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後日談2 ずっと近くにいたいから(梢視点)
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~リハビリ投稿のため、いつも以上にテンポが悪いですが、もしよければ梢のおっとりまったりわちゃわちゃにおつき合いくださいませ~
***
親友の弟、勝くんと晴れて恋人同士になった後、さして間を開けず連れて行かれたのはジュエリーショップだった。
勝くんは「気に入らなかったら買い換えてもいいよ」と相変わらずの甘い笑顔で言ってくれたけれど、まがりなりにもダイヤモンドが乗ったプラチナリング。ブランドものを選ばなくても値段としては相当のもので、「とりあえず」なんて気持ちでは選べない。
もう四十にも近い歳で「いかにも」な指輪も恥ずかしいし、「いつも身に着けられそうなものにしてね」という勝くんの言葉もあって、小さなダイヤが三つ並んだ、オシャレなデザインのものを買ってもらった。
お店は勝くんの勤める百貨店の中の一つで、マネージャーさんみたいな人にも挨拶されて、冷やかしのような視線も感じた。店員さんも顔見知りだそうなのに、勝くんは購入した指輪をひょいとつまみ上げると、当然のように私の左手に手を添え、薬指にはめた。
「他の男には近づかせないから」
軽くウインク付きで向けられたちょっとたれ目がちなその目は私しか写していなくて、あまりの視線の甘さに耐えられず周りを見たけれど、店員さんたちの視線に気づいて真っ赤になってうつむいた。そんな私を見てもなお、勝くんは軽やかに笑って私の肩を引き寄せ、「ほんと、可愛いなぁ」なんて耳元で囁くもんだから……もうしばらくはこの百貨店にお邪魔できない、と消え入りたくなったくらいだ。
他の男なんて、近づいてこないよ。
私のこと、可愛いなんて言ってくれるのは勝くんくらいなもんだよ。
何度もそう言うのだけど、「梢ちゃんは無自覚すぎるんだよ」と言うばかりで、勝くんはマトモに取り合ってくれない。
……なんてことを、彼の姉であるみっちーに話したら、「いっちょ前に惚気るわねー」と爆笑されたので、他の人には話していないけど。
***
アルコールが入っていても、真冬の空気は肌を刺す。
マフラーで口元を隠して足早に歩いているうち、家にぼんやりと灯った明かりが見えて自然と笑顔が浮かんだ。
「ただいまぁ」
鍵を開けて玄関を開けると、暖房のぬくもりがふわりと身体を包んでくれる。
そして同時に、鼻先に届く彼の匂い。
暦通りの仕事の私とサービス業の彼はなかなか都合が合わない。彼は今日が早番、明日は休みだから、少しでも一緒に過ごせるようにと泊まりに来てくれたのだ。
「おかえり、梢ちゃん」
カジュアルスタイルで髪を下した勝くんは、いつもよりも少し幼く見える。私をゆうに包み込んでくれる体躯に抱き着きたい衝動をこらえて、自然と浮かぶ笑顔のまま微笑み返した。
「暗いから、迎えに行ったのに」
「でも、寒いし、悪いよ」
「そんなこと言って、何かあってからじゃ遅いんだよ」
お小言が始まりそうな気配を察して口を閉ざす。コートを脱いでマフラーを解いて……なんてやっていると、勝くんは自然な動きでそれを手伝ってくれる。百貨店の外商さんだと、お得意様をエスコートすることもあるんだろう。こんなことが自然にできる男の人なんてつき合ったことがないから、いまだにドキドキしてしまう。
「あ、ありがと……」
「どういたしまして」
おずおずと見上げてお礼を言うと、返事の直後にキスが降りてきた。びっくりしてぎゅっと目をつぶったときにはもう離れていて、くすりと優しい笑い声。
「唇、冷たいね。お風呂沸いてるから、入っておいで」
ほとんど囁きに近い言葉。息がかかるほどの至近距離で微笑まれると、瞬時に体温が上がってしまう。年齢差の割に恋愛経験が比例してないから仕方ないのだけど、彼には翻弄されてばっかりだ。
「うん……入ってくる。ありがとう」
私がするりと離れると、勝くんがそっと私の左手を撫でた。
正確には、その薬指にはまっている指輪を。
「……ちゃんと、着けてるよ」
「うん、ありがとう。安心した」
笑った勝くんの顔は少し照れ臭そうで、ちょっとだけ幼く見えた。胸がきゅんとして、思わずその手に持った私のコートごと、彼の身体を抱きしめる。
「こ、梢ちゃん?」
「うん……」
珍しくうろたえる勝くんの声に応じながら、内心で葛藤する。
言う、べきか、言わざる、べきか。
このお誘いは、吉か、凶か。
……ええいっ。
「あっ、あの、お風呂、一緒に入らない?」
どうにか口にしたけれど、自分の顔がこれ以上にないほど真っ赤で、言葉を失った彼の顔なんてとても見られなかった。
***
親友の弟、勝くんと晴れて恋人同士になった後、さして間を開けず連れて行かれたのはジュエリーショップだった。
勝くんは「気に入らなかったら買い換えてもいいよ」と相変わらずの甘い笑顔で言ってくれたけれど、まがりなりにもダイヤモンドが乗ったプラチナリング。ブランドものを選ばなくても値段としては相当のもので、「とりあえず」なんて気持ちでは選べない。
もう四十にも近い歳で「いかにも」な指輪も恥ずかしいし、「いつも身に着けられそうなものにしてね」という勝くんの言葉もあって、小さなダイヤが三つ並んだ、オシャレなデザインのものを買ってもらった。
お店は勝くんの勤める百貨店の中の一つで、マネージャーさんみたいな人にも挨拶されて、冷やかしのような視線も感じた。店員さんも顔見知りだそうなのに、勝くんは購入した指輪をひょいとつまみ上げると、当然のように私の左手に手を添え、薬指にはめた。
「他の男には近づかせないから」
軽くウインク付きで向けられたちょっとたれ目がちなその目は私しか写していなくて、あまりの視線の甘さに耐えられず周りを見たけれど、店員さんたちの視線に気づいて真っ赤になってうつむいた。そんな私を見てもなお、勝くんは軽やかに笑って私の肩を引き寄せ、「ほんと、可愛いなぁ」なんて耳元で囁くもんだから……もうしばらくはこの百貨店にお邪魔できない、と消え入りたくなったくらいだ。
他の男なんて、近づいてこないよ。
私のこと、可愛いなんて言ってくれるのは勝くんくらいなもんだよ。
何度もそう言うのだけど、「梢ちゃんは無自覚すぎるんだよ」と言うばかりで、勝くんはマトモに取り合ってくれない。
……なんてことを、彼の姉であるみっちーに話したら、「いっちょ前に惚気るわねー」と爆笑されたので、他の人には話していないけど。
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アルコールが入っていても、真冬の空気は肌を刺す。
マフラーで口元を隠して足早に歩いているうち、家にぼんやりと灯った明かりが見えて自然と笑顔が浮かんだ。
「ただいまぁ」
鍵を開けて玄関を開けると、暖房のぬくもりがふわりと身体を包んでくれる。
そして同時に、鼻先に届く彼の匂い。
暦通りの仕事の私とサービス業の彼はなかなか都合が合わない。彼は今日が早番、明日は休みだから、少しでも一緒に過ごせるようにと泊まりに来てくれたのだ。
「おかえり、梢ちゃん」
カジュアルスタイルで髪を下した勝くんは、いつもよりも少し幼く見える。私をゆうに包み込んでくれる体躯に抱き着きたい衝動をこらえて、自然と浮かぶ笑顔のまま微笑み返した。
「暗いから、迎えに行ったのに」
「でも、寒いし、悪いよ」
「そんなこと言って、何かあってからじゃ遅いんだよ」
お小言が始まりそうな気配を察して口を閉ざす。コートを脱いでマフラーを解いて……なんてやっていると、勝くんは自然な動きでそれを手伝ってくれる。百貨店の外商さんだと、お得意様をエスコートすることもあるんだろう。こんなことが自然にできる男の人なんてつき合ったことがないから、いまだにドキドキしてしまう。
「あ、ありがと……」
「どういたしまして」
おずおずと見上げてお礼を言うと、返事の直後にキスが降りてきた。びっくりしてぎゅっと目をつぶったときにはもう離れていて、くすりと優しい笑い声。
「唇、冷たいね。お風呂沸いてるから、入っておいで」
ほとんど囁きに近い言葉。息がかかるほどの至近距離で微笑まれると、瞬時に体温が上がってしまう。年齢差の割に恋愛経験が比例してないから仕方ないのだけど、彼には翻弄されてばっかりだ。
「うん……入ってくる。ありがとう」
私がするりと離れると、勝くんがそっと私の左手を撫でた。
正確には、その薬指にはまっている指輪を。
「……ちゃんと、着けてるよ」
「うん、ありがとう。安心した」
笑った勝くんの顔は少し照れ臭そうで、ちょっとだけ幼く見えた。胸がきゅんとして、思わずその手に持った私のコートごと、彼の身体を抱きしめる。
「こ、梢ちゃん?」
「うん……」
珍しくうろたえる勝くんの声に応じながら、内心で葛藤する。
言う、べきか、言わざる、べきか。
このお誘いは、吉か、凶か。
……ええいっ。
「あっ、あの、お風呂、一緒に入らない?」
どうにか口にしたけれど、自分の顔がこれ以上にないほど真っ赤で、言葉を失った彼の顔なんてとても見られなかった。
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