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後日談3 若気の至りが掘る墓穴(勝弘視点)
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濡れた顔中にキスを落としていくうち、梢ちゃんの表情は段々とリラックスした笑顔に変わってきた。
それにほっとしながらキスを繰り返し、ゆっくりと、二人の時間を味わう。
「紅茶、入れようか」
「……うん」
お湯が沸いた音がして、手を伸ばして火を止める。照れ臭そうに俺を見上げる梢ちゃんの目は泣いたからまだ赤くて、それがたまらなく愛おしい。
そっとそのまぶたにキスを落とした。
「ごめんね、泣かせちゃって」
「そんなの。……勝手に泣いたのに」
紅茶を入れる梢ちゃんを、後ろからそっと抱きしめる。はぁ、と肩の上で息を吐き出した。
「……別れよう、とか言われたら、どうしようかと思ってた」
「あはは、なんで」
梢ちゃんはそう笑って、首を傾げた。
「ちょっと、意外。勝くんはもっと、自信があるんだと思ってた」
「自信、ねぇ」
俺は答える。それはただの過信なのだと、よぎったときの悪寒を思い出して眉を寄せる。
「……俺は梢ちゃんを、幸せにしてあげられるんだって、簡単に思ってた」
梢ちゃんの手元から、紅茶の香りが漂ってくる。
「そんなこと、本気で努力しないとできないのにね」
「そうかな」
梢ちゃんはやかんとポットから手を離し、俺の腕の中で身体を反転させる。
すると、俺の頬に手を添えた。
「勝くんにこうして抱きしめてもらえるだけで、私は幸せだよ」
何のためらいもなく、まっすぐ見上げてくる梢ちゃん。
「……敵わないなぁ」
俺は苦笑を浮かべて、梢ちゃんを抱きしめる。
「何が、敵わないの?」
腕の中で、梢ちゃんが不思議そうに尋ねる。
「んー……悔しいから、内緒」
俺が梢ちゃんを幸せにするよりも先に、梢ちゃんが、俺を幸せにしてくれている。
――だから、敵わないなぁって、思ったんだよ。
思ったけれど口にはせずに、唇の端にキスを落とした。
***
「……勝くん、あのぅ……お、重くない?」
「重くない」
「ええと……その、恥ずかしいんだけど」
「何が? はい、あーん」
膝の上に梢ちゃんを乗せて、タルトを一切れ口に運ぶ。梢ちゃんは困ったような顔で頬を赤くして口を開いた。そこに、そっとタルトを入れてあげる。
もぐもぐする口の端にクッキー地のかけらが見えて、ぺろりと舌で舐め上げると、梢ちゃんは俺の腕を優しくたたいた。
「も、もぉ。勝くんてば」
「だって、ついてたから。美味しいね、このタルト」
「う、うん、美味しい……ありがと」
梢ちゃんの語尾を聞くより先に、再び唇を重ねる。
真っ赤になった梢ちゃんは、困り切った顔で俺を見上げた。
「な、なんで今日、こんな近いの?」
「日中の心の距離が遠かったから、埋め合わせしたくて。駄目?」
首を傾げて見つめてやると、梢ちゃんはうろたえて視線をさまよわせる。
俺のこういう”お願い”に、梢ちゃんが弱いのは薄々知ってる。
それは少なからず、自分の方が年上だという気持ちがあるのだろうか。
そんなの、気にしなくてもいいのに。
思うやまた、感情がこみ上げた。言葉にするより先に、梢ちゃんに唇を重ねる。
「んぅっ」
「はぁ。可愛い」
ぎゅぅと膝上のぬくもりを抱きしめて、ニットの肩に額を寄せる。すりすりすると、梢ちゃんは半ば照れながら「もう……」と俺の頭を撫でてくれた。
「……勝くんも、可愛いよ」
ぽつりと声が聞こえて、目だけを上げる。梢ちゃんはちょっとだけ誇らしげに笑っていた。
「勝くんて、年下だと思えないくらい、余裕あるから。なんか悔しくって。たまには今日みたいに、甘えてくれてもいいよ」
髪を撫でるぬくもりに、少しだけ照れ臭くなる。
俺も半ば無意識に、梢ちゃんの前でカッコつけていたのかもしれない。
年下だからって馬鹿にされないように。
頼ってもらえるように。
……たまには、こういうのも悪くないな。
目を閉じて大人しく撫でられていたら、頭を抱き寄せられた。
意外さに驚いて目を開いたとき、唇が重なった。
梢ちゃんからのキス。
俺も梢ちゃんの背中に手を回し、そっと受け止める。
ついばむような、味わうような、優しいキス。
少しずつ、上擦ってくる呼吸。
息遣いの合間に聞こえるハミングのような彼女の声に、反応する男のサガ。
――梢ちゃんは?
