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後日談1 天然系彼女が愛し過ぎる件(勝弘視点)
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「梢ちゃん。俺、さ来週一週間連休なんだけど」
彼女の家で夕飯を摂りながら言うと、梢ちゃんはまばたきして頷いた。
「そうなんだ」
「うん」
頷きながら苦笑する。きっとこれから俺が何を言おうとしているのか、全然伝わってない。
「それでね」
「うん」
梢ちゃんは食事の手を止めて、ちゃんと向き合ってくれた。
話を聞くときは手を止めて……そんなコミュニケーションの基本。
どうも当人は無意識らしいのだけれど、そういうきちんとしたところが、すごく好感が持てる。
「……指輪、見に行かない?」
梢ちゃんの動きが止まった。
あれ? 動揺してる……?
「梢ちゃん……?」
俺が問うと、梢ちゃんはとたんに顔を赤くしてあわあわし始めた。
「あ、あの、え、えと、ゆび、ゆび……わ?」
……いや、え? 今さら?
だって、したじゃん、プロポーズ。
返品不可って……梢ちゃんも言ってたじゃん。泣きそうな顔しながら。
もしかして冗談だと思われてたわけ?
内心混乱しながらも、じっと彼女の表情を見つめる。その感情の起伏を見逃すまいとしながら、態度だけは悠々と微笑んで見せた。
「うん。せっかくだから、梢ちゃんが気に入ってくれるデザインがいいなと思って」
言うと、梢ちゃんの動きが止まった。泳がせていた目を俺に向け、困ったような、戸惑ったような目で見つめて来る。その目がだんだんと潤んできたと思ったら、うつむいて手で覆ってしまった。
「……梢ちゃん?」
「ご、ごめん、ごめんね」
梢ちゃんは言いながら、ぐすんと鼻をすする。俺は内心ドキドキしながら、言葉の続きを待った。
「だって、まだ……こうやって2人でご飯食べてるだけでも、夢みたいだなって思うのに……ほんとにそんなこと、思ってくれてるんだって……思ったら、嬉しくて……」
梢ちゃんは照れ臭そうに笑いながら、指先で目を拭う。その表情にぎゅっと胸が締め付けられて、こたつの向こうにいる彼女を抱きしめたくなる。
「ありがとう、嬉しい。……でも、勝くん、無理してない?」
「無理?」
「私が、オバチャンだから……気にしてくれてるんじゃないかなって、思って」
俺はなんとなくむっとして、唇を引き結んだ。
確かに彼女の年齢と、結婚を焦る気持ちに関連がないわけじゃない。でも、それだけではない。とにかく早く、彼女の配偶者として位置したい。というか、
「……梢ちゃんにセクハラされるのとか、俺、耐えられない」
俺が言うと、梢ちゃんは意味をとらえかねたようにまばたきした。
旧態然としたゼネコン系の会社に事務職として勤める彼女は、日々、セクハラ紛いな言葉を言われて過ごしているらしい。よくある「結婚はまだか」から、「俺の愛人にでもなるか」という言葉まで。
果ては、飲み会での多少のおさわりは笑って流しているようだ。それとなーく聞いてみれば、「若い子たちが触られるのは可愛そうだから」とぽろりと本音を漏らしていた。
自分を! ちゃんと! 守ってくれ!
肩を揺さぶり叫びたい気持ちは山々だったが、それとて彼女が悪いわけではない。気の優しい彼女のことだ、そんなことをすれば「勝くんが怒るから言うのはやめておこう」となるだけで、根本的解決にならない。というかむしろ、俺が把握できない分、状況としては悪化する。
そう思ったとき、彼女の身を守る一つの手段として思いつくのが、指輪であり、結婚なのだった。女と見れば誰彼構わず手を握るようなゲス共に対して、「この女に手ェ出すな」と牽制する手段の一つとして。
同時に俺が期待するのは、彼女自身の意識変化だ。左手に輝くそれを見て、俺のことを思い出してくれればいいな、と思うのだ。自分を大切に想う男がいることを思い出してくれれば。ベストなのはそこで「やめてください」と言う勇気を出してくれることだけど……まあそこまで求めるのは酷だろう。
で、今年の新年会は、月末にある予定らしい。忘年会も新年会もする必要あんのか、と思わなくもないが、そういう文化なようだから仕方ない。
そこまでに指輪が準備できるかどうか。
仮でもいいから何かつけさせたいところだ。
「勝くん?」
声をかけられて我に返る。
不思議そうに俺を見つめる梢ちゃんの目に、苦笑を返す。
「結婚決まりました、って言えば、愛人だのなんだの言われないでしょ」
梢ちゃんは数度まばたきして、気弱な笑顔を浮かべた。
「なんか……悔しいな」
うつむいて、止めていた手を動かし、食事を再開する。
「私の方が6つも年上なのに、勝くんに心配されてばっかり」
箸を運ぶ梢ちゃんの唇の中心は少し尖っていたけど、端は引き上がっていて、頬には朱が載っていた。
ああ……抱きしめたい。
思いながらも食事中だからと自制する。つい暴走しそうになる自分に呆れた。
幸せにしたい。ずっと隣にいたい。心底そう思える女性に出会った俺こそ、幸せな男なのだろうと思う。
「梢ちゃん、明日の予定は?」
「ん? 土曜だから休みだけど」
「それは知ってるけど。……朝から予定あったりする?」
俺がにこにこしながら言うと、梢ちゃんは意図を察して頬をますます赤くした。
「……特には、ナイデス」
控えめなボリュームの返事に、俺は「それはよかった」と笑顔を返した。
彼女の家で夕飯を摂りながら言うと、梢ちゃんはまばたきして頷いた。
「そうなんだ」
「うん」
頷きながら苦笑する。きっとこれから俺が何を言おうとしているのか、全然伝わってない。
「それでね」
「うん」
梢ちゃんは食事の手を止めて、ちゃんと向き合ってくれた。
話を聞くときは手を止めて……そんなコミュニケーションの基本。
どうも当人は無意識らしいのだけれど、そういうきちんとしたところが、すごく好感が持てる。
「……指輪、見に行かない?」
梢ちゃんの動きが止まった。
あれ? 動揺してる……?
「梢ちゃん……?」
俺が問うと、梢ちゃんはとたんに顔を赤くしてあわあわし始めた。
「あ、あの、え、えと、ゆび、ゆび……わ?」
……いや、え? 今さら?
だって、したじゃん、プロポーズ。
返品不可って……梢ちゃんも言ってたじゃん。泣きそうな顔しながら。
もしかして冗談だと思われてたわけ?
内心混乱しながらも、じっと彼女の表情を見つめる。その感情の起伏を見逃すまいとしながら、態度だけは悠々と微笑んで見せた。
「うん。せっかくだから、梢ちゃんが気に入ってくれるデザインがいいなと思って」
言うと、梢ちゃんの動きが止まった。泳がせていた目を俺に向け、困ったような、戸惑ったような目で見つめて来る。その目がだんだんと潤んできたと思ったら、うつむいて手で覆ってしまった。
「……梢ちゃん?」
「ご、ごめん、ごめんね」
梢ちゃんは言いながら、ぐすんと鼻をすする。俺は内心ドキドキしながら、言葉の続きを待った。
「だって、まだ……こうやって2人でご飯食べてるだけでも、夢みたいだなって思うのに……ほんとにそんなこと、思ってくれてるんだって……思ったら、嬉しくて……」
梢ちゃんは照れ臭そうに笑いながら、指先で目を拭う。その表情にぎゅっと胸が締め付けられて、こたつの向こうにいる彼女を抱きしめたくなる。
「ありがとう、嬉しい。……でも、勝くん、無理してない?」
「無理?」
「私が、オバチャンだから……気にしてくれてるんじゃないかなって、思って」
俺はなんとなくむっとして、唇を引き結んだ。
確かに彼女の年齢と、結婚を焦る気持ちに関連がないわけじゃない。でも、それだけではない。とにかく早く、彼女の配偶者として位置したい。というか、
「……梢ちゃんにセクハラされるのとか、俺、耐えられない」
俺が言うと、梢ちゃんは意味をとらえかねたようにまばたきした。
旧態然としたゼネコン系の会社に事務職として勤める彼女は、日々、セクハラ紛いな言葉を言われて過ごしているらしい。よくある「結婚はまだか」から、「俺の愛人にでもなるか」という言葉まで。
果ては、飲み会での多少のおさわりは笑って流しているようだ。それとなーく聞いてみれば、「若い子たちが触られるのは可愛そうだから」とぽろりと本音を漏らしていた。
自分を! ちゃんと! 守ってくれ!
肩を揺さぶり叫びたい気持ちは山々だったが、それとて彼女が悪いわけではない。気の優しい彼女のことだ、そんなことをすれば「勝くんが怒るから言うのはやめておこう」となるだけで、根本的解決にならない。というかむしろ、俺が把握できない分、状況としては悪化する。
そう思ったとき、彼女の身を守る一つの手段として思いつくのが、指輪であり、結婚なのだった。女と見れば誰彼構わず手を握るようなゲス共に対して、「この女に手ェ出すな」と牽制する手段の一つとして。
同時に俺が期待するのは、彼女自身の意識変化だ。左手に輝くそれを見て、俺のことを思い出してくれればいいな、と思うのだ。自分を大切に想う男がいることを思い出してくれれば。ベストなのはそこで「やめてください」と言う勇気を出してくれることだけど……まあそこまで求めるのは酷だろう。
で、今年の新年会は、月末にある予定らしい。忘年会も新年会もする必要あんのか、と思わなくもないが、そういう文化なようだから仕方ない。
そこまでに指輪が準備できるかどうか。
仮でもいいから何かつけさせたいところだ。
「勝くん?」
声をかけられて我に返る。
不思議そうに俺を見つめる梢ちゃんの目に、苦笑を返す。
「結婚決まりました、って言えば、愛人だのなんだの言われないでしょ」
梢ちゃんは数度まばたきして、気弱な笑顔を浮かべた。
「なんか……悔しいな」
うつむいて、止めていた手を動かし、食事を再開する。
「私の方が6つも年上なのに、勝くんに心配されてばっかり」
箸を運ぶ梢ちゃんの唇の中心は少し尖っていたけど、端は引き上がっていて、頬には朱が載っていた。
ああ……抱きしめたい。
思いながらも食事中だからと自制する。つい暴走しそうになる自分に呆れた。
幸せにしたい。ずっと隣にいたい。心底そう思える女性に出会った俺こそ、幸せな男なのだろうと思う。
「梢ちゃん、明日の予定は?」
「ん? 土曜だから休みだけど」
「それは知ってるけど。……朝から予定あったりする?」
俺がにこにこしながら言うと、梢ちゃんは意図を察して頬をますます赤くした。
「……特には、ナイデス」
控えめなボリュームの返事に、俺は「それはよかった」と笑顔を返した。
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