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後日談5 ウェディングドレスの選び方(交互視点)
02
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ゆっくりと梢ちゃんをベッドに横たわらせて、その頬に唇を寄せる。
梢ちゃんは顔を真っ赤にしたまま、潤んだ目で俺を見上げてきた。
何度も肌を重ねているのに、未だに気恥ずかしそうなその表情が、たまらなくかわいくて愛おしい。頬がゆるむのをそのままに、彼女の髪を撫で、首の後ろへ手を回し、唇を重ねる。
ちゅ、と小さな水音がたち、梢ちゃんが俺の頭に手を伸ばす。俺は再び唇を重ねて、ゆっくりと彼女の肩を、腕をと、撫でながら腰へ手を伸ばして行く。
「……かつくん」
キスの合間に、たどたどしい声が俺を呼ぶ。
その吐息のような息遣いに、俺の男が反応する。
「梢ちゃん」
優しく優しく微笑んであげれば、梢ちゃんは俺に見惚れたようにぽぅっとした顔をする。その目にキスを落としてゆっくり離れる。君を愛していると伝わるように、想いを込めた目で愛おしい人を見つめる。
とたん、梢ちゃんは照れたように目を逸らす。ちゃんと伝わったらしいと分かって俺は笑い、その頬に口づける。優しく。そう、できるだけ優しく。たとえ回数を重ねても、彼女を嫌がらせることのないように――
「……勝くんは」
言う声が聞こえて、ふと目を上げた。
梢ちゃんはやっぱりいどこか夢うつつな表情で、俺を見上げている。
「王子様、みたいだね」
そう言われて、俺は思わず動きを止めた。
王子様?
頭をよぎったのは、職場でそう呼ばれている同期の姿だ。
――いや、俺とはあまりにタイプが違うだろう。
そう笑いそうになって、梢ちゃんに目を戻す。
「初めて言われたよ」
「そう?」
不思議そうに、梢ちゃんがそう言って、ちょっとすねたように唇を尖らせた。
けど、その端は少し引きあがっていて、照れ隠しだとすぐ分かる。
「でも……タキシード、すごく、似合ってた」
ぽつりと言うのは、今日の試着のことだろう。
梢ちゃんのドレス選びにつき合っていたら、「新郎様もどうぞ」と勧められて、せっかくだからと着てみたのだ。
スーツを着慣れているし、体格的には確かに見栄えも悪くなかった。けれど、鏡に映った自分を見て正直ちょっとがっかりした――梢ちゃんのウブさに比べて、なんとなく軽薄に見えたからだ。
まあ、実際、さっき脳裏をよぎった職場の「王子」と比べれば、俺が軽薄なのは間違いなかった。梢ちゃんと恋人になる前までは、遊びの意味でも発散の意味でも、それなりの経験はしているし――でも。
「勝くん?」
腕の中から、梢ちゃんが俺を見上げる。まっすぐなその目は信じられないくらい純粋に、俺のことを信じてくれている。
俺はその目に安堵しながら、同時に、後悔もするのだ――馬鹿なことに時間を費やしたものだと。
「梢ちゃんの方が――よく、似合ってたよ」
耳元でそう囁くと、梢ちゃんは恥ずかしそうに身じろぎする。うつむきがちに首を振った。
「う、嘘。――私なんて、もう、ただのおばちゃんで」
「そんなことない」
要らない言葉を口走るその唇に、そっと指を乗せてやると、梢ちゃんは俺を見上げた。
確かに照れているんだろうけど、卑下しながらも俺の言葉を待っている目だ。
その目で見つめられると、何度でも愛を囁いてあげたくなる。
俺はめいっぱい優しく甘く微笑んで、梢ちゃんの額に額を合わせる。
「梢ちゃんこそ、お姫様みたいだったよ。……ちょっと、焦ったくらい」
「焦る……? なんで?」
梢ちゃんは不思議そうに俺を見上げる。その目尻にキスをして、ゆっくり首を、肩を撫でていく。
ただそれだけで、梢ちゃんの口からわずかに甘い吐息が漏れた――俺の愛撫を期待しているのだ。
梢ちゃんをそんな風にしたのは俺で、支配欲に似た喜びに頬が緩む。
けれど、あくまで気づかないふりで、俺は梢ちゃんの背中へと手を這わせた。
「ドレス、確かにきれいだったけど……思ったよりも」
首の後ろにある骨のでっぱりに指をかけ、つつ、と腰の方へ下ろして行く。
「背中が開くのが多いなぁって……」
首元にキスをするような距離で囁くと、梢ちゃんは恥ずかしそうに身をよじった。
「そ、そんなの……勝くんが、そういうのばっかり持ってきたから……」
「うーん、そこが悩ましいところなんだよね……」
俺は言いながら、服の上から背筋を上へ、下へと撫でさする。
梢ちゃんはくすぐったがるように背をしならせて、俺の手を避けようとする。
「か、勝くん」
「うん」
キスをしながら、シャツの裾から手を入れる。梢ちゃんはきゅっと目を閉じて、また開いた。
「梢ちゃんが綺麗に見えるドレスを着ると、露出度が上がる……でも、俺以外の男に梢ちゃんの背中を見てほしくない……」
「……なぁに、それ」
俺の呟きに、梢ちゃんが笑う。俺も釣られるように笑いながら、「結構本気で悩んでるんだよ」と言ったけれど、梢ちゃんは「はいはい」と笑うばかりだ。
冗談だと思っているのだろう。そっちがそのつもりならと、シャツの裾から滑り込ませた手で直接背中に触れる。中途半端に前が開いたシャツがずるずると引っ張られて脇の下にたまると、「はい、ばんざいして」と声をかけて引き抜いた。恥ずかしそうに笑う梢ちゃんを抱きすくめてキスの雨を降らせる。梢ちゃんがくすぐったがるような笑い声をあげる。
こういうのを幸せって言うんだろうな――そんな言葉が脳裏をかすめる。
梢ちゃんが俺のシャツに手を伸ばした。
「勝くんも、脱いで」
気恥ずかしそうに見上げて言われ、「じゃ、脱がせて」と両手を広げてみる。
梢ちゃんは意外そうに目を見開いて、俺のカーディガンのボタンを一つ一つ外していった。
その手つきがたどたどしくて、思わず笑いそうになるけれど、ちらちらと俺の顔を見ながらボタンを外していく表情が可愛くて、じっと我慢する。
「――外れた」
「ありがと」
ほっと息をついて上げた梢ちゃんの顔にキスを落とし、シャツとカーディガンを一気に脱ぎ去る。裸の上半身を見て、梢ちゃんが恥ずかしそうに目を泳がせる。
「まだ見慣れない?」
「み、見慣れないっていうか……」
梢ちゃんは顔を赤らめて、「なんか、恥ずかしい」と小さい声で言う。
――ああ、もう。可愛いな。
心の中では完全に降参だ。彼女への愛おしさの前には、何も敵わないんだから。
梢ちゃんは顔を真っ赤にしたまま、潤んだ目で俺を見上げてきた。
何度も肌を重ねているのに、未だに気恥ずかしそうなその表情が、たまらなくかわいくて愛おしい。頬がゆるむのをそのままに、彼女の髪を撫で、首の後ろへ手を回し、唇を重ねる。
ちゅ、と小さな水音がたち、梢ちゃんが俺の頭に手を伸ばす。俺は再び唇を重ねて、ゆっくりと彼女の肩を、腕をと、撫でながら腰へ手を伸ばして行く。
「……かつくん」
キスの合間に、たどたどしい声が俺を呼ぶ。
その吐息のような息遣いに、俺の男が反応する。
「梢ちゃん」
優しく優しく微笑んであげれば、梢ちゃんは俺に見惚れたようにぽぅっとした顔をする。その目にキスを落としてゆっくり離れる。君を愛していると伝わるように、想いを込めた目で愛おしい人を見つめる。
とたん、梢ちゃんは照れたように目を逸らす。ちゃんと伝わったらしいと分かって俺は笑い、その頬に口づける。優しく。そう、できるだけ優しく。たとえ回数を重ねても、彼女を嫌がらせることのないように――
「……勝くんは」
言う声が聞こえて、ふと目を上げた。
梢ちゃんはやっぱりいどこか夢うつつな表情で、俺を見上げている。
「王子様、みたいだね」
そう言われて、俺は思わず動きを止めた。
王子様?
