願の独立を果たした。デザイン会社を立ち上げた当初は良かった。有名な賞を受賞し、登竜門と言われた《Design.mochi》の二つの看板で仕事が途切れることはなかった。すべてはあの【影花】のおかげだった。そう、その時は宝だった。
いつからだろう、白川のデザインするものすべてが【影花】と比べられ、影で陰口を叩かれるようになったのは……。どんなに自信があっても、どんなに努力してもあれを超えるデザインが絞れ出せない。多くの顧客も【影花】を超えるものを欲し、求めてきた。あれは俺のものではない……そう叫びたかったことは数知れない。
あれは宝なんかじゃない、盗んだ俺に静かなる罰を与える呪いの宝だった。
最初にあの作品を見たときは……本当に素晴らしくて応援したくなった。次にはその才能に嫉妬し、最後は自分のものにしたくなった。結衣を愛していた。確かに愛していたはずなのに自分の中の悪が勝ってしまった。
確実に仕事が取れなくなってきている。もうこの会社は火の車だ……。日にちの問題ではない、時間の問題だ……。白川はその場に力なく崩れた。乾いた笑いが自分の口から出たことに驚いていた。
ドンドンドンッ!
誰かが表のドアを叩いている。けたたましい音の主を白川は分かっていた。ゆっくりと立ち上がるとドアの鍵を開けた。
「白川龍樹さんですね? あなたに脅迫と窃盗の容疑で逮捕状が出ています。あなたの証言は──裁判で……」
警察官が白く薄い紙を持って立っている。その声を聞きながら白川は嬉しそうに微笑み涙を流していた。
彼はようやく【影花】から解放された──。
◇
あれから白川が逮捕された。そのことを知った時に結衣は苦しかった。まだ愛しているわけではないが……白川の話を聞き辛くなった。結衣は【影花】失い苦しんだが、彼は得たことで苦しんだ。
あれから残していた制作過程の写真やラフ画に書かれたサインによって【影花】が結衣の作品であったと発表された。
木下が怒り狂って拘置所まで行こうとするのを宥め、気付いてやれなかったと悔し涙をながす武田に結衣は頭を下げた。自分に強さがなかったばかりにこんなことになったと感じた。牧田と坂上は何も言わなかった。
あれからマスコミが会社に押しかけてきたり、一時は仕事もままならなかったが世の中の流れは早く、ようやく落ち着きを取り戻し始めていた。
ようやく【影花】が結衣の元へと帰ってきた。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
【完結】殿下は私を溺愛してくれますが、あなたの“真実の愛”の相手は私ではありません
Rohdea
恋愛
──私は“彼女”の身代わり。
彼が今も愛しているのは亡くなった元婚約者の王女様だけだから──……
公爵令嬢のユディットは、王太子バーナードの婚約者。
しかし、それは殿下の婚約者だった隣国の王女が亡くなってしまい、
国内の令嬢の中から一番身分が高い……それだけの理由で新たに選ばれただけ。
バーナード殿下はユディットの事をいつも優しく、大切にしてくれる。
だけど、その度にユディットの心は苦しくなっていく。
こんな自分が彼の婚約者でいていいのか。
自分のような理由で互いの気持ちを無視して決められた婚約者は、
バーナードが再び心惹かれる“真実の愛”の相手を見つける邪魔になっているだけなのでは?
そんな心揺れる日々の中、
二人の前に、亡くなった王女とそっくりの女性が現れる。
実は、王女は襲撃の日、こっそり逃がされていて実は生きている……
なんて噂もあって────
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
王妃となったアンゼリカ
わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。
そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。
彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。
「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」
※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。
これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
きみの愛なら疑わない
秋葉なな
恋愛
花嫁が消えたバージンロードで虚ろな顔したあなたに私はどう償えばいいのでしょう
花嫁の共犯者 × 結婚式で花嫁に逃げられた男
「僕を愛さない女に興味はないよ」
「私はあなたの前から消えたりしない」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる