37 / 100
.7 年の差カップル
37 想いの奔流
しおりを挟む
誰かを愛することは喜び――のはずやのに、膨らんでいく自分の想いを、初めて、怖い、と思った。
自覚すればするほど、コントロールが利かなくなる。叶うものなら礼奈を俺の腕の中に留めて、他の男に見せないようにしたい。礼奈を包むすべてが俺であればいい。礼奈が俺しか見ず、俺にだけ微笑んでくれればいい。
そんなことはあり得ない。そう分かっとるはずやのに、礼奈への想いはときに狂暴に胸を揺さぶる。
礼奈の笑顔を見たとき。嬉しそうに俺の名を呼ぶとき。ヤキモチをやいてすねるとき――礼奈のすべてが、俺の理性を麻痺させる。
これほど強い感情を、今まで持ったことがなかった。どうしても譲れないもの、というのを、持ったことがなかった。幼稚園やなんかのオモチャも、友達が地団駄を踏んでよこせと言えば、仕方ないなと渡してやった。誰かの気分を害してまで、手に入れたいと思ったものは今までなかった。
それなのに。
礼奈が笑う。照れる。怒る。涙する。
「好きだよ」
そう言って俺を見上げる。俺にも同じ言葉を求める。
そのたびに、胸が息苦しいほど揺さぶられる。
もう、手放すことなんてできへん。
礼奈は。
本当に。
一生、俺のそばにいてくれるつもりなんやろうか。
百かゼロか、しかないことに、ここまできてようやく気づいた。
俺の隣に、礼奈がいる将来。それ以外の未来はすべて、暗闇にしか繋がらない。
礼奈がいなければ俺は――闇の中を、生きていくしかない。
***
十一月に会ったとき、礼奈はなんや様子が変やった。紅葉狩りと称した、祖父母との散歩は柔らかな時間で、同時になんとなく切なくて、礼奈の気持ちをかき立てたのかもしれん。
祖父母が昼寝に寝室に行った後、二人で話すのもそこそこに泣き出して、俺にしがみついてきた。
「栄太兄……」
泣きじゃくる礼奈を浮け止め、困惑しながら、俺はうっすらと感じていた。
もしかしたら、礼奈も……俺と同じなのかもしれへんな、て。
空気みたいなもんや。水みたいなもんや。俺にとっての礼奈は、礼奈にとっての俺は、自分の中の一部分で、消えてなくなることはない。なくなるなんて、考えられない。
必死で相手にすがりついてるのは、俺だけやなくて……
「栄太兄」
泣きながら、礼奈が呼ぶ。
「ずっと一緒にいて。一生、一緒にいて」
溢れ出る本音が、その声ににじんでいる。
……ああ、やっぱりや。
喜びとか、安堵とか、そんなもんやなかった。――納得。たぶん、それが一番近い。
他からどう見えるかは分からへん。けど、俺と礼奈はたぶん不可分で、ついこないだまで別々の道を選ぼうとしてたことの方が不自然で、なにも考えなくてもたぶん、結局はここに落ち着いたんや。
そうやろ、礼奈。
「ああ。もちろんや」
悩むことなんて何もない、即答やった。
呼吸するのと同じくらいの自然さで、俺は礼奈の隣を選ぶ。
礼奈は俺の傍にいてくれる。
運命、なんて言葉は好きじゃないけど――
いつだか母さんが言うてた言葉を思い出した。
ほんま、そうやな。母さん。
今なら、その言葉がよく分かる。
どうあがいても引き寄せられる、引力みたいなものが、そこにある。
なぁ、父さん。母さん。ええやろ。
やっぱり、この子や。
この子が、俺の一生そのものや。
そう言うても……ええやろ。
――年末、奈良に帰るとき、一緒に行かへんか。
礼奈に問うと、やっぱり迷いのないうなずきが返ってきた。
好きや。愛してる。そんな言葉なんかどうでもいい。
礼奈。――お前は、俺、そのものや。
自覚すればするほど、コントロールが利かなくなる。叶うものなら礼奈を俺の腕の中に留めて、他の男に見せないようにしたい。礼奈を包むすべてが俺であればいい。礼奈が俺しか見ず、俺にだけ微笑んでくれればいい。
そんなことはあり得ない。そう分かっとるはずやのに、礼奈への想いはときに狂暴に胸を揺さぶる。
礼奈の笑顔を見たとき。嬉しそうに俺の名を呼ぶとき。ヤキモチをやいてすねるとき――礼奈のすべてが、俺の理性を麻痺させる。
