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.第6章 大学1年、前期

144 ゴールデンウィークの予定

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 その日は夕方からバイトだった。
 16時半から、各テナントが閉まる直前の20時半まで。場合によっては21時までお願いされることもあるらしいけど、それはクリスマス前とか、バレンタインデーの頃とかだそうだから、まだ経験してはいない。
 仕事は商品棚の整理とレジが中心。ファッション雑貨や文具などを売っているセレクトショップで、関東中心に事業展開している会社だ。
 ややアンティークな雰囲気の商品棚は、仕事中に眺めているだけでテンションが上がる。社割も利くから、と言われているので、せっかく稼いでもバイト先で使ってしまいそうな気がしている。

「橘さん、ゴールデンウィークのシフトだけど。ほんとにこっちの都合で決めちゃっていい?」
「あ、はい」

 社員は店長と副店長だけで、あとはみんなバイトだ。バイトは全員合わせて5人いるらしいけれど、まだ1人しか会ったことはない。
 大学3、4年生になると就活や研究で来られなくなるから、そろそろ新しい子をーーと求人を出したらしい。
 平日は2~3人体制が基本だけど、連休中は最低3人、できれば4人体制でシフトを組むと聞いている。
 慣れるためにも、私は率先して出るつもりでいた。

「出かける予定とかないの?」
「いえ、別にないので大丈夫です」
「そう」

 答えた後で、ふと頭をよぎったのは慶次郎の顔だった。
 デート……なんて、本気なのかな。
 結局、そんな言葉を口にしただけで、具体的には何の話もなかったから、気にするのも無駄だろう。
 その日のうちに渡されたシフトは、案の定シフトがびっしりだった。
 丸一日出る日が多かったけれど、半日の日もある。とはいえ、連休中はずっと、昼か夕方のどちらかは出る形だ。
 でも、まあいいか。
 バイト先の近くは映画もあるし、ウィンドウショッピングする店にも事欠かない。受験でぶらつかなかった間にテナントの入れかえなんかもあったから、この機会にぶらついてもいいかも。
 ーーなんて思いながら帰宅したのだけど。

「あ、礼奈。今回、母の日早めにやることになったから。子どもの日に集まるよ」

 駅で合流して一緒に帰ってきた母は、向き合って夕飯を食べ始めたとき、さらっと言った。
 私は思わず「えええええ!?」と眉を寄せた。

「そういうの、もっと早く言ってよー!」
「ごめーん。今日決まったから」
「隼人の連絡待ちだったんだ」

 父がハイボール片手に苦笑する。
 私はがっくりうなだれた。

「もー。今日、シフト入れていいかって聞かれたから入れてもらっちゃったよ」
「じゃあ、礼奈は今回もパスか」
「むむぅー」

 唇を尖らせながら、父特製のぶり照りを口に運ぶ。
 うむ。今日も美味しい。

「あ、そうだ。じゃあ、ことづててもいい?」
「ことづて? 何を?」
「おじいちゃんとおばあちゃんに、プレゼント。お店、かわいいものがいっぱいあってさー。はやく誰かに買いたくて」

 私が目を輝かせると、父と母は顔を見合わせて笑った。

「礼奈らしいな」
「もちろん、いいわよ。喜ぶと思う」
「やった」

 私は笑って、何にしようか考える。
 箸置きもかわいいけど、ペアカップもいいなぁ。渡したときの反応が見られないのは残念だけど、二人で使ってくれると嬉しいな。

「そういえば、お兄ちゃんたちはどうするの?」
「悠人は試験勉強だからやめておくって。健人はどうかな、来るんじゃないかな」

 試験とは、たぶん消防士になる試験だろう。6月にあるというその試験は、体力テストも筆記テストもあるそうだ。おかげで、最近ますますトレーニングに気合が入っている。

「翔太くんたちは?」
「どうだろうな」

 首を傾げる父を見て、そういえば、翔太くんはもう大学を卒業したのだと思い出した。

「翔太くん、院受かったんだっけ」
「そうそう。だから、余計研究室に入り浸ってるらしいよ」
「翔太くんらしいね」

 容易に想像できて笑ってしまう。興味ないことは徹底して興味ないけれど、これというものには全力を尽くすたちだ。妹の朝子ちゃんもよく呆れていた。

「栄太郎も今回は絶対来るって言ってたけど……礼奈が来ないなら、残念がるだろうな」

 父に意味ありげな視線を送られて、うっと言葉が喉に詰まる。
 母が不思議そうな顔をした。

「栄太郎くんといえば、何なの? こないだの花見のときとか、意味ありげなこと言ってた気がするけど……悠人に聞いても知らないって言うし」
「な、何でもない。何でもないっ」
「ははははは」

 慌てて手を振る私に、父が笑う。

「ま、おいおいな。ーーだろ、礼奈」

 私は何とも言い返せず、ごはんを口に運んだ。
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