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第一章 

42.工場跡2

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 え、撃たれたの? 嘘でしょ!?

 どこから狙撃されたか分からないが晶は必死で男を引きずり生垣の裏へと隠れる。

 音が静かだった……映画でしか見たことがないがサイレンサー付の銃だろうか。

 そんなものを準備しているぐらいだから最初からこの男を殺す気だったようだ。その間にも男の胸からは血が流れている。男は苦しそうに顔を歪ませている。

「がっ……かはっ!」

 男は肺を損傷しているらしく口から血を吐きだした。晶の顔や服に真っ赤な血しぶきがかかる。晶は頭の中が真っ白になる。

「どうしよう、どうしよう……」

 怖い、怖い──死なないで……。

 晶は胸を押さえる事しかできない。そこへ銀角が戻ってくると二人の状況を見るなり苦々しい表情をする。


『クソっ!! おい! しっかりしろ! ジェイ!』

 胸から流れる鮮血を見て銀角は悔しそうに拳を震わせた。どうやら二人は知り合いのようだ。晶が生垣から身を乗り出そうとすると、ジェイが晶の腕を掴む。

「ゆうれい……るな」

 ジェイが苦し紛れに話す。口から泡を含んだ血が溢れ出す。それでも必死で晶に何かを伝えようとする。

「いいから、話さないで! すぐに病院に……」

 幽霊なんて言葉がでるなんて思ってもみなかったが、銀角の事を言っているのだろうか。

「俺が死んだら、切らせんな」

『は? 何言ってんだ……しっかりしろ!』

銀角もジェイの言うことに全く見当もつかない。

「切らせん、な……」

 そのままジェイは意識を失う。このままだと失血死してしまう。晶は生け垣を掻き分けて敵の様子を見る。工場内にいた三人は銀角曰く意識がもう無いらしい。
 残された敵は向こう側にいる銃撃してきた奴だけだ。

 晶は生垣から顔を覗かせるとすぐさま銃声が聞こえて生け垣の葉が揺れた。思わず後ろにひっくり返って難を逃れたものの、もう少しで頭が吹っ飛ぶ所だった。
 どうやらこちらの動きは向こうに把握されているようだ。どうする事も出来ず時間だけが過ぎていく。

「このままじゃ死んじゃう! 銀さん!」

 晶は銀角を見ると銀角は大きく首を振る。  

『ジェイはどっちにしろ助からねぇ。晶ちゃん、一人で逃げるしか──』

 銀角はジェイを見捨てて逃げろという。面識もないが死にかけている人間を置いて行けるほど晶は冷たい人間ではない。

(工場の裏に回れば、何処かから逃げれるかもしれない……)

『おい! 逃げなきゃ殺されちまうぞ!』

 銀角の制止を振り切り晶はリュックを前に掛け直して、ジェイをおぶって歩き出す。背の小さい晶ではジェイの足がズルズルと引きずってしまう。こんな状態じゃ逃げ切れる事は難しいし、自分の命が危ないのは分かっているが、それでも見捨てたら後悔する事は間違いなかった。

 カチッ

 突然頭に硬い何かが触れる……何か金属が触れ合うような音がする。

「……動くな」

 冷たく低い声が背後から聞こえる。頭に突きつけられているのは銃だと分かると冷や汗がこめかみを伝う。

「……こちらを、向け」

 ゆっくりと後ろを振り返る。銃を突きつけている奴の背後から急に鋭い明かりが晶たちを包む。車のベッドライトだろう、二つの丸い光が見えた。

「くっ……」

 腕で顔を隠すと車の方から誰かが近づいてくる足音がする。

「よぉ……凄腕情報屋さん。ようやく会えたな」

「…………」

 ようやく光に慣れて瞼を開けると今一番会いたくない男──太一が目の前に立っていた。
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