これほど強い感情を、今まで持ったことがなかった。どうしても譲れないもの、というのを、持ったことがなかった。幼稚園やなんかのオモチャも、友達が地団駄を踏んでよこせと言えば、仕方ないなと渡してやった。誰かの気分を害してまで、手に入れたいと思ったものは今までなかった。
それなのに。
礼奈が笑う。照れる。怒る。涙する。
「好きだよ」
そう言って俺を見上げる。俺にも同じ言葉を求める。
そのたびに、胸が息苦しいほど揺さぶられる。
もう、手放すことなんてできへん。
礼奈は。
本当に。
一生、俺のそばにいてくれるつもりなんやろうか。
百かゼロか、しかないことに、ここまできてようやく気づいた。
俺の隣に、礼奈がいる将来。それ以外の未来はすべて、暗闇にしか繋がらない。
礼奈がいなければ俺は――闇の中を、生きていくしかない。
***
十一月に会ったとき、礼奈はなんや様子が変やった。紅葉狩りと称した、祖父母との散歩は柔らかな時間で、同時になんとなく切なくて、礼奈の気持ちをかき立てたのかもしれん。
祖父母が昼寝に寝室に行った後、二人で話すのもそこそこに泣き出して、俺にしがみついてきた。
「栄太兄……」
泣きじゃくる礼奈を浮け止め、困惑しながら、俺はうっすらと感じていた。
もしかしたら、礼奈も……俺と同じなのかもしれへんな、て。
空気みたいなもんや。水みたいなもんや。俺にとっての礼奈は、礼奈にとっての俺は、自分の中の一部分で、消えてなくなることはない。なくなるなんて、考えられない。
必死で相手にすがりついてるのは、俺だけやなくて……
「栄太兄」
泣きながら、礼奈が呼ぶ。
「ずっと一緒にいて。一生、一緒にいて」
溢れ出る本音が、その声ににじんでいる。
……ああ、やっぱりや。
喜びとか、安堵とか、そんなもんやなかった。――納得。たぶん、それが一番近い。
他からどう見えるかは分からへん。けど、俺と礼奈はたぶん不可分で、ついこないだまで別々の道を選ぼうとしてたことの方が不自然で、なにも考えなくてもたぶん、結局はここに落ち着いたんや。
そうやろ、礼奈。
「ああ。もちろんや」
悩むことなんて何もない、即答やった。
呼吸するのと同じくらいの自然さで、俺は礼奈の隣を選ぶ。
礼奈は俺の傍にいてくれる。
運命、なんて言葉は好きじゃないけど――
いつだか母さんが言うてた言葉を思い出した。
ほんま、そうやな。母さん。
今なら、その言葉がよく分かる。
どうあがいても引き寄せられる、引力みたいなものが、そこにある。
なぁ、父さん。母さん。ええやろ。
やっぱり、この子や。
この子が、俺の一生そのものや。
そう言うても……ええやろ。
――年末、奈良に帰るとき、一緒に行かへんか。
礼奈に問うと、やっぱり迷いのないうなずきが返ってきた。
好きや。愛してる。そんな言葉なんかどうでもいい。
礼奈。――お前は、俺、そのものや。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
国王陛下は悪役令嬢の子宮で溺れる
一ノ瀬 彩音
恋愛
「俺様」なイケメン国王陛下。彼は自分の婚約者である悪役令嬢・エリザベッタを愛していた。
そんな時、謎の男から『エリザベッタを妊娠させる薬』を受け取る。
それを使って彼女を孕ませる事に成功したのだが──まさかの展開!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
入れ替わった花嫁は元団長騎士様の溺愛に溺れまくる
九日
恋愛
仕事に行こうとして階段から落ちた『かな』。
病院かと思ったそこは、物語の中のような煌びやかな貴族世界だった。
——って、いきなり結婚式を挙げるって言われても、私もう新婚だし16歳どころかアラサーですけど……
転んで目覚めたら外見は同じ別人になっていた!?
しかも相手は国宝級イケメンの領主様!?
アラサーに16歳演じろとか、どんな羞恥プレイですかぁぁぁ———
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる