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第一章 

6.運命の出会いか

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 目の前にいるお客は一体何者なんだろうか。

 当日にご予約の電話があり仕事を引き受けたのだが、最初電話の声が男性だった事に晶は戸惑っていた。今までの客は皆女性だったからだ。付き添いで男性が来店される事があっても大体が占いというものに対しての不信感や恥ずかしい思いもあり、席を外す方が多い。
 しかしこの客は自ら望んでここに座っているらしく、じっとこちらの様子を伺っている。

 ちらりと盗み見ると一見真面目そうだが、眼鏡の奥は切れ長の綺麗な目をしている。前髪で隠しているけれど、時折見せる鋭い目に晶は思わずどきりとする。

「えっと、何を……ご希望でらっしゃいますか?」

「あー、……仕事運とか」

「なるほど、何かお悩みはありませんか?」

「漠然としているんですけど、社員が大勢いる会社なので自信をつけたいんです」

 若いのに大企業に勤めているらしい。服装からしてIT関係の仕事かもしれない。

「分かりました。また途中で質問させてください」

 自己啓発セミナーではなくこんな辺鄙な占い屋に自信をつけに来るなんて随分変わり者だ。 

 いつものように晶は水晶玉を見つめて部屋の周りを見渡した。大概の霊はこうすると油断して近くにやってきてくれる事が多い。誰かが客と晶の間に佇んでいる。晶はすっと目線をそちらへと移した。 

 はい? おたく、どなた? ってか──なぜこんな人を連れているの?

 反応してはいけないのに晶は現れた人物に思わず目が点になる。そこには明らかに修羅場を潜り抜けてきたであろう白髪頭のヤクザがこちらを見下ろしていた。グレーの光沢のあるスーツが本場度を増している。

 いや、睨み過ぎでしょ! めっちゃ眉間に皺寄ってるし! いやいや、ただ占ってるだけだよ。
 
 すぐさま目を伏せて再度水晶玉に集中しているふりをする。するとそのヤクザが私の顔を覗き込んできた。  

『ほぉ、姉ちゃん……俺の事見える人か?』

 至近距離で笑った顔はまさに破壊力がすさまじかった。思わず焦点を合わせてしまった……。
 そこから怪しい布を被った女と真面目な青年、ニヤつくヤクザの地獄のトライアングルの構図になった。 

 ローブで覆われているからだけではない汗がすっとこめかみを伝った。 とにかくこの修羅場を乗り越えねばならない──。

「えーっと、では、何故うちの店にご来店いただいたのでしょうか?」

 晶の質問に男は顔を上げた。どうやら意外な質問に対して驚いているようだ。

「……むしゃくしゃしてて……。この店のことを話していたのを耳にして来たんだ」 


 敬語が取れている事を本人は意識していないのだろう。本心を話してくれたのだと晶は微笑む。 拳人は気まずいらしく目を逸らした。

『あー、そうそう拳人は朝から荒れてたなぁ。俺まだ見てねぇのに朝刊破きやがって……』

 白髪のヤクザが不機嫌そうに呟いている。

「なるほど、ちょっとお待ちくださいね」

 晶はヤクザに目配せをすると白髪のヤクザがテーブルに腰掛ける。御行儀が悪いヤクザだ。

『姉ちゃん、悪いけど解決できねぇよ。コイツはな、どんなに占いに行っても満たされねぇ……占いにかこつけて寂しさを補ってるだけだ』

「え?」

『こんな真面目くさった似合わねぇ格好までして、ヤクザのくせにコソコソして……』

 晶は小さく相槌を打ちながらやっぱりアンタはヤクザでしょうね! 威圧感半端ないもんね! と心の中で突っ込んで、ふと思考が止まる。

「……へ? 誰がヤクザ?」

『目の前にいる男以外に誰がいるんだよ。コイツは正真正銘のヤクザだ』

思わず声に出してしまった。 座っている男に目を向けると驚愕の表情でこちらをじっと見ていた。

「あ、あの! これはあの、その──」

 晶はしどろもどろになりながら言い訳を考えていたが、どうにもさっきの「ヤクザ」発言をフォローするアイデアが浮かばない。 

 白髪のヤクザは面白そうに私たち二人を見て大笑いしている。晶はキッと横目で白髪のヤクザを睨んでいると、突然目の前の男に腕を掴まれ引き寄せられた。

「アンタ……【本物】なんだな……」

 拳人は晶の顔を覗き込む。さっきまでとは全く違う雰囲気に晶はゴクリと唾を飲む。眼鏡越しの目は爛々として、獲物を狙う豹のような眼差しをしている。  

「は、はひ?」

「──おかげで解決した。礼を言う」

 あっという間に萬札をテーブルに置くと店を出て行ってしまった。お釣りを渡す暇さえ与えられない。

『クックック……姉ちゃん、またな』  

 どこからか白髪のヤクザの声が聞こえたがもう既に姿を消してしまったようだ。 

「──ま、たね? え、また来る気?!」
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