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第一章 

35.死んだあとの欲

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 突然の大雨で歓楽街にいる生きた人間たちは慌てて建物の中へと入っていく。道にはもう雨に濡れることも出来ない幽霊たちだけが動じることなく歩き続けている。
 銀角もその一人だ。葉巻をくわえながら周りを見渡している。

 セクシーな女がポーズをとっている看板の上に腰掛ける男を見つけると銀角は声を掛ける。こんな不安定なところに座れるのは幽霊ぐらいだ。

『おい、ちょっと聞きたいことがある……』

『ほお? なんでしょう?旦那……』

 ジャージを着たボサボサ頭の男がニタッと微笑みこちらを見下ろす。

『死んでもを手に入れる方法を教えてくれ。そんなものあるのか?』

 男の顔が真顔になったと思ったら一瞬にして目の前に現れる。銀角の口元に人差し指を立てる。その手は黒く汚れていた。生前油を使った仕事をしていたらしい。

『しーっ、旦那、そんな事どこで聞いたんです?!』

 男が小声で周りを警戒する素振りをみせる。あまり人に聞かれたくない内容らしい。

『知り合いの幽霊がそんなことを言っていたらしいんだが、本当にあるのか?』

『……あるとは、思う。多分──』

『随分と曖昧だな。あるのかないのかはっきりしろ』

 男は銀角の腕を引っ張るとビルの屋上へと移動する。

『……旦那、やめときなよ。俺たちでもには近づけないよ』

『……あの人……だれだ、そいつ』

『都市伝説……じゃないんだけど……』

 生きているか死んでいるかもわからない神のような人物がいるらしい。その人物は多くの幽霊を従えているらしく、恐怖で幽霊を支配しているらしい。

 その人物の性別はもちろん、姿形も知るものもいない。幽霊をことのできる力を持った唯一無二の存在らしい。

 その人物は幽霊に仕事をさせた報酬としてと生きている人間に金を送ることもできるらしい。借金をして自殺した者や、残した家族のためにその都市伝説を信じて神に従う者も多いと聞く。
 ただし、仕事をして無事に帰ってきた幽霊は少ないという話だった。

 銀角は死んで随分と立つがその話を聞くのは初めてだった。幽霊の世界にもディープな部分があるらしい。

『その、神はなんて名だ? 呼び名ぐらいあるんだろう?』

『サン……って言うらしい。俺が言ったって言わないでくれよ! 言葉にするだけでも恐ろしい……じゃな!』

 男はそのまま姿を消した。
 銀角は葉巻の火を消すと屋上から歓楽街を見渡した。相変わらず雨が激しく打ち付けている。

『サン……か……。……!?』

 銀角は殺気を感じて後ろを振り返った。
 そこには誰もいなかった。ただ恐ろしい視線を感じた。

 なるほどな……確かに危険な奴みたいだな……。

 銀角はビルから飛び降りるようにして姿を消した。

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