42 / 116
第一章
42.工場跡2
しおりを挟むえ、撃たれたの? 嘘でしょ!?
どこから狙撃されたか分からないが晶は必死で男を引きずり生垣の裏へと隠れる。
音が静かだった……映画でしか見たことがないがサイレンサー付の銃だろうか。
そんなものを準備しているぐらいだから最初からこの男を殺す気だったようだ。その間にも男の胸からは血が流れている。男は苦しそうに顔を歪ませている。
「がっ……かはっ!」
男は肺を損傷しているらしく口から血を吐きだした。晶の顔や服に真っ赤な血しぶきがかかる。晶は頭の中が真っ白になる。
「どうしよう、どうしよう……」
怖い、怖い──死なないで……。
晶は胸を押さえる事しかできない。そこへ銀角が戻ってくると二人の状況を見るなり苦々しい表情をする。
『クソっ!! おい! しっかりしろ! ジェイ!』
胸から流れる鮮血を見て銀角は悔しそうに拳を震わせた。どうやら二人は知り合いのようだ。晶が生垣から身を乗り出そうとすると、ジェイが晶の腕を掴む。
「ゆうれい……るな」
ジェイが苦し紛れに話す。口から泡を含んだ血が溢れ出す。それでも必死で晶に何かを伝えようとする。
「いいから、話さないで! すぐに病院に……」
幽霊なんて言葉がでるなんて思ってもみなかったが、銀角の事を言っているのだろうか。
「俺が死んだら、切らせんな」
『は? 何言ってんだ……しっかりしろ!』
銀角もジェイの言うことに全く見当もつかない。
「切らせん、な……」
そのままジェイは意識を失う。このままだと失血死してしまう。晶は生け垣を掻き分けて敵の様子を見る。工場内にいた三人は銀角曰く意識がもう無いらしい。
残された敵は向こう側にいる銃撃してきた奴だけだ。
晶は生垣から顔を覗かせるとすぐさま銃声が聞こえて生け垣の葉が揺れた。思わず後ろにひっくり返って難を逃れたものの、もう少しで頭が吹っ飛ぶ所だった。
どうやらこちらの動きは向こうに把握されているようだ。どうする事も出来ず時間だけが過ぎていく。
「このままじゃ死んじゃう! 銀さん!」
晶は銀角を見ると銀角は大きく首を振る。
『ジェイはどっちにしろ助からねぇ。晶ちゃん、一人で逃げるしか──』
銀角はジェイを見捨てて逃げろという。面識もないが死にかけている人間を置いて行けるほど晶は冷たい人間ではない。
(工場の裏に回れば、何処かから逃げれるかもしれない……)
『おい! 逃げなきゃ殺されちまうぞ!』
銀角の制止を振り切り晶はリュックを前に掛け直して、ジェイをおぶって歩き出す。背の小さい晶ではジェイの足がズルズルと引きずってしまう。こんな状態じゃ逃げ切れる事は難しいし、自分の命が危ないのは分かっているが、それでも見捨てたら後悔する事は間違いなかった。
カチッ
突然頭に硬い何かが触れる……何か金属が触れ合うような音がする。
「……動くな」
冷たく低い声が背後から聞こえる。頭に突きつけられているのは銃だと分かると冷や汗がこめかみを伝う。
「……こちらを、向け」
ゆっくりと後ろを振り返る。銃を突きつけている奴の背後から急に鋭い明かりが晶たちを包む。車のベッドライトだろう、二つの丸い光が見えた。
「くっ……」
腕で顔を隠すと車の方から誰かが近づいてくる足音がする。
「よぉ……凄腕情報屋さん。ようやく会えたな」
「…………」
ようやく光に慣れて瞼を開けると今一番会いたくない男──太一が目の前に立っていた。
10
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
パパLOVE
卯月青澄
ライト文芸
高校1年生の西島香澄。
小学2年生の時に両親が突然離婚し、父は姿を消してしまった。
香澄は母を少しでも楽をさせてあげたくて部活はせずにバイトをして家計を助けていた。
香澄はパパが大好きでずっと会いたかった。
