1 / 36
1.Design.mochi
しおりを挟む
東京から最も近い別荘地の一角に一際目立つ建物がある。ビルの隙間から木が出ているのか木の中にビルがあるのか分からないほど自然とマッチした建物だ。
大きな栗の木やモチノキの黄緑がかった葉の色と打ちっ放しのコンクリートが優しい雰囲気を出している。その建物の所有者は《Design.mochi》という家具のデザイン会社だ。雑誌の特集を組まれるほど人気があり、家具職人なら知らない者はいない。抱えるアーティストは少なく、狭き門と言われる家具デザイナーの登竜門だ。
私は斉藤結衣その有名会社のマネージャーをしている。三十歳、独身だ。年相応に男と付き合っていたが数年前から面倒になり仕事中心の毎日を送っている。
黒髪のボブで色々な職種の方とお会いするので大抵真面目なグレーのスーツを着ている。
マネージャーと言っても聞こえはいいが、この会社の役割としてはいわゆる雑用処理係だ。
会社の要のデザイナー現在十五名、忙しい部署のサブとして動くスタッフ、そして営業と称してメディアの取材のアポや工場のスケジュールの管理から多くの雑用をこなすマネージャーの三つに分かれる。
多くの会社に見られる社長などの役職はない。元々は家具デザイナーの友人四人が意気投合して設立した会社だ。四人のうち二人は独立してしまったが全員未だ日本の家具デザインのトップを走り続けている。
デザイン部は大きく分けて三つ。
近代的なデザインのスタイリッシュ部。素材がプラスチックや金属系の素材を使いデザインされたものを作る。フランスなどのヨーロッパからの仕事が多い部だ。ステンレスやスチール製を用いるデザイナーが集まる。
とにかく流行を追い売れる商品を生み出すプロダクト部。大型量販店や海外進出してきたチェーン店など企業とコラボしていく。素材よりも大量生産しやすくすることを重きに置いている。もっともメディア露出が多い花形の部だ。
そして、結衣が所属しているアンティーク部。その名の通り木製で作られた家具を作り出す。オーダーメイドがほとんどで、時折古民具のリメイク依頼があればすることもある部だ。最近のモダン系のデザインの流行もあり注目され始めている。
「斉藤、この間のサンプルどうなった?」
「斉藤さん、ここの修正部分──」
「あ、斉藤、悪りぃけどコーヒー入れて」
「斉藤先輩この担当者の──」
「はい、とりあえず皆さんお待ちください」
今日も結衣が担当している《Design.mochi》のアンティーク部は斉藤コールの嵐だ。大学を卒業し、《Design.mochi》に就職して十年になる。慣れたもので一斉にお願いごとをされても聖徳太子のように聞き、優先順位を決めて仕事を行えるようになった。
アンティーク部のデザイナーは四人いる。チーフの武田森を筆頭に、年齢順に坂上まり、同期の木下謙之介、そして唯一の後輩の牧田康太だ。
武田森は設立当時のデザイナーの四人の一人で、木製の椅子を一から削って作り上げるのが生きがいというほど椅子作りのプロだ。四十二歳の子煩悩で子供が三人いる。
坂上まりは数年前にやって来たデザイナーで木目を使ったデザインに定評がある。結衣の二歳上で未婚だが結婚そのものに疑問を持った現実主義者だ。普段はスーツの黒縁眼鏡でスタイルの良さを隠している。
同期の木下謙之介は木の家具というより木を使ったアートをメインに行なっている。美術館で個展を行うなど精力的にアーティストとして活動している。最近は新築の家具などに力を入れている。基本的にフットワークが軽い。
後輩の牧田康太は大学院を卒業して就職した二十六歳、デザイン力を武田に買われて就職した。木製とは思えない繊細なものから癖を取り入れたより自然なままのデザインを作る。
そして、私斉藤結衣は今は至って平凡な雑用係だ。特別なものなど何もない──。
大きな栗の木やモチノキの黄緑がかった葉の色と打ちっ放しのコンクリートが優しい雰囲気を出している。その建物の所有者は《Design.mochi》という家具のデザイン会社だ。雑誌の特集を組まれるほど人気があり、家具職人なら知らない者はいない。抱えるアーティストは少なく、狭き門と言われる家具デザイナーの登竜門だ。
私は斉藤結衣その有名会社のマネージャーをしている。三十歳、独身だ。年相応に男と付き合っていたが数年前から面倒になり仕事中心の毎日を送っている。
黒髪のボブで色々な職種の方とお会いするので大抵真面目なグレーのスーツを着ている。
マネージャーと言っても聞こえはいいが、この会社の役割としてはいわゆる雑用処理係だ。
会社の要のデザイナー現在十五名、忙しい部署のサブとして動くスタッフ、そして営業と称してメディアの取材のアポや工場のスケジュールの管理から多くの雑用をこなすマネージャーの三つに分かれる。
