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第一章 

49.トモと拳人

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 長い沈黙だった。実際にはそこまで経っていなかったかもしれないが体感的にすごく長く感じた。

 トモは何も話さずじっとこちらを見ている。いつもと同じ服なのにそこにいる佇まいはまるで別人で、本当によく似た人物がそこに座っているようだ。

 トモが、ヤクザ──?

 晶は拳を握りしめてひたすら沈黙に耐えていた。座敷はは先ほどよりも大勢の人がいるのにまるで誰もいないかのような沈黙に包まれている。

「……前の二回もお前がやったのか?」

 そういうと拳人は畳の上に晶が投函した封筒を投げる。色々な思いで上手く声が出ない。晶はコクリと頷くと、側にいた若い男が晶の態度が癪に触ったようで胸倉を掴もうとする。

「やめろ、客人に何すんだ」

 拳人の横にいるヤスがすぐさまそれを制止する。低い声が部屋に響きヤスの怒りを感じた男達がちらりと晶を一瞥する。拳人も意外だったようでヤスを見るとそのまま晶に視線を戻す。

「何故こんな事をする? 金目当てでやっていたとは思えんが……」

「……ある、人に頼まれました」

 やっと出た言葉に晶自身が驚いていた。緊張で枯れた声が出る。今この場で説明できる内容ではない。ジェイの死後、意志を継いだとも言えない。


 長い沈黙が続いていた。
 拳人が大きく溜息をつくと封筒の中身のSDカードを取り出した。今回それを届けに来たのだが、中身は晶も見ていない。ジェイは依頼内容と言っていたが……。

「正直に答えろ、このデータの写真は……お前が撮ったのか?」

 拳人の低い声が部屋に響く。一体何の写真が入っていたのだろうか……。

『遅いと思ったら、つかまってるやん、自分』

 いつのまにかジェイが胡座を掻いて座っている。部屋の周りを見渡すと呑気に『ええ畳の匂いやな』と言い畳に鼻をつけ匂いを嗅ぐ。元々肝が座っている性格だったのだろう。

『ヤクザに嘘ついてええことないで、聞かれたことだけにふわっとした答えにしとき』

 ここはジェイを信じてアドバイス通りに答える。その場にいたとは答えない方がいいだろう。

「……知り合いに渡してくれと頼まれました」

「そいつはもしや……ジェイ──か?」

 すぐに拳人が口を開く……その目は確信めいていた。晶がコクンと頷くとヤスが目を細める。

「そうであれば、報告役の男を始末した後にジェイも殺されたことになりますね」 

「やはり……犯人は同じだな」

 拳人とヤスは言葉を交わす。晶だけが話が読めない……ジェイを見ると肩をすくめている。

『俺の友達を殺したのも俺を拉致したのも船越組や。その証拠写真がSDカードに入ってた──ま、後で見してもらえば?』

 ジェイは背伸びをして畳に仰向けになった。姿が見えないからって自由すぎる。

「──お前の名は?」

「へ?」

 突然拳人から声を掛けられ変な声が出てしまった。なんて答えようか困っていると横でジェイが笑っている。

『おいおい……あかん。偽名でええで、ソコは。ヤクザに本名教えてどないすんねん』

──名前、私の名前は……。

 着ているスーツも髪型も通りの普段のトモなのに……大切な友達なのにどうしてこんなにすれ違ってしまったのだろう。トモを思う心は嘘偽りないのに……どうして自分たちの本当の姿は隠してしまったのか。

 失うのが、怖かった。霊力を気味が悪いと思われたくなかった。私たちはどこから掛け違ったのか……。

「──きら」

「ん?」

 晶は拳人をじっと見据える。

「あきら……、晶です」

 真っ直ぐな瞳に拳人は吸い込まれそうになる。初めて見たときは本当にか弱そうな少年だと思った。だが意志の強そうな眼光に幼さは感じられない。

 隣にいたジェイが本当の名を伝えたことに呆気に取られているようだ。強面コンビはいつのまにか拳人の側に立ち二人を温かい目で見つめていた。

「晶、お前の力を貸してくれ。俺のために動いてくれるか?」

 拳人のために少しでも力になりたいと思う。ヤクザである事を黙っていた拳人に対して怒りは一切感じなかった。それどころか拳人に対して特別な感情が溢れて出てくる。さっき名前を呼んでくれた時、それに気が付いた。

 そうか──私はトモが、拳人が好きなんだ。

「よろしく──お願いします」

 晶は拳人に頭を下げた。拳人はうっすらと笑みを浮かべた。
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