背中を撫でていた手を、腰周りへと下ろしていく。梢ちゃんは目を閉じて俺にキスをしながら、俺の手に促されるように上へ乗り上げてくる。うっすらと目を開く。唾液に濡れた唇が光る。鼻と鼻が触れ合う距離で、じっと見つめ合う。
「……好きだよ」
泣きそうな、嬉しそうな、梢ちゃんの笑顔に、俺も泣きそうになった。
「……俺も」
答えると、梢ちゃんは嬉しそうに笑った。
***
座ったままの姿勢のまま、梢ちゃんが屹立した俺自身をゆっくりと自身の中に受け止めていく。
快楽のためではなく、互いの温もりを感じるための行為。
密着したまま、ゆるやかな動きで、繋がりを感じる。
「気持ち、ぃ」
「うん……俺も」
顔を寄せればすぐに唇を重ねられる距離。
射精だけが男の快感な訳じゃないのだと、彼女の満足げな吐息を感じる度に思い知る。
「私、あんまり、いろいろ、できない、から」
「いいよ、しなくても……。今、珍しいことしてくれてるし」
「やだ、もう」
梢ちゃんは真っ赤な顔で俺をにらみつける。俺は笑って、顔に張り付いた髪を避けてやる。キスをすると、梢ちゃんがまた俺の首に抱き着いてきた。その腰回りを撫でる。
「っ、はぁ……」
きゅうっと俺を締める彼女の膣の動きを感じながら、首筋に口づける。
いつも、恥ずかしいから消してくれと言う照明は、今日は点けたままだ。
恥ずかしがっている梢ちゃんの姿がはっきり見えるだけでも、俺としては大満足――
「んっ……んっ……」
梢ちゃんはそのまま、ゆっくりと腰を上下させている。
いつかの騎乗位ではあまり積極的でなかったのに、今日は自然に動いているようだ。
自然と動いてしまう、んだろうか。そう思うと、彼女の新しい一面が知れた喜びに胸が満たされる。
動くのは彼女に任せて、俺は耳や首筋に唇を落とす。俺の宝物。そう伝えるために。伝わるように。俺の熱を彼女に優しく押し付けていく。
梢ちゃんはふるりと震えて、潤んだ目で俺を見つめた。
今まで感じたことのないほど強烈な”女”を彼女に見て、身体が震えた。
「……愛してる」
――俺も。愛してる。
そう答えようとしたのに、言葉にするには想いが胸につかえて、俺はすがりつくように、梢ちゃんの身体を抱きしめる。
「ふふ」
女神のように、小さく、優しく笑う声が聞こえた。
***
次はまた梢視点です。
それにほっとしながらキスを繰り返し、ゆっくりと、二人の時間を味わう。
「紅茶、入れようか」
「……うん」
お湯が沸いた音がして、手を伸ばして火を止める。照れ臭そうに俺を見上げる梢ちゃんの目は泣いたからまだ赤くて、それがたまらなく愛おしい。
そっとそのまぶたにキスを落とした。
「ごめんね、泣かせちゃって」
「そんなの。……勝手に泣いたのに」
紅茶を入れる梢ちゃんを、後ろからそっと抱きしめる。はぁ、と肩の上で息を吐き出した。
「……別れよう、とか言われたら、どうしようかと思ってた」
「あはは、なんで」
梢ちゃんはそう笑って、首を傾げた。
「ちょっと、意外。勝くんはもっと、自信があるんだと思ってた」
「自信、ねぇ」
俺は答える。それはただの過信なのだと、よぎったときの悪寒を思い出して眉を寄せる。
「……俺は梢ちゃんを、幸せにしてあげられるんだって、簡単に思ってた」
梢ちゃんの手元から、紅茶の香りが漂ってくる。
「そんなこと、本気で努力しないとできないのにね」
「そうかな」
梢ちゃんはやかんとポットから手を離し、俺の腕の中で身体を反転させる。
すると、俺の頬に手を添えた。
「勝くんにこうして抱きしめてもらえるだけで、私は幸せだよ」
何のためらいもなく、まっすぐ見上げてくる梢ちゃん。
「……敵わないなぁ」
俺は苦笑を浮かべて、梢ちゃんを抱きしめる。
「何が、敵わないの?」
腕の中で、梢ちゃんが不思議そうに尋ねる。
「んー……悔しいから、内緒」
俺が梢ちゃんを幸せにするよりも先に、梢ちゃんが、俺を幸せにしてくれている。
――だから、敵わないなぁって、思ったんだよ。
思ったけれど口にはせずに、唇の端にキスを落とした。
***
「……勝くん、あのぅ……お、重くない?」
「重くない」
「ええと……その、恥ずかしいんだけど」
「何が? はい、あーん」
膝の上に梢ちゃんを乗せて、タルトを一切れ口に運ぶ。梢ちゃんは困ったような顔で頬を赤くして口を開いた。そこに、そっとタルトを入れてあげる。
