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第一章
18.歓楽街
しおりを挟むその晩晶は一人歓楽街に来ていた。
今まで生きてきてこんな所に訪れた事などない。煌びやかな光に溢れ、酒が入って血色の良くなった人たちで街は活気に満ちていた。
とりあえず言われた通りカメラと便箋をリュックに詰めて、目立たぬよう深めにキャップを被り黒のパーカーを羽織る。
「可愛い僕、寄っていくぅ?」
路地を歩いていると時折キレイなお姉さんに声を掛けられる。丁重にお断りするもやはり男に間違われることに少なからず傷つく。アパートで時間と場所だけ晶に伝えると銀角は消えてしまった。
「歓楽街で待てと言われても……広すぎるでしょ。昭和の男はアバウトなのよね」
晶は当てもなく歩くことに疲れてきたので、古びたレンガ調のビルの階段に腰をかける。街を行き交う人々たちを見つめると夏の夜だと言うのに時折冬物の服を着ている人たちや、一昔前に流行った服で着飾っている女性もいることに気づく。
生きている人も幽霊もみんな笑顔で生きている街なのね……。
晶はこの能力を素直に受け入れ始めている自分に気がつく。人助けをすることに晶は言い知れぬ喜びを感じていた。中二病婆さんが言っていた特別な存在とやらかどうかは分からないが、きっと自分にはすべき事があると感じていた。
変な人生だけど……レジ打ちをしてただぼうっと生きていた時よりも……生きている気がするな。
晶は一人で微笑んだ。死んだ人間と交流して生きていると感じるなんて変な話だ。
ふと道を挟んだビルに目をやると、胸の谷間を覗かせたワンピースを着たキレイな女性とスーツ姿の男性が立っていた。男性はシルエットしか見えないがスタイルも良く、絵になる二人だ。
今から男性が帰るところらしく、女性が男性の胸元を優しく撫でて甘い声で囁いている。さすがこの界隈だと日常的に見られる光景だろう……じろじろとその様子を見ているのも晶ぐらいしかいない。
おっと──やばかった。
男性が振り返りそうになり晶は慌てて目を逸らした。
「ありがとう、助かった」
ん?
聞き覚えのある声に視線を戻すと女性に胸を撫でられた男性の横顔が見える。
あれ、もしかして……トモ?
そこには私の親友のトモの姿があった。
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