多くの会社に見られる社長などの役職はない。元々は家具デザイナーの友人四人が意気投合して設立した会社だ。四人のうち二人は独立してしまったが全員未だ日本の家具デザインのトップを走り続けている。
デザイン部は大きく分けて三つ。
近代的なデザインのスタイリッシュ部。素材がプラスチックや金属系の素材を使いデザインされたものを作る。フランスなどのヨーロッパからの仕事が多い部だ。ステンレスやスチール製を用いるデザイナーが集まる。
とにかく流行を追い売れる商品を生み出すプロダクト部。大型量販店や海外進出してきたチェーン店など企業とコラボしていく。素材よりも大量生産しやすくすることを重きに置いている。もっともメディア露出が多い花形の部だ。
そして、結衣が所属しているアンティーク部。その名の通り木製で作られた家具を作り出す。オーダーメイドがほとんどで、時折古民具のリメイク依頼があればすることもある部だ。最近のモダン系のデザインの流行もあり注目され始めている。
「斉藤、この間のサンプルどうなった?」
「斉藤さん、ここの修正部分──」
「あ、斉藤、悪りぃけどコーヒー入れて」
「斉藤先輩この担当者の──」
「はい、とりあえず皆さんお待ちください」
今日も結衣が担当している《Design.mochi》のアンティーク部は斉藤コールの嵐だ。大学を卒業し、《Design.mochi》に就職して十年になる。慣れたもので一斉にお願いごとをされても聖徳太子のように聞き、優先順位を決めて仕事を行えるようになった。
アンティーク部のデザイナーは四人いる。チーフの武田森を筆頭に、年齢順に坂上まり、同期の木下謙之介、そして唯一の後輩の牧田康太だ。
武田森は設立当時のデザイナーの四人の一人で、木製の椅子を一から削って作り上げるのが生きがいというほど椅子作りのプロだ。四十二歳の子煩悩で子供が三人いる。
坂上まりは数年前にやって来たデザイナーで木目を使ったデザインに定評がある。結衣の二歳上で未婚だが結婚そのものに疑問を持った現実主義者だ。普段はスーツの黒縁眼鏡でスタイルの良さを隠している。
同期の木下謙之介は木の家具というより木を使ったアートをメインに行なっている。美術館で個展を行うなど精力的にアーティストとして活動している。最近は新築の家具などに力を入れている。基本的にフットワークが軽い。
後輩の牧田康太は大学院を卒業して就職した二十六歳、デザイン力を武田に買われて就職した。木製とは思えない繊細なものから癖を取り入れたより自然なままのデザインを作る。
そして、私斉藤結衣は今は至って平凡な雑用係だ。特別なものなど何もない──。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
【完結】殿下は私を溺愛してくれますが、あなたの“真実の愛”の相手は私ではありません
Rohdea
恋愛
──私は“彼女”の身代わり。
彼が今も愛しているのは亡くなった元婚約者の王女様だけだから──……
公爵令嬢のユディットは、王太子バーナードの婚約者。
しかし、それは殿下の婚約者だった隣国の王女が亡くなってしまい、
国内の令嬢の中から一番身分が高い……それだけの理由で新たに選ばれただけ。
バーナード殿下はユディットの事をいつも優しく、大切にしてくれる。
だけど、その度にユディットの心は苦しくなっていく。
こんな自分が彼の婚約者でいていいのか。
自分のような理由で互いの気持ちを無視して決められた婚約者は、
バーナードが再び心惹かれる“真実の愛”の相手を見つける邪魔になっているだけなのでは?
そんな心揺れる日々の中、
二人の前に、亡くなった王女とそっくりの女性が現れる。
実は、王女は襲撃の日、こっそり逃がされていて実は生きている……
なんて噂もあって────
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
きみの愛なら疑わない
秋葉なな
恋愛
花嫁が消えたバージンロードで虚ろな顔したあなたに私はどう償えばいいのでしょう
花嫁の共犯者 × 結婚式で花嫁に逃げられた男
「僕を愛さない女に興味はないよ」
「私はあなたの前から消えたりしない」
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活
束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。
初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。
ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。
それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる