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第一章 

46.若林の屋敷へ

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 善は急げ──ってか急ぎすぎじゃない?

 晶はSDカードが入った封筒を持ち若林組の屋敷の近くまでやってきた。三回目にもなるとこの屋敷にも愛着が湧いてきた気がする。明日以降でもよかったのだがジェイが亡くなったので早い方がいいだろうという話になった。

 どうやら船越組のせいで若林組が警察にマークされているらしい。若林組の犯行である確固たる証拠を見つけ出せと躍起になっているようだ。一刻も早く真実を伝えるためにもこのデータを届けなければならない。

 警察が時折屋敷の周りで張り込みしているらしく強面コンビが今調べに行っている。銀角は仕事があるとかで今回は二人が手伝ってくれている。
 しばらくするとマルが向こうの方角を指差しながら現れる。

『路地の車の中に二人だ、まぁなんか一人が霊感あるみたいだから、タイミング合わせて脅かしてみる』

 遠くに見える路地に停まっているあの車のことだろう。マルはイタズラが楽しみで仕方ないようで笑いが止まらないようだ。

『あいつら呑気にカップラーメン食ってるからな……火傷するかもな! フフフ』

 どうやら警察の張り込みはこの時間はこの一台だけのようだ。タケも戻ると、屋敷の中の見回りは殆どが家屋近辺を中心に配置されているようで問題ないだろうということだった。

「さて、あとはやるだけだね……」

 あとはこのままあの郵便受けに投函すれば任務完了だ。初回はまさかの鉢合わせでなんとか逃げ切れたものの、相手はヤクザだ。今は警察の目もあるし警戒しているだろう。

以前は無かったが正門の屋根に真新しい監視カメラが設置されている事に晶は気づく。だが郵便受けは正門の屋根の真下にあるためそこまで壁沿いに行けば監視カメラには映らないので問題ないだろう。
 晶は今回はミスがないように神経を尖らせた。

「じゃ、行ってくるね」

『気をつけろよ』

 タケは晶を心配そうに見つめている。
 晶はいつものように屋敷へと駆け出す。そのまま方向転換をして郵便受けへと手を伸ばす。監視カメラに顔が移らないように俯き封筒を投函する。

「イ……ッ!」

 投函した瞬間指先に鋭い痛みが走る。直ぐに手を引っ込めると指先に斜めに走る切り傷が見える。急に視界が回りだすと体中に鳥肌が立つ。

(しまった……罠か──)

『姉ちゃん……!!』

 遠くでタケの声が聞こえた──。

 晶はあっという間に暗闇に包まれ意識を手放した。地面に顔から落ちるような感覚がしたがもう晶は痛みを感じなかった。
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