もぐもぐする口の端にクッキー地のかけらが見えて、ぺろりと舌で舐め上げると、梢ちゃんは俺の腕を優しくたたいた。
「も、もぉ。勝くんてば」
「だって、ついてたから。美味しいね、このタルト」
「う、うん、美味しい……ありがと」
梢ちゃんの語尾を聞くより先に、再び唇を重ねる。
真っ赤になった梢ちゃんは、困り切った顔で俺を見上げた。
「な、なんで今日、こんな近いの?」
「日中の心の距離が遠かったから、埋め合わせしたくて。駄目?」
首を傾げて見つめてやると、梢ちゃんはうろたえて視線をさまよわせる。
俺のこういう”お願い”に、梢ちゃんが弱いのは薄々知ってる。
それは少なからず、自分の方が年上だという気持ちがあるのだろうか。
そんなの、気にしなくてもいいのに。
思うやまた、感情がこみ上げた。言葉にするより先に、梢ちゃんに唇を重ねる。
「んぅっ」
「はぁ。可愛い」
ぎゅぅと膝上のぬくもりを抱きしめて、ニットの肩に額を寄せる。すりすりすると、梢ちゃんは半ば照れながら「もう……」と俺の頭を撫でてくれた。
「……勝くんも、可愛いよ」
ぽつりと声が聞こえて、目だけを上げる。梢ちゃんはちょっとだけ誇らしげに笑っていた。
「勝くんて、年下だと思えないくらい、余裕あるから。なんか悔しくって。たまには今日みたいに、甘えてくれてもいいよ」
髪を撫でるぬくもりに、少しだけ照れ臭くなる。
俺も半ば無意識に、梢ちゃんの前でカッコつけていたのかもしれない。
年下だからって馬鹿にされないように。
頼ってもらえるように。
……たまには、こういうのも悪くないな。
目を閉じて大人しく撫でられていたら、頭を抱き寄せられた。
意外さに驚いて目を開いたとき、唇が重なった。
梢ちゃんからのキス。
俺も梢ちゃんの背中に手を回し、そっと受け止める。
ついばむような、味わうような、優しいキス。
少しずつ、上擦ってくる呼吸。
息遣いの合間に聞こえるハミングのような彼女の声に、反応する男のサガ。
――梢ちゃんは?
背中を撫でていた手を、腰周りへと下ろしていく。梢ちゃんは目を閉じて俺にキスをしながら、俺の手に促されるように上へ乗り上げてくる。うっすらと目を開く。唾液に濡れた唇が光る。鼻と鼻が触れ合う距離で、じっと見つめ合う。
「……好きだよ」
泣きそうな、嬉しそうな、梢ちゃんの笑顔に、俺も泣きそうになった。
「……俺も」
答えると、梢ちゃんは嬉しそうに笑った。
***
座ったままの姿勢のまま、梢ちゃんが屹立した俺自身をゆっくりと自身の中に受け止めていく。
快楽のためではなく、互いの温もりを感じるための行為。
密着したまま、ゆるやかな動きで、繋がりを感じる。
「気持ち、ぃ」
「うん……俺も」
顔を寄せればすぐに唇を重ねられる距離。
射精だけが男の快感な訳じゃないのだと、彼女の満足げな吐息を感じる度に思い知る。
「私、あんまり、いろいろ、できない、から」
「いいよ、しなくても……。今、珍しいことしてくれてるし」
「やだ、もう」
梢ちゃんは真っ赤な顔で俺をにらみつける。俺は笑って、顔に張り付いた髪を避けてやる。キスをすると、梢ちゃんがまた俺の首に抱き着いてきた。その腰回りを撫でる。
「っ、はぁ……」
きゅうっと俺を締める彼女の膣の動きを感じながら、首筋に口づける。
いつも、恥ずかしいから消してくれと言う照明は、今日は点けたままだ。
恥ずかしがっている梢ちゃんの姿がはっきり見えるだけでも、俺としては大満足――
「んっ……んっ……」
梢ちゃんはそのまま、ゆっくりと腰を上下させている。
いつかの騎乗位ではあまり積極的でなかったのに、今日は自然に動いているようだ。
自然と動いてしまう、んだろうか。そう思うと、彼女の新しい一面が知れた喜びに胸が満たされる。
動くのは彼女に任せて、俺は耳や首筋に唇を落とす。俺の宝物。そう伝えるために。伝わるように。俺の熱を彼女に優しく押し付けていく。
梢ちゃんはふるりと震えて、潤んだ目で俺を見つめた。
今まで感じたことのないほど強烈な”女”を彼女に見て、身体が震えた。
「……愛してる」
――俺も。愛してる。
そう答えようとしたのに、言葉にするには想いが胸につかえて、俺はすがりつくように、梢ちゃんの身体を抱きしめる。
「ふふ」
女神のように、小さく、優しく笑う声が聞こえた。
***
次はまた梢視点です。
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