パパがいなくなってからずっとパパを探していた。
9年間ずっとパパを探していた。
そんな香澄の前に、突然現れる父親。
そして香澄の生活は一変する。
全ての謎が解けた時…きっとあなたは涙する。
☆わたしの作品に目を留めてくださり、誠にありがとうございます。
この作品は登場人物それぞれがみんな主役で全てが繋がることにより話が完成すると思っています。
最後まで読んで頂けたなら、この言葉の意味をわかってもらえるんじゃないかと感じております。
1ページ目から読んで頂く楽しみ方があるのはもちろんですが、私的には「三枝快斗」篇から読んでもらえると、また違った楽しみ方が出来ると思います。
よろしければ最後までお付き合い頂けたら幸いです。
ことりの台所
如月つばさ
ライト文芸
※第7回ライト文芸大賞・奨励賞
オフィスビル街に佇む昔ながらの弁当屋に勤める森野ことりは、母の住む津久茂島に引っ越すことになる。
そして、ある出来事から古民家を改修し、店を始めるのだが――。
店の名は「ことりの台所」
目印は、大きなケヤキの木と、青い鳥が羽ばたく看板。
悩みや様々な思いを抱きながらも、ことりはこの島でやっていけるのだろうか。
※実在の島をモデルにしたフィクションです。
人物・建物・名称・詳細等は事実と異なります
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい
四乃森ゆいな
ライト文芸
『この感情は、幼馴染としての感情か。それとも……親友以上の感情だろうか──。』
孤独な読書家《凪宮晴斗》には、いわゆる『幼馴染』という者が存在する。それが、クラスは愚か学校中からも注目を集める才色兼備の美少女《一之瀬渚》である。
しかし、学校での直接的な接触は無く、あってもメッセージのやり取りのみ。せいぜい、誰もいなくなった教室で一緒に勉強するか読書をするぐらいだった。
ところが今年の春休み──晴斗は渚から……、
「──私、ハル君のことが好きなの!」と、告白をされてしまう。
この告白を機に、二人の関係性に変化が起き始めることとなる。
他愛のないメッセージのやり取り、部室でのお昼、放課後の教室。そして、お泊まり。今までにも送ってきた『いつもの日常』が、少しずつ〝特別〟なものへと変わっていく。
だが幼馴染からの僅かな関係の変化に、晴斗達は戸惑うばかり……。
更には過去のトラウマが引っかかり、相手には迷惑をかけまいと中々本音を言い出せず、悩みが生まれてしまい──。
親友以上恋人未満。
これはそんな曖昧な関係性の幼馴染たちが、本当の恋人となるまでの“一年間”を描く青春ラブコメである。
占星術師アーサーと彼方のカフェ
不来方しい
キャラ文芸
【※第6回キャラ文芸大賞奨励賞受賞】アルバイト先の店長は、愛に生きる謎多き英国紳士だった。
道案内をした縁があり、アーサーの元でアルバイトをすることになった月森彼方。そこは、宝石のようなキラキラしたスイーツと美味しい紅茶を出す占いカフェだった。
彼の占いを求めてやってくる人は個性豊かで、中には人生を丸々預けようとする人も。アーサーは真摯に受け止め答えていくが、占いは種も仕掛けもあると言う。
──私は、愛に生きる人なのです。
彼はなぜ日本へやってきたのか。家族との確執、占いと彼の関係、謎に満ちた正体とは。
英国紳士×大学生&カフェ×占星術のバディブロマンス!
井の頭第三貯水池のラッコ
海獺屋ぼの
ライト文芸
井の頭第三貯水池にはラッコが住んでいた。彼は貝や魚を食べ、そして小説を書いて過ごしていた。
そんな彼の周りで人間たちは様々な日常を送っていた。
ラッコと人間の交流を描く三編のオムニバスライト文芸作品。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる