五月病の処方箋

松丹子

文字の大きさ
上 下
53 / 66

53

しおりを挟む
 椿希の舌が玲子の口内を犯し、どちらのものと分からない唾液が顎へと落ちた。椿希はそれを追うように舌を這わせ、玲子の首筋を舐める。
 舌先が鎖骨のくぼみまでたどりついたとき、そこを強く吸い上げた。ぴり、と走った痛みに、玲子が声にならない声をあげる。
「見えるところにつけちゃった」
 椿希がにやりとして玲子の目を覗き込んだ。玲子は眉を寄せてにらみ返すが、潤んだその目では意味もないだろうと自覚はある。
 案の定、椿希は楽しそうに笑った。
「多田野さんになんてあげない」
 露出した首もとに唇を這わせ、ときどき吸い上げながら、椿希は服の裾から手をさし入れる。その手が背中に回ったとき、下着が浮いて玲子の胸が開放された。一方の手を背に置いたまま、もう一方の手で胸の頂きをつまみ上げる。玲子は声をあげそうになって唇を引き結んだ。
 その唇を、椿希の舌先がねじ開ける。
 水音を立てながら再び濃厚なキスが始まった。背中の手はゆるゆると背中から腰を上下し、もう一方の手は胸を弄ぶ。
 唇を離すと同時に、椿希が胸の蕾をつまみ上げた。息継ぎのために開いた口から、玲子の嬌声が漏れる。椿希は唾液に濡れた唇を笑みの形に歪ませると、玲子の服をめくりあげて脱がせた。次いで自分の上半身も服を取り払う。
「早く繋がりたい。ーーほら」
 玲子の手を取り、ズボンを押し上げる自分の屹立したそれを触らせる。玲子が何か言おうとしたとき、椿希はその唇をまた塞いだ。玲子の舌を椿希の舌が舐め、吸い、舌で唇を愛撫する。
 椿希は玲子の背中と膝下に手を添え、持ち上げた。身体が急に不安定になり、玲子は慌てて椿希の首に手を回す。それでもキスをやめないので、玲子の方から顔を離した。
「舌、噛んじゃう」
「そうかもね」
 椿希笑う。余裕をなくしかけたその目に、玲子の奥が疼いた。
 椿希は玲子を持ち上げたまま、ベッドへ運んで行く。優しく降ろされてほっとした玲子が椿希の首後ろに回した手を解こうとすると、椿希が腕を押さえた。
「そのまま」
 小さく言って、玲子の胸元へ顔を埋める。一方の乳輪をくるくるとなめ回して吸い上げ、次いでもう一方も同じようにしながら、両手は玲子の腰回りへと伸ばした。
 スカートを脱がせかけて、ふと思い直したようにやめる。
 どうしたのかと玲子が椿希を見やると、椿希はにやりと笑った。
「いっか、脱がさなくて」
 その口調は楽しげだ。
 玲子の文句を唇で塞ぎ、スカートをそのままにショーツを脱がせる。直接あたる布の感触に心細さを覚え、玲子は両膝を擦り付けた。
 椿希はキスを続けながら、玲子の太ももに手を這わせ、その先の茂みへと手を進める。外側にある蕾を優しく撫でると、その下に待つ蜜壺へと指をさし入れた。
 まだほぐされていなかった場所は、それでもくちゅり、と音を立てて椿希の長い指を受け止める。
「もう、こんなに溶けちゃってるの? いやらしい子だね」
 椿希は玲子の耳元で囁いた。一度奥まで挿入した指を、するすると引いていく。
 物足りなさに耐えかね、玲子の腰がわずかに動いた。それを察して椿希が喉の奥で笑う。
「欲しい? 言ってご覧」
 玲子は困惑しながら椿希を見た。その目がややもすると懇願の色を帯びそうになるのを自覚しつつ、椿希の目を見つめる。
 椿希は笑って玲子の唇を舐めた。蜜壺の入口を、玲子の体液で濡れた指先がそろりとなぞる。椿希はまた玲子の耳元に口を寄せた。
「何が欲しいの?」
 その指はゆっくりと、快感の入口を巡回するだけだ。玲子は腰に感じる切なさに、下唇を噛み締めて顔を背けた。椿希がふ、と笑って耳に舌を這わせ、水音を立ててから耳たぶに噛み付く。
 玲子が喉の奥で嬌声を噛み殺すと、椿希は玲子に見せ付けるように、先ほど玲子の中に入った指を舐めとった。羞恥に玲子の頬が赤らむ。
 椿希は笑いながら自分のズボンに手をかけた。それが下ろされると同時に、中で燻っていた椿希自身が勢いよく立ち上がる。玲子は思わず唾を飲み込んだ。ごくり、と喉が音を立てる。
 椿希は先ほど玲子に見せた箱を手に取り、中から避妊具を取り出した。
 それをつけながら、玲子の耳元で問う。
「ね。解さないでしてもいいの?」
 玲子は困惑した目で椿希を見た。
「ちゃんとどうして欲しいか言わないと、俺の好きにしちゃうよ」
 ーー俺の好きに。
 その言葉の持つ乱暴な響きに、玲子の身体を、期待に似た甘い痺れが走った。椿希は目を細めたまま、玲子の様子を見ている。
「ーーいいんだね?」
 言いながら、椿希は熱を持った屹立を玲子の入口へ添えた。それが触れた瞬間、玲子の身体は小さく震え、ふ、と口から息が漏れる。椿希は笑った。
「なんだ、玲子さんも早く欲しいんだ」
 そうと分かると素直に挿れる気が薄れたのか、椿希は男根を手に、また蜜壺の入口を往復する。
 ただそれだけの動きに、玲子の中が愛液を増やし、期待に疼く。
 椿希の先端が蜜壺の上にある蕾をかすると、自然と腰が浮いた。
 椿希は笑う。
「まだ言わないの。ーー強情」
 嘆息しながら、椿希は玲子の入口に自身をあてがった。
「仕方ないなぁ。じゃあ、頷くだけでいいから。ーー欲しい?」
 潤んだ目を覗き込まれて、玲子はこくりと頷いた。
 それと同時に、椿希が玲子を貫く。
「ーーぁっ!」
 いきなり奥まで到達した熱に圧迫されて、玲子は思わず声をあげた。椿希は暴力的にも見える雄々しい笑みで玲子の首筋にキスを落とす。
 首筋に走った痛みは、一気に入口まで引き抜いた椿希の動きに紛れてほとんど感じなかった。
 息をつく間もなく、椿希はまた最奥まで玲子を貫く。
「ちょ、っとーー」
「お仕置きだよ」
 椿希は玲子の膝を持ち上げ、更に奥まで自身を突き立てた。
「俺を心配させたお仕置き」
 ぐりぐりと奥を刺激され、玲子の声が甘さを帯びる。
「多田野さんとキスなんてしたお仕置き」
 また一度引き抜き、刺し貫く。その度に玲子の声が艶を帯びて部屋に響く。
 玲子が口を押さえようとしたが、その手は椿希の手に阻まれ、両手を頭の上で押さえ付けられる。
「ーー玲子、さんっ」
 玲子の手を押さえているのと逆の手は、玲子の膝裏で足を持ち上げたままだ。緩急をつけながら、椿希自身が玲子の中を愛撫する。
 水音はぐちゃぐちゃと部屋に響き、玲子は段々と曖昧になる思考に飲まれた。
「は、ぁ」
 椿希は腰を動かしながら、恍惚とした表情を浮かべる。
「玲子さんの、中、気持ち、い」
 その声が艶を帯びて聞こえ、玲子を煽る。
「は、あ、んっーーあ、はぁ」
 ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅーー
 玲子の世界が、目の前で玲子を感じる椿希だけになったような錯覚を覚えたとき、椿希は玲子に微笑んだ。
「愛してる」
 確信を持った声が耳に響き、玲子の奥底が、ずくり、と甘く痺れる。
 血色を帯びた目尻、潤んだ瞳、汗ばんだ身体、乱れた呼吸、失われた理性ーー
 椿希の微笑みに見て取ったそれら全てが、玲子の心を完全に奪った。
 椿希は玲子を抱きしめた。腰の動きは止めることなく、耳元でうわ言のように囁きを繰り返す。
「愛してるーーう、好きだよ。好きだーーは、ああ、玲子さんっーー玲子さん、っーー」
 玲子の思考は密になり、椿希と繋がる部分から溶け出してしまったようだった。何も考えられないまま、すこしでも椿希の温もりを近くに感じたくてその首に腕を絡める。
「つば、きーー」
 椿希は玲子の両膝を抱えた。
「、くよ、玲子さんっーー」
 奥深くを貫かれ、玲子の甘い声があがる。
「いっぱい、感じてーー俺を、俺だけをっーー」
 強烈なストロークが繰り返される中で、玲子は快感に飲まれ、意識を失った。
しおりを挟む

処理中です...