頭をよぎったのは、職場でそう呼ばれている同期の姿だ。
――いや、俺とはあまりにタイプが違うだろう。
そう笑いそうになって、梢ちゃんに目を戻す。
「初めて言われたよ」
「そう?」
不思議そうに、梢ちゃんがそう言って、ちょっとすねたように唇を尖らせた。
けど、その端は少し引きあがっていて、照れ隠しだとすぐ分かる。
「でも……タキシード、すごく、似合ってた」
ぽつりと言うのは、今日の試着のことだろう。
梢ちゃんのドレス選びにつき合っていたら、「新郎様もどうぞ」と勧められて、せっかくだからと着てみたのだ。
スーツを着慣れているし、体格的には確かに見栄えも悪くなかった。けれど、鏡に映った自分を見て正直ちょっとがっかりした――梢ちゃんのウブさに比べて、なんとなく軽薄に見えたからだ。
まあ、実際、さっき脳裏をよぎった職場の「王子」と比べれば、俺が軽薄なのは間違いなかった。梢ちゃんと恋人になる前までは、遊びの意味でも発散の意味でも、それなりの経験はしているし――でも。
「勝くん?」
腕の中から、梢ちゃんが俺を見上げる。まっすぐなその目は信じられないくらい純粋に、俺のことを信じてくれている。
俺はその目に安堵しながら、同時に、後悔もするのだ――馬鹿なことに時間を費やしたものだと。
「梢ちゃんの方が――よく、似合ってたよ」
耳元でそう囁くと、梢ちゃんは恥ずかしそうに身じろぎする。うつむきがちに首を振った。
「う、嘘。――私なんて、もう、ただのおばちゃんで」
「そんなことない」
要らない言葉を口走るその唇に、そっと指を乗せてやると、梢ちゃんは俺を見上げた。
確かに照れているんだろうけど、卑下しながらも俺の言葉を待っている目だ。
その目で見つめられると、何度でも愛を囁いてあげたくなる。
俺はめいっぱい優しく甘く微笑んで、梢ちゃんの額に額を合わせる。
「梢ちゃんこそ、お姫様みたいだったよ。……ちょっと、焦ったくらい」
「焦る……? なんで?」
梢ちゃんは不思議そうに俺を見上げる。その目尻にキスをして、ゆっくり首を、肩を撫でていく。
ただそれだけで、梢ちゃんの口からわずかに甘い吐息が漏れた――俺の愛撫を期待しているのだ。
梢ちゃんをそんな風にしたのは俺で、支配欲に似た喜びに頬が緩む。
けれど、あくまで気づかないふりで、俺は梢ちゃんの背中へと手を這わせた。
「ドレス、確かにきれいだったけど……思ったよりも」
首の後ろにある骨のでっぱりに指をかけ、つつ、と腰の方へ下ろして行く。
「背中が開くのが多いなぁって……」
首元にキスをするような距離で囁くと、梢ちゃんは恥ずかしそうに身をよじった。
「そ、そんなの……勝くんが、そういうのばっかり持ってきたから……」
「うーん、そこが悩ましいところなんだよね……」
俺は言いながら、服の上から背筋を上へ、下へと撫でさする。
梢ちゃんはくすぐったがるように背をしならせて、俺の手を避けようとする。
「か、勝くん」
「うん」
キスをしながら、シャツの裾から手を入れる。梢ちゃんはきゅっと目を閉じて、また開いた。
「梢ちゃんが綺麗に見えるドレスを着ると、露出度が上がる……でも、俺以外の男に梢ちゃんの背中を見てほしくない……」
「……なぁに、それ」
俺の呟きに、梢ちゃんが笑う。俺も釣られるように笑いながら、「結構本気で悩んでるんだよ」と言ったけれど、梢ちゃんは「はいはい」と笑うばかりだ。
冗談だと思っているのだろう。そっちがそのつもりならと、シャツの裾から滑り込ませた手で直接背中に触れる。中途半端に前が開いたシャツがずるずると引っ張られて脇の下にたまると、「はい、ばんざいして」と声をかけて引き抜いた。恥ずかしそうに笑う梢ちゃんを抱きすくめてキスの雨を降らせる。梢ちゃんがくすぐったがるような笑い声をあげる。
こういうのを幸せって言うんだろうな――そんな言葉が脳裏をかすめる。
梢ちゃんが俺のシャツに手を伸ばした。
「勝くんも、脱いで」
気恥ずかしそうに見上げて言われ、「じゃ、脱がせて」と両手を広げてみる。
梢ちゃんは意外そうに目を見開いて、俺のカーディガンのボタンを一つ一つ外していった。
その手つきがたどたどしくて、思わず笑いそうになるけれど、ちらちらと俺の顔を見ながらボタンを外していく表情が可愛くて、じっと我慢する。
「――外れた」
「ありがと」
ほっと息をついて上げた梢ちゃんの顔にキスを落とし、シャツとカーディガンを一気に脱ぎ去る。裸の上半身を見て、梢ちゃんが恥ずかしそうに目を泳がせる。
「まだ見慣れない?」
「み、見慣れないっていうか……」
梢ちゃんは顔を赤らめて、「なんか、恥ずかしい」と小さい声で言う。
――ああ、もう。可愛いな。
心の中では完全に降参だ。彼女への愛おしさの前には、何も敵わないんだから。
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