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第一章 

44.消え行く情報屋

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 車が人通りの少ない路肩に停車する。どうやら道路の拡張工事中らしく、雨の中雨具を着た作業員たちが道路の交通整備を行なっている。絶え間なく落ちてくる大粒の雨がフロントガラスに当たりフェンスに括り付けられた赤いライトがぐにゃりと歪んで見える。

「若、来ました──」

 しばらくすると傘もささずに男が後部座席へと乗り込んできた。カーキ色の上着は濡れており色も黒に近く見える。フードを被ったその男は相当慌てていたようで息も切れており微かだが震えているようにも見えた。

「何かわかったか?」 

 フードを取ると男は何も言わず首を横に振る。長い前髪は濡れて束になり緩やかなカーブを描いている。その眼光は鋭く黒目には俺の姿を映していない。

「これを──」

 俺は胸元から封筒を取り出すと男に差し出す。一瞬男は怯えた様子を見せたものの封筒だと気付き安堵した表情を見せる。

「命を……狙われてるのか?」

 俺の言葉に弾かれたように顔を上げると明らかに怯えたような目をしていた。男は膝の上で手を組み替え震えている。以前ジェイと仕事をした事があるがその時に会った男とは違うことに気付く。

 ジェイという情報屋は雇い主に直接会うことはない。電話で交渉するのは本人だがそれ以外は代理を雇い会わない事が仕事を引き受ける条件に挙げられていた。

「……相手が良くない」

「どういうことだ」

「ここ二ヶ月で何人も同業者が行方知れずだ。俺もあの男と会ってしまった……」

「男、そいつは──」

「名前を出しちゃいけない!」

 男は取り乱し始める。視界も悪く雨音で隣にいる俺ですら聞き取りにくいと言うのに誰が聞いているのか……全く意味が分からない。恐怖で正気を失ってしまっているのかもしれない。
 落ち着かせるために肩を押さえるが俺の目を見たまま荒い呼吸が治らない。

「もう、行かなくては……行かないと──」

 振り切るようにそのまま男はフードを被ると再び来た道を戻って行った。男が座っていた座席には金の入った白い封筒が置かれたままになっていた。それが俺があの男を見た最後の姿になってしまった──。

 翌日、テレビのニュースでビルから飛び降りた男のニュースをやっていた。自殺を装った他殺の線が濃厚らしい。すぐに身元が報道され、生前の顔写真が画面に小さく写っている。
 殺害されたのは先日会った報告役の男だった。生前の写真は学生時代のものだろう……あどけなさも残っている。昨日の取り乱した顔とは別人のようだ……。

「くそ……なんで──」

 テレビの電源を消すと拳人は机を拳で殴る。置かれていた湯のみが倒れ畳に茶が流れ落ちていく。

「若……」

「ジェイは──無事か?」

「確認してみます」

 急ぎ足で携帯電話の片手にヤスが部屋から出て行く。拳人は亡くなった男が言っていた言葉を思い出していた。

──ここ二ヶ月で何人も同業者が行方知れずだ……

 確か、ジェイも人手が足りず忙しいと言っていた。もしかして今回の件に何か関わっているのだろうか……。

 間違いなく報告役の男は俺と接触した後すぐ殺された。注意して会ったとはいえ、恐らく警察は最後に接触したのが俺だとすぐに分かるだろう。ますます俺への嫌疑が高まるのは間違いない。

 山形の事だ……あやふやな取って付けたような証拠を並べ立ててブタ箱行きのエスカレーターに乗せる気だろう。これでジェイまで殺されてしまえばそう簡単には容疑を晴らせない。

「やってくれるな……」

 拳人がギリっと奥歯を噛みしめる。ジェイの無事を祈るしかない。ジェイの安否を調べていたヤスが戻ってきた。ヤスの顔を見るなり拳人の顔が鋭くなる。

「死んだか」

 ヤスは黙って頷いた……。拳人は指で机を叩き何かを考えているようだ。ピタリと動きを止めると立ち上がった。

に会おう」
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